第59話 水の国の使者
家に戻った俺は、リビングに入るなり椅子に座り、ミリーを呼び寄せ膝の上に座らせる。
本来なら、目が覚めたら後いつもの挨拶をした後に甘い一時を過ごしたりするのだが、今朝はミリーを一人にしてしまった事へのお詫びに、食事が出来るまで膝の上に座らせたまま後ろから抱きしめた体勢でミール達と話をして過ごす事にした。
「そういやさ、働き手を募集するのってどうしたらいいのか誰か知ってる?」
そんな俺の質問に、抱き締めていたミリーが顔をこちらに向ける。
「それなら王都の噴水広場に掲示板があるでしょ?あそこに仕事内容とかを書いた張り紙を出せば良いですよ。
あ、でもその前にお城の方に張り紙を出す申請をしないといけませんが」
「なるほど、それじゃ明日は王都に行って買い物をした後、お城に行こうか。
ついでにミリーも親に顔をみせておいで」
「は~い」
ニコニコ笑顔で返事をするミリーは、抱き締めている俺の腕にスリスリしている。
とても機嫌が良さそうだ。
ミールやノアとシア、それにエルとレイは、そんなミリーを羨ましそうに見ているのだが、これは朝イチャつけなかった分なので、皆は別の機会に可愛がってあげようと思う。
そうして暫く嫁達やレイと話をして時間を潰していると、料理の方が出来上がったらしく、ククリ、アルカ、サティアの3人がテーブルの上に運んで来た。
全ての準備が出来上がり、全員が席に着いたところで食事が始まる。
今日のメニューは近くの川で取れた魚を焼いた物や、一口大に切ったボアの肉と玉ねぎ、それに山菜らしき物を一緒に炒めた肉野菜の炒め物、そして野菜の煮込みスープだ。
皆で話し始めた頃から空腹感を感じ続けていた俺は、それらに舌鼓を打ちながらも、次々と口に運んで行き腹を満たしていく。
そこそこ量のあったはずの料理が全て無くなり、いつもの様に食後の紅茶を頂きながら明日の予定を話す。
「タリアさん、明日一緒に王都に行って買いだしの手伝いをお願いします。それからエマルさん、一昨日飲んだエマルさんのオリジナルのお茶が美味しかったからさ、あのお茶を旅館の方で使いたいんだけど、いいかな?」
「マスターが望むままに」
普段から口数は少なく、感情が表に出る事が余り無いエマルだが、この時の彼女の表情は少し喜んでいる様だった。
多分、自分のお茶が気にいってもらえたからだろう。
「それなりに量も必要になって来るから、必要なら明日王都で材料とか手に入れてくるけど、何かある?」
「アツナメ草が沢山必要です」
「わかった、じゃあ明日はそれも買っておく」
「よろしくお願い致します。マスター」
「さて、それじゃお腹もいっぱいになったし、風呂に入って寝るか」
そう言って俺は飲み終えたカップをテーブルに置き立ち上がると、同じく紅茶を飲み終えた嫁達とレイとサラを連れ風呂場へと向った。
今日のお湯は俺とノアで用意した。
多分こうしてお湯を作るのも今日で最後になるだろう。
明日にはココも温泉を引けるように出来るはずだ!
脱衣所に入り、皆揃って服を脱ぎ始める。
そして脱ぎ終わったものから風呂場に入り、かけ湯を済まして洗い場へと座る。
今日の俺の身体を洗ってくれるのはノアとシアの二人だ。
俺の身体の右側をノアが、左側をシアが担当し、洗ってくれる。
もちろん俺の身体を洗い終えた後は、俺もお返しに二人の身体を洗う。
洗うついでに二人の身体の色々な所に悪戯する事も忘れない。
たっぷりと二人の身体を楽しみながら洗い終えると、先に身体を洗い終えたミール達の居る湯舟に浸かり、今日の疲れを癒していく。
ゆったりとした一時を過ごした後、俺達は風呂から上がる。
出る時、少し冷め始めていたお湯を、この後入るメイド達の為に火の魔法で暖め直しておく。
そしていつも通り、俺達が風呂に入っている間に用意された服に着替え、リビングに顔を出して、メイド達に風呂を勧めてから俺達は寝室の方へと向う。
寝室に入ると、ミール、ミリー、エル、レイの4人に「おやすみ」と声を掛けると、ノアとシアを連れ奥の俺の部屋へと入る。
今夜はこの双子の姉妹の番なのだ。
