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表情を曇らせていた花音は、ビールをごくごくと飲んでから、ソフィアのほうを向いて身を乗り出した。

 「さてさて。ソフィアちゃん、あなた克太君とは本当に友達なの?二人で買い物とか怪しいんだけどなぁ…」

 にまにまと笑顔を張り付けてソフィアに尋ねた。

 ソフィアは花音が酔い始めているの察した。

 克太はソフィアが何を言い出すのか心配で、じっとりと汗をかくのを感じた。

 ソフィアはビールのジョッキを両手に抱えながら答える。

 「そうですねぇ…友達というか、もっと特別な関係ですねぇ…」

 途端に花音は、嬌声を上げた。

 「きゃー、やっぱり?なになに二人はつき合っているの?」

 ソフィアは落ち着き払った様子で、

 「いえ、つき合うとかそういうのでは無くてですね…」

 と言って、バッグをがさごそと漁り始めた。

 花音は身を乗り出して、

 「え、なになに。何を見せてくれるの?」

 克太は、(名刺を出すつもりだ…)と、察して脂汗をかいた。

 「私、こういうものでして…」

 そう言ってソフィアは花音に名刺を渡した。

 「えっとなになに〈天使(見習い初年)天塚ソフィア希〉」

 花音は一度読んでから、顔をしかめてもう一度読み直した。

 「天使…見習い…?」

 克太は両手で頭を抱えて俯いた。


 花音は首を傾げて、繰り返した。

 「天使…天使?」

 ソフィアは満面の笑みで花音に答えた。

 「はいっ、私、天使です。まだ見習いですが」

 少し間を置いてから、花音は声を上げて笑いだした。

 「あはは、やっぱり面白いよソフィアちゃんって。こんな名刺どこで作ったの?もしかして不思議ちゃん?」

 「あはは、面白いですか」

 克太はそんな二人の様子をハラハラとしながら見ている。

 花音はひとしきり笑ってから、涙を拭いて、またソフィアに尋ねた。

 「その天使ちゃんは、なんで克太君と一緒にいるのかな?」

 ソフィアは少しの間、考えてから花音に答えた。

 「そうですね…克太さんの運命を良い方向に導く為、ですね」

 花音は両手を組んで、しきりに頷いた。

 「なるほどなるほど、良い方向にね…。確かに今の克太君は無職だし、なんか悪いオーラ出てるからねぇ」

 「えぇ、だから私は克太さんが良い方向に向かう切っ掛けを作っていくのが仕事になりますね」

 「そうかそうか…」

 そう呟きながら、花音は二杯目のビールを頼んだ。

 二杯目のビールはすぐにきて、花音はそれをごくりと飲む。

 それからジョッキを置いて、うんうんと頷いている。

 「うん、うん。わかった!ソフィアちゃんは克太君の天使なんだ!」

 ソフィアはにっこりと笑って花音に答える。

 「はい、そうなりますね」

 今まで黙っていた克太だが、堪えきれなくなって二人の間に口を挟む。

 「この子、ちょっと変わってるから…」と、消え入るような声で言った。

 花音は克太の言葉を聞いて、ムッと頬を膨らました。

 「克太君!君の為に頑張ろうとしてる人に向かって何てことを言うんだ。彼女は君の天使になろうと言ってくれているんだぞ」

 克太はしまった、と思い口を噤んで縮み上がった。

 ――いい方向に誤解してくれているようだ…。変に否定しなほうがよさそうだな。

 克太は黙って二人のやりとりを眺めることにした。

 花音はソフィアに向き直って、がしっと肩を掴んだ。

 「ソフィアちゃんっ!」

 ソフィアは驚いて、目を見開く。

 「は、はいっ」

 花音は表情を鋭くして、ソフィアに顔を近づける。

 「私にも協力させてっ、克太君を更生させるの!」

 ソフィアはそれを待っていた、というようにすかさず返事をした。

 「ええ、勿論です。よろしくお願いします、花音さん」

 「よし、決まりっ!」

 二人はがしっと握手を交わした。

 花音は克太に振り向いて、

 「という訳だからね、克太君!」

 「は、はぁ…」

 克太は内心、(面倒なことになったなぁ)と、文句をたれた。しかし美人の女性二人に面倒を見てもらうのは、正直嬉しかった。

 ソフィアはちらりと克太の方を向いてウィンクした。

 ――克太さん、私の言った通りでしょ。運命は良い方向に向かっていますよ。

 そんなソフィアの気持ちを、知ってから知らずか、克太は不安やら嬉しいやら複雑な表情を浮かべた。


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