06
八幡克太は、いつものコースである、古本屋、喫茶店、図書館と逍遥を終えた。
日は既に暮れ、飲み屋の客引きの声が甲高く街に木霊する。
克太は古本屋で買った数冊の本を片手に抱えて夕方の街を闊歩した。
人は芋洗い状態に増え、仕事を終えた者、学校を終えた者たちの祝祭的な雰囲気に街は染まった。
克太は早くこの中心街から離れたい気持ちから足取りを速めた。
――どいつもこいつも飲みに行くって雰囲気だな…。畜生。
克太はぶつけどころの無い苛立ちを積もらせていた。
また、この人混みが苛立ちを加速させた。
克太が足早に歩いていると、
「あの、もし…」
と、声を掛けてくる女に捕まった。
克太はちらりとその女に視線を向けた。
スーツ姿にタブレット、きっとなにかの勧誘かアンケートだろう、と克太は思った。
克太は顔を向けもせずすたすたと無視して歩き続けた。
克太の横顔を見た女は、
「あっ!」
と、声を上げて、タブレットと克太の横顔を見比べた。
それから、克太に並んで歩き始めて、必死に声を掛ける。
「あのっ、待ってください!もしかして、あなたは…」
克太は聞く耳持たずといったように徹底して無視して歩き続けた。
スーツ姿の女は、克太の歩幅についていけなくなって段々と距離を離されていく。
「あの!待ってください。お願いだから…」
女の声が弱弱しく響くも、克太の耳にはもう入ってこなかった。
女は諦めたように歩みを止めて、克太の背中が人混みの中に消えていくのを呆然と見詰めていた。