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翌日、克太が目を覚ますと、部屋は焦げ臭いにおいで満ちていた。

 克太は、その臭いに気がつくと、ばっと身体を起こして台所に目をやった。

 そこには、フライパンで何かを焦がして慌てているスーツ姿のソフィアがいた。

 「ちょっと、どうしたの!なにがあったの?」

 ソフィアは涙声でそれに答える。

 「ごめんなさいぃ、克太さんの朝食を作ろうと思って…」

 「もういいから、早く火を消して!」

 ソフィアは慌てて火を消した。

 克太はソフィアに駆け寄って、フライパンの中を確認する。

 そこに、真っ黒になった判別不能の塊があった。

 「一体何を作ろうとしてたの…」

 「ごめんなさいぃ…」

 ソフィアはただ、謝る一方だった。

 克太はフライパンの焦げを落として、部屋の窓を開けて換気をした。

 ――炊事関連はやらせないほうがよさそうだな…。

 克太は、涙目になっているソフィアを横目にそう決意した。


 そのあと克太は昼まで布団の上でごろごろして過ごした。

 ソフィアはその間、タブレットを一所懸命にいじくりまわしていた。

 そんなソフィアを様子を見て克太は声をかける。

 「さっきから何してんの?」

 ソフィアはタブレットを置いて克太に向き直る。

 「はい、克太さんの現状を天上界に報告してたんです」

 克太はがばりと体を起こす。

 「報告?俺の現状を?」

 ソフィアはにっこりとして答える。

 「はい。逐一報告する、というわけではないですが。時間がある時にまとめて報告してるんです」

 克太は、嫌そうに顔を顰める。

 「監視されてるみたいで、なんか嫌だなぁ…」

 ソフィアは申し訳なさそうな笑顔で答える。

 「ごめんなさい…。でも、天使の義務なんです」

 「そう…。なら仕方ないけど」

 克太はそう言うとまた布団の上でゴロゴロし始めた。

 そんな克太の様子を見て、ソフィアは心配そうに声を掛ける。

 「克太さん、いつもこんな生活をしてるんですか?もう午後ですよ…」

 克太はムッと眉を寄せて、身体を起こす。

 「人の勝手でしょう。自分の部屋で俺が何をしようと…」

 ソフィアはしゅんと縮こまる。

 「それは、そうですけど…。お仕事とか探しに行かないんですか?」

 克太はそっぽを向きながら答える。

 「行きますよ、気分が向いた時にね」

 「…そうですか」

 それきりソフィアは口を噤んだ。

 ふと、ソフィアのお腹がぐぅと鳴り響く。

 「…克太さん、私、お腹が空きました…。」

 克太は布団から起き上がって、

 「確かに腹減ったなぁ。どっか食べに行くか…」

 と、腹をさすりながら言った。

 「はい!行きましょう」

 「よし、早速出掛けようか!」

 克太は元気良くそう言うと、ソフィアの眼も気にせず寝巻を脱ぎだした。

 「あっ」

 ソフィアは頬を赤らめて、克太から視線をそらした。

 克太は着替えながら、ソフィアに尋ねる。

 「ソフィア、何か食べたいものとかある?」

 ソフィアは顔を背けたまま、克太の質問に答える。

 「はいっ!実は私、行きたい所がありまして…」

 着替えを終えた克太は、スマホと財布をポケットに入れて支度を済ました。

 「よし、じゃあそこに行こうか」

 「はいっ」

 二人は、アパートを後にした。

 

 二人は緑道を歩きながら話を始める。

 「それで、ソフィアが行きたい所ってどこなの?」

 「はい、実は私…ハンバーガーが食べてみたいんです!天上界には無い食べ物でして…。データでか知らない食べ物の一つなんです。人間界に来た絶対一回は行きたいと思ってまして」

 ソフィアは、両手をしっかと握りしめて熱弁した。

 「そうなんだ。ハンバーガーなら近所でも食べれるし、丁度いいかな。この緑道を真っ直ぐ行った所の繁華街に店があるよ」

 「わぁ、そうなんですか。楽しみです」

 ふと、克太は何かを思いだして、両手をぽんと叩いた。

 「あ、そうだ。昨日は疲れて言いそびれたんだけど、ソフィアの服を買わないとね。いつもスーツじゃ疲れるでしょう」

 ソフィアは自分のスーツを見て、困ったような表情で答える。

 「でも私、お金が…」

 「いいよ、服代くらいなら俺だって払えるよ。ただ安いチェーン店の服になるけど…」

 「でも…」

 「いいからいいから。いつもスーツ姿でいられるとこっちも気疲れしちゃうし」

 「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます…」

 「うん、じゃあ昼飯終えたら買いに行こうか」

 「はい、よろしくお願いします」

 二人は足取り軽く、ハンバーガー屋へと向かった。



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