第77話 焼肉パーティー
大きく燃え上がる焚き火の灯りをバックに立つ住人達や引っ越してきた人達、それに水の国からの使者であるマルガやルークと向き合うように立った俺は、ありきたりな挨拶を始めた俺だが、正直こうして人の前に出るのは苦手だったりする。
そんな俺がする挨拶の内容は、面接に合格した人達には、温泉旅館の従業員でありこのオルリア村の住人となる事を歓迎し、マルガとルークの二人は、普通にこの村に招いた客として歓迎しますといった感じだ。
一通りの挨拶を済まし、早速始めたいところで張るのだが、まだ肉を焼く準備は出来ていない。
用意出来ているのはサラに頼んでおいた肉を焼くための網と|ヴァルキリー化したミールが立っている《・・・・・・・・・・・・・・・・・・》横にある食材位である。
って、あれ?
すでに夜なのにミールの姿が可愛いワンコ姿になっていない!?
というか何故に身体強化魔法を使用した状態なんだ?
俺がミールの姿に疑問を抱いていると、ミールが俺の傍にやって来た。
「私が獣化してなくて驚きましたか?」
「あ、ああ。もしかしてその身体強化魔法をしている間は人型になっていられるって事なのか?」
「そうです!私が獣化してるのを見て、サラ様が教えてくれたんです!これで今後獣化の日が来ても安心です」
ミールの表情は凄く嬉しそうだ。
「そっか、でも俺としてはミールのあの姿も可愛くて好きだぞ?」
あ、今度は紅くなった。
「そ、そうですか?ナツキ様がそう言うのなら・・・」
ミールは身体強化魔法を解き、ピンクのワンコ姿へとなる。
そんなミールの身体を抱き上げ、横顔に頬ずりする。
うん、やっぱりフサフサ毛皮のワンコは良い!
「ゴホン!」と隣でわざとらしい咳払いにそちらを見ると、そこにはシアの姿が。
「主様、ミールと仲良くするのは良いけど、今は皆がまってるよ?」
シアに言われまわりを見ると、ここに居る人全員に見られていた。
ミールの可愛い姿に今すべき事を忘れてしまっていたようだ。
恐るべし、ミールのワンコ姿。
そっとミールを地面に降ろし、「ゴホン!」と一つ咳払い。
気をとり直して、歓迎会の準備をサクッと終わらせるとしよう。
とりあえず、最初にやるべき事は肉を焼く為に必要な場所だ。
バーベキューなどで網の下にある部分、あれの正式な名前は何て言うのだろうか?コンロか?
まぁ、とりあえずそれの様な物を作らねばならない。
そこで俺は地面に手をかざし、創造スキルで地面から「Y」の様な形の台を造り上げた。
ちゃんと風を取り込む穴も造ってあるし、全体的に強度もしっかりとした物にしてある。
この作業をマルガやルークにもろに見られているのだが、コレに関して聞かれた場合の解答は用意してあるから平気だ。
因みにその用意してある解答とはコレだ。
今のは土魔法の応用です。
うむ、完璧な解答だ。
なんせ使った材料は大地にある土を固めた物だから納得させられるはず。
きっと大丈夫だ。
そんな調子で少し感覚を空けて3箇所に同じ形の台を造って行く。
後はこの中に木炭を入れて、そこへ焚き火から火種を取って来て入れ、最後にサラに作らせておいた網を載せれば完成だ。
肝心の木炭だが、これは温泉旅館従業員専用アパートに住むハキム達が引越した次の日から作るように指示をしていたのだ。
その木炭を台の幾つか入れたところで、網が何処にあるのかとサラへ念話を飛ばす。
『サラ、頼んでおいた網は何処に置いた?』
『ナツキのアイテムボックスに入れてあるよ』
アイテムボックス内リストの最後の所に網X3と見つけ、取り出して見ると、俺がサラにリクエストした通り、サイズは縦横1m、網目は縦横1cmといった、良い出来の物なのだが、なぜか両サイドに剣の柄の部分がくっついていた。
『サラ、確かに良い出来の網なんだけど、なんで剣の柄の部分が両サイドに着いたままなの?』
『そりゃ網1枚の材料に鉄製のロングソードを2本使ってるからだよ?それにその方が持ち上げる時に便利でしょ?』
まぁ、確かに便利なのだが、なんか凄く見栄えがな・・・
『あれ?鉄製のロングソードなんて何処あったんだ?』
『材料を探したけど無かったから、メイドのタリアからお金貰って、王都にテレポートして買って来たんだよ』
わざわざ材料を買ってきたのかよ。
まぁ、道具屋でも焼肉が出来るような網なんて売ってないのだから仕方ないのだろうが。
『まぁいいや、とりあえずありがとな、ところでサラは今何処にいるんだ?』
『家の中のリビング』
『もうちょっとしたら始まるから、サラも食いたかったら出て来い』
『ん、わかった~』
そういって念話を切り、3箇所の台の上へと網を置いて行き、焼き場の準備が終わった。
次は材料である肉だ。
先程ミールが立っていたところにある肉は、まだ切られていない肉塊のままの物だ。
約10kg前後の肉塊が4つと、3kg程の肉塊が4つある。
10kg前後のほうはボアで、3kg程の方はスカイファウルの肉なのだろう。
頼んでおいた数はもうちょっと多いはずなのだが、それをミール達が何も言っていなかったと言う事は、きっと残りはタリアのアイテムボックスの中にでもあるのだろう。
それらの肉塊を焼肉用に小さく切り分けなければならないのだが、そのくらいはスキルを使えば楽勝だ。
俺は風魔法を利用し、風の刃を作り出す。
そしてそれをつかってどんどん刻んでいく。
肉の厚さ7mm程、縦5cm横3cm程のサイズにだ。
これで肉も完成だ。
焼き場の台の方では、メイド達がそれぞれの場所に分かれ、焚き火からとってきた火を使い、準備をしていた。
俺はミール達に頼み、それぞれの台の所へと切り分けた肉を次々と運んで言ってもらい、肉をどんどん焼始めてくれと伝えてもらう。
ミール達が何度か肉と焼き場を往復し、肉がある程度行きわたったのを確認した俺は、住人達がいる方に向かい、少し大きめの声で宣言する。
「それでは皆さん!準備が整いましたので、早速始めて行きます!どんどん肉を焼いていくので、沢山食べてください!メイドの皆さんも肉を焼くだけではなく、ちゃんと食べてください!」
そして一呼吸置き・・・
「新しくこのオルリア村の住人となる人達の歓迎、そして水の国より使者としてやってきたマルガさんやルークさんの歓迎の気持ちを込め、本日のメインイベント、焼肉パーティーを開始します!!」
これを聞いた皆から大きな拍手が巻き起こり、このオルリア村始まって以来の賑やかな一夜が始まった。
ただ一つ、酒が無くて少し物足らない気がしたが。
次回 第78話 パーティーの終わりと引越しの完了




