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時計は二十三時を回った。
克太はパソコンデスクに向いたまま、ソフィアに話しかける。
「とりあえず僕はまだ起きてるんで、ソフィアさんはベッド使って寝てください」
ソフィアは正座したままでいた。克太に声を掛けられて振り向いて答える。
「そんな…私、床で寝ますよ。克太さまがベッドをお使いになってください」
克太はぱちぱちとパソコンをいじりながら答える。
「いいんですよ、俺はいつもこの机に突っ伏して寝てるんで」
ソフィアはちらりと時計を見て、克太に心配そうに話しかける。
「あの、もう遅いお時間ですが、明日はお仕事とかあるのでは…」
克太は、ぴくっと一瞬からだを止めた。
それからまたパソコンいじり始めて、ソフィアの方を見ずに答える。
「明日の予定は…無いです。俺、今無職なんで」
ソフィアはきょとんとして首を傾げる。
「無職?…それはお仕事をしてないこと。ではどうやって克太さまは生活しているのですか?」
ソフィアの明け透けな質問に克太は面食らって、手を止める。
それから恥ずかしそうにぼそぼそと呟く。
「…どうだっていいでしょう、そんなこと…」
ソフィアは無邪気に質問を続ける。
「このお部屋だって借りてる訳ですよね。それにお食事とかのお金も…」
克太はいよいよ苛立ってソフィアに答える。
「親の金ですよ!仕、送、り、ですよ」
ソフィアは克太の剣幕に驚いて萎縮した。
「ごめんなさい。失礼な質問でしたね…」
克太は口を一文字に結んでパソコンに向き直って、ぱちぱちとキーボードを打ち始める。
二人の間に沈黙が満ちる。
「克太さま、それでは私、先にお休みさせていただきます。おやすみなさい」
そう言ってソフィアはパイプベッドの上に横になった。
克太はそれに返事をせず、パソコンを見つめている。
しばらくの間、克太はパソコンでネットサーフィンをしていた。
気がつくと時計は午前三時を指していた。
克太はソフィアの方に身体を捻る。
「すぅ…すぅ…」
ソフィアは小さな寝息を立てていた。
――初対面の男の家に泊まって、すぐ寝れるとは…。よっぽど神経が太いのか、世間知らずなのか…。
克太は立ち上がって、ソフィアの寝ているパイプベッドに向かう。
それから、ソフィアの寝顔をじっと見つめた。
すぅすぅと寝息を立ている筋の通った鼻、潤った黒い長いまつげ、ぷっくり膨らんだ唇。
幼さの残る顔つきながら、美人の部類に入るだろうと克太は思った。
甘い香りがソフィアのふわふわした栗色の髪の毛から流れてくる。
克太によからぬ思いが満ちる。
――これってワンチャンってやつじゃないのか!据え膳?あぁどうしよう、むらむらとしてきた…。そもそも男の家に泊まるってことはそういう…。俺は…。
克太は諸手を掛布団に伸ばす。
克太は自分の心臓がはち切れんばかりに脈打っているのを感じた。
ふと、ソフィアの顔を見ると、一筋の涙が頬を伝って落ちた。
「お母さま…」
ソフィアの寝言が克太の耳に入った。
克太は伸ばしていた諸手を引っ込める。
それから克太はパソコンの前に戻っていく。
大きくため息を吐いて、独りごちる。
「なんなんだ、この状況は…」
克太は、何故かワクワクとしてこの状況を楽しんでいた。