早速ベッドに二人を寝かせ、服を脱がせて行き、右手でノアの右耳を、左手でシアの左耳を撫でて行き、ノア、シアという順番にキスをした所から今夜の営みが始まり、3人が満足し、眠りに着いたのは3時間と少し経った頃だった。
翌朝、身体に、主に下半身の方に違和感を覚えつつも目が覚めた俺は、布団の中を覗きこむとそこではノアがご奉仕をしてくれていた。
「|おはほうごはいはふ、はふひはま《おはようございます、主様》」
「おはようノア、それとありがとう」
俺の人生における、恋人や嫁にされて嬉しい事ランキングの上位にぶっちぎりで食い込む出来事に喜びを覚えつつ、一生懸命頑張るノアの頭を撫でてあげると、ノアの表情は恍惚なものとなった。
最近夜の営みの中で上達したノアのテクニックに、朝からスッキリさせて貰うと、丁度俺の左側で寝ていたシアが目を覚ました。
シアは身体を起こし「ん~!!」と大きく背伸びをしている。
「おはようシア」
背伸びをし終わったシアに挨拶をして軽く触れるだけのキスをする。
「おはよう主様」
シアと挨拶を終えると、いつの間にか布団の中から出て、水魔法で口の中を濯いでいたノアも近寄って来たので、軽く触れるキスを交わした後、服を着替えて隣の寝室へと移動する。
ドアを開ける音に反応したのか、ミールが目を覚まし、もぞもぞと起き上がり、俺と目が合った。
「おはようございますなつきさま」
眠そうなミールの声に反応し、エルとレイが目を覚ましたようだが、ミリーはまだ熟睡している。
そんなミリーの身体を揺すって起こした後、今朝も皆の髪の手入れとミールの尻尾のブラッシング、そしてエルの羽根の手入れというスキンシップをして行き、今日と言う一日がようやく始まる。
身だしなみを整え終わり、リビングに入ると、丁度朝食の準備がされているところだった。
準備が終わるまで椅子に座り待ち、全員が席に着いた後、朝食を頂き始めた。
今日という日の始める活力を得るためしっかりと食べておく。
朝食が終わり、メイド達が片付けをしてくれている間、エマルがオリジナルのお茶を入れてくれたのでそれを啜りながら一息付きながら、今日の予定を確認する。
1:王都での買いだし
2:お城に行き、働き手の募集の申請
3:旅館で働く人達の為の家作り
3つ目の項目に付いて考えている途中、何か引っかかる物を感じたのだが、それが何なのかが解らない。
そんな事を考えていると、片付けを終えたタリアがリビングに戻ってきたので、俺は考えるのを止め、早速王都への出発する為、家の外へ出て準備を始める。
王都までテレポートで行った方が早いのだが、あれは疲れるので、今日もレイに頼むつもりだ。
俺はアイテムボックスから龍カゴを取り出し、元の姿に戻ったレイに首から提げてもらう。
そこに俺達が乗り込むと、レイは今日も元気に空へと羽ばたいた。
我が家から王都上空まではレイにかかれば30分程だった。
町のすぐ近くに降りてもらい、レイは人型へ、龍カゴはアイテムボックスへと片付け、町の門へと向う。
門番の兵と挨拶を交わしつつ、顔パスで町の中へと入らせてもらい、一先ず噴水広場を目指す。
途中、色々な人達から挨拶をしてもらいながら進んでいると、今日も王都の中心部である噴水広場は賑わいの喧騒に満ちていた。
「よし、買出しチームとお城への申請に向うチームに別れて行動しようか。
まず買いだしは俺、ミール、レイ、タリアさんの4人でやるから、お城への申請はミリー、エル、ノア、シアの4人で行って来てくれ」
「はーい!じゃあ旦那様、また後でね」
「ああ、ゆっくりしていてくれ、こっちが終わったら迎えに行くから」
こうして俺はミリー達と分かれ、買い物をするために商業区へと向い歩き始めた。
まずは食料の買い足しからである!今後の事を考え、大量に買いこんでいく。
そして食料を買い終えると、次は温泉旅館の温泉に使う換気扇の為のメモリーストーンの購入へと向う。
ついでに幾つかの小物を買い込み終えた所で、次はエマルのお茶の為にアツナメ草なのだが、何処に売っているのだろうか?
