大災厄の子
初めての作品なので、無作法、不手際もあるかと思いますが、お手柔らかにお願いします。自分でもどうなるかわからない、何でもありなストーリー展開で行く予定です。
「姫川が来るぞ!みんな逃げろ!」
穏やかな朝の商店街はその一言で蜂の巣を突いたような騒ぎになった。
この街に住んでいる人間で、いや、この世界に住んでいる人間で姫川朱薫の名前を知らない者はいない。
あるものは神の子と崇め、あるものは悪魔の化身と忌避する特別な存在だ。
それは10年前の大厄災と呼ばれる事件に由来する。
30万人もの人間が、ものの数分で死滅した謎の怪事件。
音声、映像などの記録は一切残されておらず、現在においても何が起きたのか把握出来ている者は誰一人としていない。
未知のウイルス、前代未聞のテロ行為、はたまた何かの天災が起こったのかはようとしてしれず、大量死の影響で後発した大規模火災によってようやく世間は人類史上最大の厄災を認知したのだ。
七日間に渡って燃え続けた都市の中心部から、奇跡的に生き残った子供がいた。
それは悲嘆に暮れる世界中の人々にとっての希望の象徴となった。
意識を取り戻した子供は事件のことを一切覚えておらず、事の真相は闇に消えたが、奇跡の子にまつわる不可解なエピソードは終わらなかった。
「今朝も全然人がいないや。大丈夫なのかな、この商店街」
何処にでもいそうな普通の少年が自転車で一人、商店街を駆け抜けていく。
ふと、後ろ髪を撫でる風を感じた直後、後方でドガンと大きな音が響き振り返る。
「うわっ、危ないなぁ」
見れば『井上法律事務所』と書かれた大きな看板がすぐ後ろの地面に叩きつけられてへしゃげていた。
「人が居なくて良かったよ。おっと、こうしちゃいられないんだった」
何事も無かったかのように自転車に乗った少年はそのまま通りを消えていく。
「…………行ったか?」
隠れて様子を見ていた男は恐る恐る地面に刺さった看板に近づく。
「ああ、もう大丈夫だ。みんな出てきてもいいぞ」
何処に隠れていたのか、ワラワラと商店街の住民達が姿を現し、あっという間に人混みが出来上がる。
「今回は大した被害も出なくて本当によかったよ。しっかし、まったくどういう神経してるんだろうね、あの子は。ほんの一瞬タイミングが外れていたら即死だったっていうのに」
「ああ。鳥の糞が掠めた程度にしか気に留めていなかったよな」
「あの程度のことは日常茶飯事なんだろうよ。オカルトなんて信じちゃいなかったが、アレを知ってからは毎年欠かさず神社にお祓いに行くようになったぜ」
住民達は口々に少年にまつわる危険なエピソードを語り出す。たっぷり2時間は井戸端会議が続くだろう。今日は厄日だと店を閉める者まで出る始末だ。
「最近じゃ滅多に姿を見せなかったが、今日はどういう風の吹き回しなんだろうな」
「それがよ。クラスメイトの息子が聞いた話じゃ、どうやらアメリカに行くらしい」
「はぁ?アメリカだって?ずっとあの山小屋に引き籠ってる疫病神が?はぁ~ん。ついに日本に居辛くなって海外逃亡か!そりゃめでたい話じゃねーか」
「いや、夏休みの間だけの旅行らしい。何しに行くのかは知らねぇがな」
「頼むからもう戻って来ないでくれないかねぇ」
示し合わせたような一同の溜息が漏れ、空港がある方向に自然と視線が集まる。
「なにはともあれ、アメリカの皆さん、お気の毒に」
地元住民の不安を余所に、その日、姫川朱薫は海を渡った。
拙い作品ですが、精いっぱい楽しんでいただけるように頑張るので、温かく見守っていただけると幸いです。