22
翌日、克太が目を覚ますと、部屋は焦げ臭いにおいで満ちていた。
克太は、その臭いに気がつくと、ばっと身体を起こして台所に目をやった。
そこには、フライパンで何かを焦がして慌てているスーツ姿のソフィアがいた。
「ちょっと、どうしたの!なにがあったの?」
ソフィアは涙声でそれに答える。
「ごめんなさいぃ、克太さんの朝食を作ろうと思って…」
「もういいから、早く火を消して!」
ソフィアは慌てて火を消した。
克太はソフィアに駆け寄って、フライパンの中を確認する。
そこに、真っ黒になった判別不能の塊があった。
「一体何を作ろうとしてたの…」
「ごめんなさいぃ…」
ソフィアはただ、謝る一方だった。
克太はフライパンの焦げを落として、部屋の窓を開けて換気をした。
――炊事関連はやらせないほうがよさそうだな…。
克太は、涙目になっているソフィアを横目にそう決意した。
そのあと克太は昼まで布団の上でごろごろして過ごした。
ソフィアはその間、タブレットを一所懸命にいじくりまわしていた。
そんなソフィアを様子を見て克太は声をかける。
「さっきから何してんの?」
ソフィアはタブレットを置いて克太に向き直る。
「はい、克太さんの現状を天上界に報告してたんです」
克太はがばりと体を起こす。
「報告?俺の現状を?」
ソフィアはにっこりとして答える。
「はい。逐一報告する、というわけではないですが。時間がある時にまとめて報告してるんです」
克太は、嫌そうに顔を顰める。
「監視されてるみたいで、なんか嫌だなぁ…」
ソフィアは申し訳なさそうな笑顔で答える。
「ごめんなさい…。でも、天使の義務なんです」
「そう…。なら仕方ないけど」
克太はそう言うとまた布団の上でゴロゴロし始めた。
そんな克太の様子を見て、ソフィアは心配そうに声を掛ける。
「克太さん、いつもこんな生活をしてるんですか?もう午後ですよ…」
克太はムッと眉を寄せて、身体を起こす。
「人の勝手でしょう。自分の部屋で俺が何をしようと…」
ソフィアはしゅんと縮こまる。
「それは、そうですけど…。お仕事とか探しに行かないんですか?」
克太はそっぽを向きながら答える。
「行きますよ、気分が向いた時にね」
「…そうですか」
それきりソフィアは口を噤んだ。
ふと、ソフィアのお腹がぐぅと鳴り響く。
「…克太さん、私、お腹が空きました…。」
克太は布団から起き上がって、
「確かに腹減ったなぁ。どっか食べに行くか…」
と、腹をさすりながら言った。
「はい!行きましょう」
「よし、早速出掛けようか!」
克太は元気良くそう言うと、ソフィアの眼も気にせず寝巻を脱ぎだした。
「あっ」
ソフィアは頬を赤らめて、克太から視線をそらした。
克太は着替えながら、ソフィアに尋ねる。
「ソフィア、何か食べたいものとかある?」
ソフィアは顔を背けたまま、克太の質問に答える。
「はいっ!実は私、行きたい所がありまして…」
着替えを終えた克太は、スマホと財布をポケットに入れて支度を済ました。
「よし、じゃあそこに行こうか」
「はいっ」
二人は、アパートを後にした。
二人は緑道を歩きながら話を始める。
「それで、ソフィアが行きたい所ってどこなの?」
「はい、実は私…ハンバーガーが食べてみたいんです!天上界には無い食べ物でして…。データでか知らない食べ物の一つなんです。人間界に来た絶対一回は行きたいと思ってまして」
ソフィアは、両手をしっかと握りしめて熱弁した。
「そうなんだ。ハンバーガーなら近所でも食べれるし、丁度いいかな。この緑道を真っ直ぐ行った所の繁華街に店があるよ」
「わぁ、そうなんですか。楽しみです」
ふと、克太は何かを思いだして、両手をぽんと叩いた。
「あ、そうだ。昨日は疲れて言いそびれたんだけど、ソフィアの服を買わないとね。いつもスーツじゃ疲れるでしょう」
ソフィアは自分のスーツを見て、困ったような表情で答える。
「でも私、お金が…」
「いいよ、服代くらいなら俺だって払えるよ。ただ安いチェーン店の服になるけど…」
「でも…」
「いいからいいから。いつもスーツ姿でいられるとこっちも気疲れしちゃうし」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます…」
「うん、じゃあ昼飯終えたら買いに行こうか」
「はい、よろしくお願いします」
二人は足取り軽く、ハンバーガー屋へと向かった。




