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 喫茶店に向かう克太とソフィアは並んで緑道を歩いている。

 晴れ渡った空から陽が射し、生暖かい風が二人の背中を押す。

 ソフィアはクンクンと鼻を鳴らして辺りを見回している。

 克太は不思議そうにソフィアに尋ねた。

 「どうしたの。何かにおうの?」

 ソフィアは好奇心に目を輝かせて、

 「はいっ、風から甘い香りがしたので…。天上界では無かったことです」

 と、またクンクンと匂いを嗅ぎ始めた。

 克太は、ソフィアが嘘を吐いて演技しているのでは、と怪しんだが、ソフィアの無邪気さと爛々と輝く両目を見て、とても演技をしているとは思えなかった。

 取り敢えず、しばらくは彼女が天使という前提で会話をしようと思い至った。

 「そうだね春だからねぇ。天上界ってのには季節は無いかい?」

 二人はゆっくりと並んで歩きながら話し始めた。

 「そうですね、天上界に四季は無いです。一年中〈黄金の季節〉といって適当な温度に管理されています」

 そう言ってからソフィアは、緑道の縁にある樹に駆け寄り手を当てて、

 「植物もこんな風にどこにでもある訳ではありません。特別な場所に行かないと見る事ができないのです」

 ソフィアはそう言うと、とてとてと克太の横に駆け寄って、また並んで歩き始める。

 「前にも言いましたけど、人間界はデータでしか知らなかったので、実際に見るのは初めてで…。何もかも感動です」

 「あ、そう…」

 「例えば、中心街にあった交差点。あれには本当に驚かせれました」

 「あ、中心街まで行ったことあるんだ」

 「えぇ、天上界から人間界に下った後、初めて訪れた場所がその交差点でした。ちなみに私、一度克太さんにあってるんですよ。その交差点で」

 克太はソフィアに向き直って、

 「え、そうっだったの?…そういえばソフィアに似たような人に声を掛けられたような、そんなことがあったような…」

 克太は記憶の糸をたぐり寄せるように、首を傾けて顎に手を当てた。

 「ホントですよ。あの時、克太さん、私のこと無視して足を速めて行っちゃうんですもの…」

 ソフィアは少し頬を膨らして、怒る真似をして克太を見た。

 「いや、ごめんごめん。でも大抵の人なら無視して歩いて行くと思うよ」

 「そうなんですか?」

 「そうゆうもんだよ」

 克太の適当な返事に、ソフィアは少し不満げに、

 「そうゆうもんですか…」

 と、繰り返した。

 しばらく二人は無言で緑道を歩いた。

 ソフィアは相変わらず、きょろきょろと辺りを見回しながら歩いた。

 ふと、克太が何か思い出して口を開いた。

 「そういえばさ、ソフィアってタブレット端末みたいのもってたよね」

 きょろきょろしていたソフィアは、克太に向き直って答えた。

 「ええ、タブレットは天上界で支給されたものですね」

 「へぇ、じゃあスマホとかも持ってるんだ」

 「はい、天上界の科学の在りようは人間界と大差ないです。でも社会や政治が円熟していて、なにもかも管理された社会で、それに天使たちはそれぞれ特殊な能力を持っています」

 ソフィアは少し誇らしげに話した。

 克太が興味をひかれたのは〈特殊な能力〉という部分だった。

 「なるほど。で、特殊能力があるって言ったけど、ソフィアはどんな特殊能力を持っているの?」

 「私が持っている能力は、ある対象の人物の運命、つまり行く先をある程度まで知ることができる能力です。天使が持つ能力の中で一番一般的で多い能力ですね」

 「へぇ…そら便利な能力ですなぁ」

 ソフィアは困ったような笑顔で話を続ける。

 「でも運命の力というのは中々手ごわい相手でして…。そう簡単に変えることができないんですね…。その為に天使が居る訳ですが」

 「ふぅん」

 克太は半信半疑で話に、相槌を打った。

 話をしているうちに二人は駅の前まで来ていた。

 「あ、そろそろ駅だよ。お金、ある?」

 ソフィアは途端に顔に皺を寄せて、

 「実はぁ、支給されたキャッシュカードを天上界に忘れてきちゃってぇ…」

 と、涙声で言った。

 克太は眉間に皺をよせて大きくため息を吐いて、財布を取り出した。

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