第8話 彼らは見た!
空は暗くなり、町のあちこちの街灯に火が灯っている。そんな中俺とミールは町の入り口の門へと歩いていく。
門にたどり着くと、そこには20人ほどの冒険者がいる、その集団に近づくと一人の男がこちらに気づき近づいてきた。
男は身長が180cmほどあり白髪で短髪の体格のいいオッサンだ。
背中に大きな斧を背負っているところを見る限り只者では無いように思える。
「キミが最近ギルドに加入したナツキという冒険者かな?」
目の前に着くやいなや突然名前を言われビックリしていると目の前の人物は話を続ける。
「おっと失礼、私は冒険者ギルドのマスターをしているハスマ=ローエルだ、まずは今回は討伐の参加ありがとうと伝えておこう」
「あ、どうもです、俺・・・私はナツキ、こちらは・・・」
「ナツキ様の奴隷でミールです、よろしくお願い致します。」
公の場ではミールも礼儀正しい、お腹の前で両手を交差させ、姿勢正しくお辞儀をし、自己紹介をする。
「ふむ、よろしくな、君達の噂は受付のコロンから聞いておる、何でもそのレベルで、しかもたった二人でキングボアを倒したそうじゃな。
今回の討伐でも良い活躍を期待しているぞ、但し無理だけはするなよ?」
「はい!」
「よし、いい返事だ!君達は4番目の馬車に乗ってくれ。」
「分かりました」
そういってローエンは二人の元から離れ、門の入り口に歩いて行いき
皆へ向かい今回の参加者達へと話し始めた。
「ホントはキングボアはナツキ様御一人で倒したのに・・・」
「いや、ミールがあいつの注意を惹きつけておいてくれたからこそあの手が使えたんだ、だからあれは二人の協力であってるよ」
「ですけど・・・」
ミールはまだ納得がいかないようだが、そんな声を遮るかのようにハスマの声が聞こえてくる
「よーし、メンバーは揃ったな、今回の討伐のリーダーを務める冒険者ギルドマスターのハスマ=ローエルだ、今からゴブリンの集落がある場所へ向かって出発する、各自割り振られた馬車に乗るように。」
参加メンバーが次々に割り振られた馬車に乗り込んで行くのを見て、俺達も割り振られた馬車へと乗り込んだ。
馬車は大きく、1台あたり2頭の馬が引くタイプで、御者の隣に一人、後ろの荷台部分の両サイドに4人ずつ座れるような場所があり、合わせてを10人ほど乗れる大きさだ。
俺たちが乗り込んだ馬車にはすでに4人のパーティが乗り込んでいた。
身体は鉄の装備で身を固めている騎士、白い三角帽子とローブを身にまとった緑色の髪の女エルフ、そして鉄の胸当てをつけ、赤髪でショートヘアーの人族の女剣士に、同じく鉄の胸当てをつけた茶髪で短髪でエルフの男剣士だ。
俺とミールが馬車に乗り込み、空いている席に座ると、鉄の防具で身を固めた騎士が話しかけてきた。
「やぁ、私はこのパーティーのリーダーのコーラル=ハルソン、こっちのエルフの彼女は・・・」
「スーリアです、よろしく」
鉄の装備をした騎士はコーラルといいパーティリーダーだそうだ、ファミリーネームがあるところを考えるときっと貴族なのだろう、見た目誰にでも優しそうで、さわやかな20歳位の好青年だ、その金色の髪はワイルドブロックショートという髪型だった。
そして、そんなコーラルに続いて自己紹介してくれたのは、スーリアと名乗るエルフの少女、見た目20歳くらいでスレンダーな体つき、優しげな透き通るような声が特徴できだった
エルフ族というのは長寿で、若い時期が長いらしく、正確な年齢は解らないし、女性である本人に聞くのも失礼なので
暫定てきに20歳としておこう
「その向こうの赤毛の彼女が」
「ローランだ、よろしくな」
ローランと名乗る女剣士も20台後半だろう、明るく元気なお姉さんって感じの印象だ
「最後に、男のエルフ族の彼が」
「・・・オーリンだ」
こちらの男エルフはどこか寡黙な人らしい、こちらも見た感じ20台の後半の様な青年だ
こちらのエルフも正確な年齢は解らないが、こちらも人間族でいう20台後半といった感じだな
さて、相手が自己紹介をしてくれたのならば、こちらも自己紹介をすべきだろう
「ご丁寧にどうも、俺はナツキ、まだ冒険者に成り立てのFランクです。で、こちらが・・・」
「ナツキ様の奴隷でミールと申します、どうぞよろしくお願い致します。」
こうして全員の自己紹介が終わると、丁度馬車は目的地に向け移動を始めた。
道中、コーラルからキングボアを倒した時の状況などを色々聞かれたが、所々を誤魔化しながらの説明で納得させておく。
どうしてそんな事を?と聞いて見ると、どうやら駆け出しの冒険者が、キングボアを倒した事が噂になっていたらしく、真相を本人から聞いて見たかったのだそうだ。
もちろん本当の事は言わないけどね!
