第87話 用意周到な男
予定より1日分遅くなってしまい、すみません!
あとタイトル変更させてもらいました。
先程まで遠くに見えていた王都が近づくにつれ、徐々にスピードを落とし始めたレイから、念話で話しかけられた。
「(マスター、このまま町に近づくのは止めた方が良いと思うので、この辺りで地上に降りますね)」
「(どうしてだ?ウォーリーさんが伝えてくれているだろうから、このまま町の傍までいっても大丈夫なはずだぞ?)」
俺の疑問に、レイが気まずそうに答える。
「(それがですね、そのウォーリーさん達らしき集団は追い抜いてしまいました。)」
まぁ、そりゃそうだろう。
いくら俺達より1日以上先に出発したと言っても、あちらの移動は馬である。
この世界の馬は、俺の知っている馬より遥かに性能が良いらしいが、それでも途中で休憩をさせなければならない。
となれば、多分到着は今夜か明日になるだろう。
ウォーリーの予定では、俺達より先に到着出来るとは言っていたが、どうやらレイの飛行速度は予想よりも早かったようだ。
「(まぁ、そういう事ならこの辺りで降りるとしよう。
このままあの街にいってレイのその姿を見せたらパニックを起こすだろうし)」
「(承知しました)」
「皆、すまないがちょっと予定変更、どうやらいつの間にかウォーリーさん達を追い抜いていたらしい。
そこで空の旅はこの辺で終わりにして、ここからは徒歩で行く」
この後の事を皆に伝えたところで、レイが大地へとゆっくり降り始めた。
ゆっくりと高度を提げる中、マルガが「大丈夫だと思いますけどねぇ」と誰も気づかない程小さく呟いていた。
まぁ、こちらから街が見えるように、街側からもレイの姿が見えているだろうから、すでに手遅れな気もする。
本当ならウォーリーが先に到着し、俺達がレイ(ドラゴン形態)で街に訪れることを御布令を出してもらっておくという予定だったのをぶち壊してしまったが、いつの間にか追い抜いていたんじゃしかたない!
俺だって水の国までの距離はマルガから聞いた話からある程度予想したのだが、やはりそれはあくまでも俺の予想であり、正確ではない。
それに加え、レイが何時も以上の飛行速度を保ったままで来るとは思っていなかったのだ。
とまぁ言い訳をした所で今更しかたが無いので、今回は騒ぎになっていたら自分達でどうにかしておこう。
頑張って戻ってきているウォーリー達にも、後で謝っておくべきだろう。
そんな事を考えているうちに、俺達は数時間ぶりの大地へと降りたのである。
龍カゴを片付け、レイが人の姿になると、未だ精神が戻ってきていない抜け殻状態のサラを俺に渡してきたので、いつもの様に頭に乗せる。
そうする事で、俺には多少ながらも癒し効果があるのだ。
全員が再度王都に向けて出発出来る準備が整ったところで、俺達は王都アクルーンに向け歩き始めた。
今の所は俺の探知スキルにも、ミールの嗅覚にも敵となる反応は無いが、念の為に俺が先頭を歩き、その後ろにはミリー、エル、マルガ、ルークの4人が固まって歩いてもらう。
そんな4人の右側にはノアが、左側にはシアが守るように歩き、後方をミールに任せた。
この陣形を保ったまま、俺達は王都へと歩き続ける。
ミリーやエル、ソレにマルガの事を考え、ゆっくりとした歩みだ。
そうして50分程かけ、俺達はようやく水の国の王都の入場門へと到着した頃、空は既に茜色に染まっていた。
門の作りは大体フレムストと同じ様な物で、街の周囲を囲う石壁の一部が門となっており、門の前には二人の兵が立っていた。
そんな二人の兵は、何事も無かったかのように、至って普通に門番をしている。
ココからならば、多分レイのドラゴン形態が見えていたはずである。
ウォーリー達もまだ戻ってきてない事は分かっているから、何らかの騒ぎにはなっていると思ったのだが、そんな様子は何処にも見当たらない。
それを不思議に思いながら中へ入ろうと門前立つと、身分証明の提示求められ、マルガが紋章入りの短剣を見せた。
「こ、この紋章は!失礼しました!報告は受けておりますので、どうぞお通りください!」
紋章をみた門番達が急に背筋を伸ばし敬礼する。
その態度や姿から、あの紋章がそれ程の身分や権力を意味するのだと理解する。
いや、今はそれよりも気になる事がある。
「すみません、今報告は受けてあると言いましたが、一体どういう事でしょうか?」
俺の質問に、門番ではなくマルガが答える。
「それはもちろん騎士団長のウォーリーさんでしょう」
「しかし、ウォーリーさんなら俺達が追い越しているから、まだこの街には戻っていないはず」
「あの方は用意周到な方ですから、きっと間に合わなかった時の為にと、夜の休憩をとっている間にでも伝書鳥を飛ばしておいたのでしょう」
「はっ!マルガ様のおっしゃる通りです。今朝方、冒険者ギルドにウォーリー団長からの連絡が入り、すぐ我々の元に皆様が竜に乗って来るという連絡が来ました!」
どうやら俺の心配は無駄だったようだ。
ウォーリーという男、さすが団長という立場を任されているだけの事はある。
自分でもどこか抜けている、という事くらいは自覚はしている。
だからこそ思う、俺もウォーリー程に用意周到な男になりたいと。
「それと皆様が到着したら、冒険者ギルドに来て欲しいとの事です」
「わかりました。ではこのまま冒険者ギルドへと向います」
そう言うと、マルガが先頭を歩き始め、俺達もその後へと続く。
そして全員が街の中へと足を踏み入れたところで、突然マルガが振り返り、両手を広げ俺達に向って声あげた。
「皆さん、水の国、王都アクルーンへようこそ!」
次回 第88話 知らない事が幸せだった!