タリアに尋ねて見ると、この近くに店があるらしく、タリアに案内を頼み、俺達はその後をついて行く。
道具屋から歩き始めて2分か3分立ったところで、3種類の何かの植物の絵がかかれた看板を掲げる店に到着した。
「いらっしゃい」
そう言って店の中から出てきたのは、人の良さそうな40歳位の女性だった。
「すみません、アツナメ草って言うのが大量に欲しいんですが」
「あら~ごめんなさいね、アツナメ草は今店に少ししかないのよー最近入荷が少なくてねー」
申し訳なさそうに謝る女性に、気にしないでと伝え、手に入れる方法について聞いて見る。
「因みにアツナメ草って何処に行けば手に入りますか?」
「ここから南の方にある山よ」
この人の言う山とは、水の国との国境にあたる山の事の用だ。
あそこならレイに連れて入ってもらえばすぐに着くし、そう時間も掛からず戻ってこられるだろう。
「有難うございます、それではその場所に行って見る事にしますよ」
「もし良ければだけど、採って来たアツナメ草をうちの店にも分けてくれないかい?もちろんちゃんとその分の金も払うよ」
「解りました、どれだけ採れるか解りませんが、余分に集めてきます」
「よろしく頼むよ」
と、気前よく頼まれごとを受けたのは良いのだが、俺は肝心のアツナメ草がどんな物か分からなかった。
そこで、恥ずかしながらも、今店に置いてあるアツナメ草を見せてもらう事にした。
「それではタリアさん、すみませんが先にお城に行って、ミリー達に、アツナメ草を採って来るから一寸遅くなるって伝えて置いて下さい」
「わかりました、御主人様もお気をつけ下さい」
植物屋の前でタリアと分かれ、俺とミールとレイは急ぎ町の外へと向う。
そして門を潜り少し移動した所でレイに運んでもらい、国境の山へと飛んでもらう。
レイに急ぎでお願いと言うと、国境の山まで10分で到着する。
そしてそのまま、店の女性に教えてもらった通り、山の中腹に差し掛かったところで、降りる場所を探していると、突然ミールが声を上げた。
「ナツキ様!あそこにモンスターに襲われてる集団が居ます!」
ミールの指差す先には、青い犬形モンスターの群れから豪華な造りの馬車を守るように戦っている集団が居た。
モンスターの名前はサファイアウルフ、前にこの山に来た時に戦った奴等である。
「レイ!あそこに俺達を降ろしてくれ!」
俺は戦っている集団のすぐ後ろにある降りられそうな場所を指し示し、そこへと降ろしてもらうと、すぐに戦っている集団の下へと走る。
一匹のサファイアウルフが、護衛だと思われる男の側面から飛び掛かる!
男はそれに反応しきれず、殺られる!と思っていたが、その牙と爪が男に届く事は無かった。
ギリギリで俺の剣が間に合い、そのサファイアウルフを斬り伏せる事に成功していたのだ。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああおかげで助かった、ところであんたは一体?」
「話は後にしましょう、とりあえずこいつらを片付けます」
そう言って俺はサファイアウルフの群れの中心へと走る。
こちらに飛びかかってくるサファイアウルフ達を次々に斬りつけ、その命を奪って行く。
そして自ら群れの中心へと飛び込み、群れに囲まれてやると、数匹のサファイアウルフが一斉に飛びかかってくる。
だが、その牙も爪も俺に届く事は無く、あっさりと倒していく。
それを見た残りのサファイアウルフ達は、ターゲットを俺ではなく護衛達の方へと変更し飛びかかるのだが、サファイアウルフと護衛の間に、赤と銀の防具を身に付け、炎を纏わせた剣を持ったミールが立ちはだかる。
自分強化でヴァルキリー化したミールは、まるで舞うように剣を振るい、残りのサファイアウルフ達はあっけなく倒された。
ミールが大立ち回りをして居るおかげで、皆の視線がそちらに集まっている。
俺はその隙に、自分の周りのサファイアウルフの死体からステータスを頂き、分解スキルでサファイアウルフ達を毛皮へと変えていた。
敵を全て倒し終え、ヴァルキリー化を解いたミールが俺の傍に来ると、護衛をしていた集団のリーダーと思しき人物が俺へと近づいてきた。
「この度は助けていただいて感謝する。正直あの数相手では無事には済まないだろうと覚悟していたのだが、貴殿達のおかげでこうして無事に済んだ、ありがとう。ところで、そなた達は?」
「俺はナツキ、こっちはミールちょっとこの山にアツナメ草と言う植物を採りに来ていたのです」
「ナツキ殿にミール殿か、我々は水の国アクルーンの城に仕える騎士で、現在、我々の国の使者を火の国フレムストの王都へと送り届ける途中だったのだ」
水の国からの使者?一体どんな用で火の国にやってきたのだろうか?
とりあえず今は係わりにならない方が良さそうだと俺の感が告げているし、早くアツナメ草も集めないといけないので、早急にこの場から離れるとしよう。
「そうでしたか、では俺達は急ぎますのでこれで失礼します」
そう言って俺とミールはそそくさとその場から退散し、レイの待つ場所へと向った。
次回 第60話 準備




