03
昼食とも朝食ともつかない食事を終えた克太は、特にこれといった目的もなく外に繰り出した。それは克太にとっていつもの行動だった。
一張羅のナイロンジャケットを羽織り、寝ぐせを直すのが面倒なので帽子を被った。克太のいつもの恰好だった。
食事を終えた洗い物はそのままに、アパートのカギを閉め、克太は街に向かった。
克太は空を見上げ、目を細めた。快晴だった。
春らしい甘い香りのする乾燥した風が克太を撫でる。
先ほどまでの克太の硬くしこった心が少しだけ氷解した。
克太のアパートは最寄りの駅まで行くのに五分掛かる。
道路に面した克太のアパートの前には、無断駐輪した自電車がひしめいていた。
克太はそれを一瞥すると、ナイロンジャケットのポケットに手を突っ込んで、駅へとのろのろとした足取りで向かった。
平日の昼下がりだということもあって、駅まで続く緑道には通行人が少なかった。
街路樹からの木洩れ日がちろちろと克太を照らす。
克太は俯いて、考え事をしながら歩いていた。
――これからどうするか、これからなんだ!
もう二十代も後半、今が瀬戸際なんだ…。
なにか俺にしかできないことがあるはずなんだ。
「俺にだって…俺にだってなにか特別なことが…」
すれ違った主婦とおぼしき女性が訝しげに視線を克太に向けていた。
克太はぶつぶつと考えが声になって漏れていることに気がついて、はっと顔を上げた。
克太は少しだけ顔を赤らめ、ぼりぼりと頭を掻いてとぼけた。
その女性がすれ違い離れていったのを確認して、また克太は思惟に耽った。
克太は苛立たし気に、歩みを強めた。
――あの視線!俺が何をしたっていうんだ。はなから俺を不審者として決めつけたような眼!俺には物思いに耽りながら緑道を散歩することも赦されないのか!
克太はふつふつ感情が昂っていくのを感じ、あわててその感情を抑え込んだ。
――駄目だ、また興奮してしまった。どうして俺はすぐにこうやって…!
克太は緑道に備えられたベンチに座って、息を深く吸った。
薫風が克太の身体に満ちる。克太は大きく息を吐いた。
それを何回か繰り返してから、
「はぁ、よし行くか」
と、克太は重い腰をゆっくりとあげる。
先ほどまでの昂った感情は息を潜めていた。
表情も心なし明るくなっている。
そうしてから、また俯きながら駅に向かって歩き始めた。