05
――人、人、人。
(こんな沢山の人間、初めて見たわ…)
中心街のスクランブル交差点を前に、一人の女子が立ち尽くしている。
肩まである栗色の髪をふわふわと揺らしながら、気弱そうな面持ちでいる。
幼い顔つきに、スーツといういで立ちは、就活生を思わせた。
ちょこんと、つむじから跳ねている癖毛だけが人混みから飛び出ている。
その女子は胸に両手を当て、火照った頬を晒しながら、辺りをきょろきょろと見回している。
そうしているうちに、交差点の信号が青に変わる。
矢庭に信号を待っていた人たちが一つの黒い塊となって動きだした。
それでも、その癖毛の女子は立ち尽くしたまま、きょどきょどしている。
そんな癖毛の女子を邪魔そうに一瞥して避けていく人々。
「きゃっ」
サラリーマン風の男の肩が癖毛の女子にぶつかる。
癖毛の女子は慌てて、その男に振り向いて、
「あっあ、ごめんなさい」
と、ぺこぺこ謝る。
男は気にする様子もなくすたすたと歩き去って行く。
人の波は留まることなく、癖毛の女子を避けて流れていく。
癖毛の女子は遠近と動いて、人々に声を掛け始めた。
「あ、あの…もし。人を探しているのですが…」
誰一人として、癖毛の女子の言葉に反応する人間はいなかった。
癖毛の女子は、巨大な人の流れに押されて、ずるずると反対側の歩道まではこばれていった。
それでも、癖毛の女子は通行人に尋ねるのをやめはしなかった。
「あの…人を探しているのですが…」
変わらず、反応する人間はいなかった。
しばらく、努力して尋ね続けていたが、そのうち段々と語勢は弱くなっていった。
「あの…」
声は消え入るような小ささになっていた。
癖毛の女子は、尋ねるのをやめて、肩に掛けていたバッグからタブレットを取り出す。
食い入るように癖毛の女子はタブレットに顔を近づけて、
「こんなのわかんないよぉ…」
と、涙液で潤んだ瞳を瞬かせた。
タブレットには、
〈○○区○○町xxxのxx八幡克太〉と、顔写真と共に表示されていた。