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喫茶店を後にした三人は、夕方の混雑した街をはぐれないように固まって歩いていた。

 花音とソフィアが並んで歩いて、その後ろに克太がいる形で飲み屋に向かっていた。

 花音はソフィアとすっかり打ち解けたようで、色々とソフィアに質問をしていた。

 「ソフィアさんってもしかしてハーフとか?だって名前がそうだし」

 花音は、好奇の視線をソフィアに注ぎながら尋ねた。

 ソフィアは一瞬表情を強張らせたものの、すぐに取り繕って笑顔で答えた。

 「ええ、そうですね。混血ですね」

 「やっぱりぃ?そうだよね。その綺麗な栗色の髪の毛も地毛なんだよね。いいなぁ、憧れるなぁ、ハーフって」

 ソフィアは困ったような笑顔で答える。

 「別にそんな…。憧れるようなものじゃないですよ…」

 「えー、そうかなぁ。カッコいいと思うけどなぁ。そうだ、ソフィアちゃんて今お仕事してるの?」

  花音はやたら高いテンションでソフィアに絡んでいく。

  ソフィアはその質問に正直に答えていいかわからず、克太に助けを求める視線を送った。

 克太は慌てて二人の話に口を挟む。

 「花音さん、そういう積もる話は、飲み屋についてからにしましょうよ」

 花音は克太のほうに振り向いて、

 「それも、そうね。お酒が入ったほうが楽しく話せるもんね。私、ソフィアちゃんに色々聞いちゃお」

 と、ふざけてソフィアに抱き着いた。

 「は、わ、わ」

 と、ソフィアは顔を赤らめて、目をぱちくりとさせた。

 克太はそんな二人の様子を見てため息を吐いた。

 ――穂村花音ってこんなキャラだったけか…。うろ覚えだけど、なんかもっとこう、生真面目で神経質なやつだったような。まぁ、何年も会ってないんだ、性格が変わっていてもおかしくないか。

 克太は、きゃいきゃいとはしゃぐ二人の後をとぼとぼとついて行った。



 しばらく歩いてから、花音の目指していた飲み屋に到着した。

 花音は二人の後ろにまわって背中をぐいぐいと押す。

 「ここ、ここ。ささ、二人とも入って入って」

 「わ、わかったから押すなって」

 店に入るとすかさず店員が駆け寄ってくる。

 「いらっしゃいませー!三名様、ご来店でーす」

 三人は店の奥にある個室に案内された。

 花音が二人に話しかける。

 「ここの店、意外と静かに話せるんだよ」

 「へぇー」

 克太は気の無い返事をした。

 ソフィアはきょろきょろと店内を見回す。

 「わぁあ、水槽がありますよ、魚が泳いでますよ」

 ソフィアは目をきらきらと輝かせて水槽に貼りついた。

 そんな様子を花音は不思議そうに見て、

 「ソフィアちゃんって天然系?箱入りお嬢様?」

 と、笑いながら言った。

 個室に着いた三人は上衣を脱いで一息ついた。

 ソフィアと克太が並んで座って、向かいに花音が座った。

 店員がドリンクの注文を訪ねてくる。

 花音はすかさず、

 「生中の人―?」

 と、手を上げて叫んだ。

 克太はしぶしぶといった風に手を上げる。

 ソフィアはきょとんとして、花音を見つめている。

 「なまちゅう?」と首を傾げた。

 克太がすかさず、

 「ソフィアも生中でいいってさ」

 と、花音に告げる。

 克太はソフィアに身体を寄せて、

 「ビールだよビール」

 と、耳打ちした。

 「あぁビールですか」

 ソフィアはこくこくと頷いた。

 注文したビールはすぐに運ばれてきた。

 花音はビールを片手に立ち上がる。

 「えー、それでは私、穂村花音と八幡克太君の再会を祝して…かんぱーい」

 「…乾杯」

 「かんぱーい」

 三人はジョッキをカツンと合わせた。

 花音はごくごくと喉を鳴らしながらビールを流し込んだ。

 克太とソフィアはちびちびと舐めるように飲み始めた。

 「ぷはーっ」

 花音は親父くさく大きく息を吐くと、口についた泡を腕で拭った。

 「はぁー、いい飲みっぷりですねぇ」

 と、ソフィアは嘆息した。

 克太は、(天上界って所でもアルコールはあるのか…)と疑問に思った。

 花音は二口目を飲み終えてから、どんっとジョッキを下ろしてから二人を見据えた。

 「さて、何から話そうかしらね…。そうね克太君はアルバイトしているって言ったけど、どんなところで仕事してるのかしら?」

 克太はぎくりと身体を強張らせた。

 そんな克太にソフィアが近づいて耳打ちする。

 「…正直に話したほうがいいですよ。私も機会を見て自分の事を正直に話します。そうしたほうがうまくいくと私の能力が告げています…」

 花音は二人の様子に少し腹を立てて、

 「こらこら、二人でこそこそ話しないの。ほら、克太君、答えてね」

 克太はビールをこくりと少しだけ飲み込んでから答えた。

 「あぁ、実は今アルバイトもしてないんだ。ちょっと前に都合でやめてね。だから今は無職…」

 花音はさして驚きもせず、しきりに頷いていた。

 「うんうん、やっぱりね!なんとなくそんな気がしていたのよ。だってそのぼさぼさ頭に無精髭でしょ。そりゃ予想もつくわよ」

 「そりゃそうか…」

 克太は苦笑いして、頭をぼりぼりと掻いた。

 花音は三口目をごくごくと飲んでから続けた。

 「それにしても、高校卒業して以来だねぇ。大学いったんだよね、克太君は。経済学部だっけか?」

 「うん、そうだよ。なんも考えずに進学しちゃってね」

 「就活はしたんだ?」

 克太はさも気まずそうに苦々しく答える。

 「いやぁ、なんもしてないんだよね…。内定もなく卒業して、フリーターになって…」

 花音は大きなため息の塊を吐いて、

 「はぁー、やっぱりか。そんなオーラ感じてたんだよね…。根っからフリーターって感じ?そんな気はしてたんだよね」

 克太は少しムッと腹が立ったが、黙ってビールを舐め始めた。

 花音はさも残念そうに俯きながら話を続けた。

 「克太君、小中と輝いてたのにねぇ。剣道も勉強も遊びも頑張っていて…。友達も沢山いてさ。高校ぐらいからだねよね、急に暗くなったの…」

 克太は不満気に花音に答える。

 「それね、よく言われるんだよ…。自分では高校いって変わったなんて自覚はないんだけどね。自分ではずっと同じように過ごして来たつもりだけど」

 「いやぁ、変わったよ。自分では気づかないことなのかもしれないわね…」

 「そうかなぁ…そんなことないと思うけどなぁ…」と、不満げな克太。

  花音はそんなぶつぶつと文句を垂れる克太を見て、(ホント変わっちゃったよ、克太君…。昔はもっと格好良かったのに…私はそんな克太君の事が…)と、心中で呟いた。


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