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「はい…ご迷惑でなかったら…」
ソフィアは上目遣いで、克太を覗きこんだ。
涙液に潤んだ瞳で克太の瞳を見つめる。
「うっ」
克太はたじろいで、後退った。
――同居って…いやそれはまずいだろう。まだ完全に信じた訳じゃないし…。
それからソフィアの全身を嘗め回すように見た。
いや、でもこんな可愛い子と二人で…。いやいや新しい詐欺かもしれない。色仕掛けかもしれない…。
克太は思い悩んでそわそわと落ち着きがない。
ソフィアはじっとして克太の返答を待っている。
克太の視線はソフィアの眼から順に下がっていって、胸、太ももと視線を移していった。
克太の心は承諾に向かって動いていた。
――ああ、俺はなんて屑なんだ…。そんな下種な理由で承諾してもいいのか?それにさっきの〈羽〉、あんなものを見せられたら誰でも混乱しちゃうだろう。ああ、どうしたらいいんだ。そうだ、彼女は俺の運命を良い方向に導いてくれると言っていた。下宿を期限つきで承諾したらどうだろう。その間に結果が出なければ出て行ってもらう。そうだ、それがいい!
ソフィアは不安そうな表情で、じっと克太の返答を待っている。
克太は、思いを固めて、きりっと表情を整えてソフィアに向き直る。
克太は名刺をちらりと見て、
「えぇと、天塚ソフィア…希さん?」
名前を呼ばれてソフィアは表情を明るくする。
「はい!ソフィア、と呼び捨てで結構です」
「えぇ、じゃあソフィアさん。取り合ず条件つきでここにお泊めするということで、どうでしょうか?」
ソフィアは不安げな表情になって、首を傾げる。
「条件…ですか」
「そうです、これから一週間だけここに泊まってもいいです。ただし、その間にソフィアさんが〈天使〉だと俺が信じることができなければ、出て行ってもらいます。それでどうでしょうか?」
克太は自分で言っておきならがら、酔狂なことするもんだと自嘲した。
――何言ってるんだろうな俺は。詐欺とかだったらどうするんだ。いや、どうせ失う物もないんだ、俺には。だったら賭けてみてもいいんじゃないだろうか。もし本当に〈天使〉だったら最高じゃないか。こんな可愛い子が…。
克太は鼻の下を伸ばして、視線でソフィアを撫でまわした。
ソフィアは真剣な表情で少しの間考えてから、ゆっくり顔を上げた。
「わかりました。その条件つきで結構です。私、頑張って克太さんを信じさせてみせます!よろしくお願いします」
ソフィアは姿勢を正して、きっちりとお辞儀をした。
克太もそれにつられて、慌てて頭を下げた。
「あ、こちらこそよろしく…」
一週間という条件付きで、二人の生活が始まった。