因みに、会話の途中に4人のステータスを勝手に見させてもらったところ、このパーティのレベルは皆30前後、人族二人のステータスは大体200後半~300前半の間と平均的に上がっている。
そして残りのエルフ二人は明らかHPとVITが少し低めの200前半だが、そのかわりにINTとDEXが300後半と高い数値になっていた。
エルフの剣士オーリンってもしかして魔法剣士タイプなのかな?
その後、道中を交代で休みながら馬車の護衛をし、次の日の明け方、ようやく予定地の近く、森のすこし開けた場所へと辿り着いた。
予定地に到着すると各々用意した食料で軽い朝食をとり、その後ハスマの指示のもと、参加パーティーで隊列を組む、俺とミールのパーティーは予想通り最後尾となった。
同じ馬車に同乗していたコーラル達のパーティーは全体の中間あたりに配置されたようだ。
全パーティの配置が済むと、そのまま集落を目指して森の中を歩き始めたのだ。
そして、暫く歩くと森の端に辿り着き、そこから見える草原には村があった、どうやらあの村がゴブリンの集落なのだろう。
森の中から村の様子が伺えそうな場所に身を隠し、ハスマが村の中の様子を覗き見ていた。
「あの村の家ってゴブリン達が建てたのかな?」
「はい、ゴブリンの群れが大きくなるとその群れの中からリーダー選ばれ、群れに指示を出し、こうして村が作られる事があるらしいです。」
「へぇ、意外と賢いんだ・・・それにこの群れ、かなりの数がいるみたいだな・・・探知スキルの反応に見る限りざっと200匹くらいはいる気がする、そして村の中心にデカくてやばそうなのが一つ・・・」
「それはきっとリーダーですね、しかし200ものゴブリンですか、よくもまぁ集まったものです・・・しかもゴブリンだけじゃなく、ゴブリンメイジも混じっているみたいです。」
「ゴブリンメイジ?え~と・・・お、あれか」
俺達は隊列の一番後ろにいるため、あまり村の様子が見えないが、かろうじてゴブリンメイジを見る事ができた。
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ゴブリンメイジ
LV 4
HP 38
MP 27
STR 18
VIT 12
AGI 17
INT 30
DEX 15
LUK 7
スキル
火属性魔法LV 1
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(おお!火属性魔法だ!これで俺も攻撃魔法が使える!!ぜひ手に入れなければ)
ゴブリンメイジのステータスを確認していると、ハスマの号令がかかり戦いは始まった。
「おっと開始か、いくぞミール!俺達は余っている敵を探して潰していこう」
「はい!」
それぞれのパーティーが雄叫びをあげながら村の中へと突撃して行く、俺とミールもそれの後を追いかけながら余っているゴブリン達を見つけては一撃で斬り捨てて行く。
ゴブリン1匹の能力はたいした事がない、もちろんゴブリンメイジもステータス上たいしたことはない、今の俺達なら簡単に倒せる。
そうして次々と倒していったあと、周りの敵がすべて倒し終わった事を確認した後、自分たちで倒したり、他のパーティが倒したゴブリンやゴブリンメイジの死体に手あたり次第アブソープを使いステータスを確保していく、一息ついたところでステータスを開いてみると、俺のステータスはもう人の領域を超えたものになっていた。
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ナツキ 男 20歳
LV 10
HP 3240/3240
MP 853/853
STR 2210
VIT 1940
AGI 1756
INT 1602
DEX 879
LUK 532
スキル
ステータス&スキル隠蔽
アブソープ
完全解析
融合と分解
言語マスター
テイムマスター
癒しの加護
創造
方向感覚マスター
探知マスター
時空魔法 LV5
火属性魔法LV 1
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DEXとLUK以外が4桁に突入してしまっていた、ミールに言わせれば、すでにこの数値はあり得ないほどらしい。
俺もついに人間卒業かな?・・・あ、一度人間どころか人生卒業してたっけ・・・
そんなことを考えながら、次の敵を探すために探知スキルを発動すると、村の中心からこの討伐に参加していたであろう人達がこちらに向かって来ていた。
そして後方、村の中心の方角に一人の人が大きめのモンスターと対峙し、その人の後ろに3つの反応があった。
「ミール、参加していた皆がこっちの方に向かってきている、多分逃げているんだと思う!」
「多分ここのリーダーからですね、よっぽどのモンスターがリーダーになっていたのでしょうか・・・血の臭いに混じって知らない臭いがしますし」
この大量の敵の血の中でもちゃんと臭いの判別が出来るとは、さすが人狼族といったところだ。
しかし…それだけ鼻が良いと人間でもきついと思えるこの血の匂いはかなりくるものがあるんじゃなかろうか?
