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それから数時間、三人は飲み屋で過ごした。

 花音とソフィアはすっかり意気投合して、会話を弾ませていた。

 克太はというと、ちびちびとビールを飲みながら、二人の様子を眺めているだけだった。

 ――だから嫌いなんだよ、飲みってのは…。俺のような会話に入れない奴にとっては地獄だよ…。

 会計になると、またもや克太とソフィアは、花音に飲み代を驕ってもらった。

 克太は申し訳なさそうに、頭をぼりぼり掻いて、花音に謝った。

 「ホント悪いね、また驕ってもらっちゃってさ」

 すっかり出来上がった花音は上機嫌で克太に答えた。

 「いいのいいの、無職にお会計させるほど私はお金に困っていないから」

 店の外に出た三人は、溢れかえる人混みの中、立ち止まって話を始めた。

 花音が何かを思い出したように口を開く。

 「あっ、そうだ。連絡先、交換するの忘れてたわ」

 ソフィアがそれに同意する。

 「そうですね、交換しておきましょう」

 三人はそれぞれの連絡先を登録した。

 それから花音は口惜しそうに話を続けた。

 「うーん、ホントは二件目行きたいんだけどねぇ。私、明日仕事だから…ごめんねソフィアちゃん」

 花音はソフィアに抱き着いて言った。

 「いえいえ、そんな。もう充分楽しませて貰いました」

 克太はスマホで時間を確認した。

 「うん、もういい時間だし、ここで解散しようか」

 花音はソフィアから離れて、

 「そうね、そうしましょう」

 と、同意した。

 花音はソフィアのほうを向いて真剣な眼差しで、

 「ソフィアちゃん、一緒に克太君を社会復帰させましょうね!」

 ソフィアはそれに真面目な表情で答える、

 「はい、私、がんばりますっ」

 「うん、うん。私たち、克太君の天使になりましょうね」

 花音は別れを惜しむように、またソフィアに抱き着いた。

 「ソフィアちゃん、また連絡するからね、それじゃあね」

 「はい、花音さん、さようなら」

 花音は酔った足取りで二人のもとを去って行く。

 ふと、花音が振り向いて、克太に叫ぶ。

 「克太君っ!ソフィアちゃんにあんまり迷惑かけちゃ駄目よー」

 「はぁ…」

 克太はため息をついてから、手を振って花音に答えた。

 そしてすぐに、花音はごった返す人混みの中に消えていった。

 

 帰りの電車の中、穂村花音は酔った頭で今日の出来事を振り返った。

 ――今日の飲みは本当に楽しかったな。ホント偶然ってあるものね。電車の遅延にも感謝ね。それにしてもソフィアちゃん、可愛かったな…。ちょっと変なところもあるけど、そこがまた良いわね。そして、克太君にまた会えるなんて…。連絡先も交換したし。見た目は大分、様変わりしちゃってたけど…。

 花音は、人目もはばからず、笑みを漏らした。

 ――ふふっ、克太君の天使か。私も出来る限り協力したいな。また克太君が昔みたいにかっこよくなってくれたら…私…。私、また克太君の事、好きになるのかな?どうなんだろ…。どっちにしろ克太君には社会復帰してもらいたいな。時間が出来たら

ソフィアちゃんと話し合わないとね。ふふ、楽しみだわ。

 花音が色々と考えていると、ふいに眠けが襲ってきた。

 その眠けが花音の意識を奪い去るのにはそう時間がかからなかった。

 寝息を立て始めた花音を、夜の電車は、ぐらぐらと揺らしていた。



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