16
克太とソフィアは二人とも自分のスマホの時計に集中していた。
「「あっ」」
二人同時に声を上げた。
「五時に…なったね…」
ソフィアは固唾を飲んでから答える。
「そう、ですね…」
――いらっしゃいませー。
喫茶店のドアが開き、一人の女性が入って来た。
黒い長髪にすらりと伸びた四肢がきびきびと動く。生真面目そうなその顔は、凛々しさを帯びている。
その女性は、丁度空いていた、二人の席の隣に案内された。
克太はちらりと目線だけ、その女性に向けた。
その女性も克太の方を見ていて、視線がぶつかった。
二人は見つめ合ったまましばらく体を固めた。
((どこかで見たことある顔だな…))
ソフィアはおろおろと二人の顔を見比べる。
少ししてから、その女性ははっと何かを思いだして克太を指さした。
「あなた、もしかして克太君?八幡克太君だ?」
克太の方は、未だにその女性のことがわからないままで、質問に答えた。
「え、ええ。そうですけど…」
「えーっ、やっぱり!」
その女性は、驚きと喜びで、両手を口の前に持ってきて叫んだ。
――やばい、思い出せない…。
克太は必死で記憶を遡って、その女性を思い出そうとする。
「私のこと覚えてる?もう忘れちゃったかなぁ…」
克太は焦りながら、ぼりぼりと頭を掻く。
「あー、いや、その」
と、もごもごと言いつつ視線を泳がせた。
そんな克太の様子を見て、ソフィアが身を乗り出して耳打ちする。
「克太さん、小中高と同級生だった穂村花音さんですよ…!花音さん!」
克太は慌てて姿勢を正し、取り繕って花音に答えた。
「穂村花音、花音じゃないか!いや久しぶりだなぁ高校以来かな」
克太は両手を広げて大げさな身振りをした。
「覚えててくれたんだ。ホント久しぶりだねー」
花音はそう言いながら、克太たちの隣の席に座った。
それから花音は、両手いっぱいに抱えていた荷物を下ろすと、店員にコーヒーを注文した。
花音は克太の隣に座っているソフィアに視線を向けた。
「どうも、初めまして。穂村花音って言います」
ソフィアは慌てて背筋をぴんっと伸ばして、
「あ、あ、天塚ソフィア希と言います。初めまして」
克太はソフィアが名刺を出すのではないかとハラハラした。
花音は二人を交互に見るとニヤリと頬を上げて、克太に視線を移し身を乗り出し尋ねる。
「…もしかして、克太君の彼女さん?」
克太は慌てて頭を振って、
「違う違う、ただの友人、友人だって。ね、ソフィアさん」
急に話を振られたソフィアは慌てて、
「え、え、あ、そうです。友人です友人」
と、話を合わせた。
花音は少しつまらならなそうな表情になって、
「ふぅん…」
と息を漏らした。