「とにかく行ってみるか」
「はい!」
反応のある村の中心に向かう途中、逃げている人達の中にコーラル達のパーティーを見つけ、状況を聞いて見るとこのゴブリンの集団のリーダーはゴブリンジェネラルというモンスターらしい、それを聞いて驚いていたミールに聞くと、ゴブリンジェネラルというのはゴブリン種の最上位クラスにあたり、Aランク以上の冒険者が集まってようやく討伐出来るというレベルのモンスターだという、しかし今回の参加しているパーティにはAランク以上はギルドマスターのハスマだけで次に強いBランクパーティーが一組だけ、これでは勝てないと判断したハスマは、自分達が足止めをするといってBランクパーティを一組つれ、皆の逃げる時間を稼いでいるらしいとの事。
「ミール!いそいでハスマさんの手伝いに行くぞ!但しミールは手を出すな!」
「は、はい!」
村の中央につくと銀色の鎧に身をまとい、長さ2mほどの大きさの剣を構えた一般の成人男性の2倍ほどの大きさのゴブリンに愛用の斧を構えたハスマが対峙していた。
そして、そのハスマの後ろにはBランクのパーティーが倒れている。
倒れている人達はまだ生きている様だがまともに動けそうな者はいない、そこでミールにポーションを持たせ倒れている人達を避難させるように指示をだし、俺はハスマの隣に並びゴブリンジェネラルへ剣を向けた。
「ハスマさん!大丈夫ですか!?」
「ナツキか、ここは危ない、後ろの奴らを連れて早く逃げろ!ワシでもこいつはさすがに倒せんが時間をどうにか稼ぐ!」
「なにを言ってるんですか、結構ボロボロじゃないですか!」
そう言いながら、敵の強さを解析スキルで調べて見る。
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ゴブリンジェネラル
LV 70
HP 1140
MP 356
STR 724
VIT 819
AGI 620
INT 386
DEX 436
LUK 333
スキル
両手剣LV3
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(なるほど、これがAランクの人たちが集まって倒すレベルのステータスという事か・・・けど今の俺なら一人でもいけそうだ)
「ハスマさん!こいつは俺が倒します、後ろに下がっていてください。」
「何を言っている!お前さんでは無理じゃ!」
ハスマの声を聞かず、ゴブリンジェネラルに向かい前に飛ぶように全力で斬りかかる。
それは紫電一閃の如き一撃、ゴブリンジェネラルは倒れ、それと同時に、俺の全力の一撃に耐え切れなかったショートソードは折れてしまった。
そんな光景を見たハスマやミールの介護で動けるようになったパーティー達は信じられない光景に驚き固まっていた。
後で聞いた話では、その瞬間、俺の姿が消えたと思うと、一筋の剣閃が見えたと思うと、俺の姿はゴブリンジェネラルの向こう側にあり、その後ゴブリンジェネラルの身体から大量の血が吹き出し倒れた、というように見えていたらしい
そんな中驚いていた連中に対し、ミールは見慣れてきたのだろう、平然とこちらに向かって着ていた。
「さすがナツキ様です、こんな強いモンスターまであっさりと倒すなんて!」
「おう、ただもうちょっと力のコントロールを練習しないとだめそうだよ・・・」
そう言って折れた剣を見つめていると、ミールが笑顔を向けていた
「ふふっ、また町の外で一緒に訓練ですね♪」
「うん、さぁてと、これでゴブリンの集落の討伐依頼も終わりだろうし、ハスマさん達をつれて、逃げ延びた人達と合流して町に帰ろっか」
倒したゴブリンジェネラルからアブソープでステータスを吸収した後、驚き固まっていたハスマに声をかけたが、まだ驚き固まっている。
仕方ないので肩を揺すって、現実に戻ってきてもらおう
「ハスマさん、あのゴブリンジェネラルの素材ってどうしますか?」
「あ?あ、ああ・・・すまん・・・頭が今の状況についてこれないみたいだ・・・ナツキ、お主いったい・・・」
「あ~、なんていうか・・・企業秘密です」
答えに困ったが、とりあえず笑顔でそう答え、聞かないでほしいという思いを伝えておく。
「まぁ答えにくいのならば無理には聞かぬが、で?ゴブリンジェネラルの素材か、それはもちろんナツキの手柄だ、好きにとるといいさ、それともこちらで引き取れるところを剥ぎ取って、報酬に上乗せしてもいいぞ?」
「お、それは助かります、じゃあ報酬に上乗せという形でお願いします、俺じゃどこが素材として使えるかいまいち解らないですしね」
本来なら分解スキルでサクッとできるが、人前で使うのはまずいと思い、ここは任せようと思っていた
「わかった、では一緒に作業してくれ、その方がどこが使えるかも覚えれるだろ」
「了解、ミール、こっちを手伝ってくれ」
こうしてハスマに素材として使える部分を教わりながらハスマ、俺、ミールの3人はゴブリンジェネラルの巨体から爪や身に着けている武具、そして普通のゴブリンにはない、頭の一本の角を剥ぎ取った。
その後、動けるようになった、パーティ達に肩をかし、逃がしていた皆と合流するために集落の外へと向かう
この日の出来事は後にフレムストの町で噂となるのであった。
次回 第9話 報酬と使い道