第48話 帰還
快晴の空を翔る巨大なドラゴンから放たれる直径1mほどの火球が俺達を襲う。
「おっと!」
「あまいです!」
「わお!」
「・・・」
とくに慌てるわけでもなく、余裕の声をあげながらも避ける俺達。
襲い掛かってくる火球の速度はかなりのスピードなのだが、それを上回る速さで動く事の出来る俺達だった。
俺の探知スキルの有効範囲の限界である500mの距離を、約5秒で移動して来た巨大なドラゴンは、俺達のほぼ真上に来るとその場で旋回し始めていた。
ドラゴンのサイズはかなり上空にいるのでハッキリとわからないが、頭から尻尾までの長さだけで、10m近くあるんじゃないだろうか?
そんな巨大なドラゴンは、暫くの間は約300m程上空を旋回しているだけだったのだが、突然俺達に向け、口から火球を撃ち始めたのだ。
だがしかし、俺達は火球の雨を楽々と避け続けていた。
俺は、そんな火球を避け続ける中、ドラゴンの姿を視界に捕らえてで解析スキルを使う。
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ノーブルドラゴン
LV 85
HP 2563
MP 1007
STR 1124
VIT 1021
AGI 1096
INT 820
DEX 642
LUK 528
ファイアブレス
コールドブレス
ウィンドブレス
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「ノーブルドラゴンだね、久しぶりに見たよ~」
解析スキルでステータスを見ていると、頭上で垂れモードになっていたサラが呟く。
「そうなのか?」
尚も降り注ぐ火の玉をよけつつ、サラに尋ねてみる。
ミール、ノア、シアも頭上からの攻撃を軽々と避けつつもこちらの会話に耳を気にしているようだ。
「うん、前に見たのは確か400年程前だったかな?ノーブルドラゴンのプリンセスが誕生を見に行った時以来だよ」
ノーブルドラゴンのプリンセスの誕生を見に行った?
ドラゴンの世界にも王や女王といったシステムがあったのか?
てかノーブルドラゴンよ、いい加減にしなさい!!
上空からバンバン火球を撃って来る行為に苛立ちを覚えた俺は、ノーブルドラゴンの放つ火球が当たって砕けた岩の破片(ソフトボール大)を拾い上げ、ドラゴンに向けて4割ほどの力でぶん投げる。
4割程の力といっても、俺のステータスの4割でも優にあのノーブルドラゴンのステータスを上回っている。
とてつもない力で投げられた石片は、まるで弾丸の如き速度でノーブルドラゴンの顎にクリーンヒットし、ドゴン!!という衝撃音が空に響いた。
顎への痛烈な一撃により脳震盪を起こしたノーブルドラゴンは気を失い、その巨体が引力に導かれるように落下を始める。
「あ~!酷いよナツキ~、あのまま落ちたら彼女死んじゃうじゃないか、助けてあげてよ」
ドラゴンといえ、高いところから落下すると流石に死ぬらしい。
ってか、あのドラゴンってメスなの?
まぁそれは置いといて、サラが助けてあげてと言うので、取りあえず助ける事にしよう。
ノーブルドラゴンの落下地点を予測し、そこに向けて巨大で分厚い風のクッションを作り出す。
勢い良く落下してきたその巨体は、分厚い風のクッションにより、何とか地面への衝突から守る事に成功出来た様だ。
「で?サラ、ノーブルドラゴンのプリンセスの誕生ってさっき言ってたけど、ドラゴンの世界にもそういうのあるの?」
「えとね、ノーブルドラゴンはドラゴンの世界の王族なんだよ。
でね、400年程前にノーブルドラゴンのクイーンから、娘が生まれるから来てくれないか?って言われて見に行ってたんだ」
「へぇ~なるほどねぇ・・・って、まてい!ノーブルドラゴンがドラゴンの世界の王族!?
俺、石片で落としちまったぞ!?」
「だねぇ、しかもその落としたノーブルドラゴン、僕が400年前に見たプリンセスだと思うんだよね、そのサイズからして」
やべぇ、俺ってドラゴンの王族にケンカ売っちまった!?
ドラゴンとの戦争なんて流石に嫌だぞ!?数匹くらいなら負ける気しないけど、大量のドラゴンに襲い掛かられたら俺もやべぇし!
「あ~やっぱりそうだ、この子あの時生まれたプリンセスちゃんだ」
俺が頭を悩ませてる間、サラは地面に横たわったノーブルドラゴンの背後に回り込み、何かをみて確信をしたようだ。
「ま、間違いないのか?」
「うん、ノーブルドラゴンってそれぞれの個体で背中にある特殊な鱗の色が違うんだけどね、んで、この子のその鱗の色が、400年程前に見たあの子と同じだったんだよ」
「似た色じゃないのか?」
「ううん、間違えようが無いよ、だってこの子の逆鱗ってノーブルドラゴンの歴史上初めての虹色だもん」
アハハハハ、戦争のよ・か・ん
面倒ごとを引き起こしてしまったと、俺は渇いた笑いを浮かべていた。
「ナツキ様しっかりして~!!」
「もしこれでドラゴンとの戦争なんて事になっても、時間の許す限り主様のステータスを上げ続ければ何とかなるかと、それに私達も一緒に戦いますし」
「そうだよ主様!ほら!いざとなったら眷属増やせばいいんだよ!」
「それは無理だよシアちゃん、ナツキの眷属になるにはお互いの深い信頼関係が必要なんだよ?今の所眷属になれそうなのはミリーちゃんだけだね」
「ガァゥ・・・」
俺達が騒いだせいか、気絶していたノーブルドラゴンが目を覚ましたようだ。
「サラ、お前こいつらの言葉わかるんだろ!?説得してくれ!」
「ナツキはテイムマスターのスキルあるんだから自分で意思疎通出来るじゃないか~自分でやりなよ~」
そういえば、今まで一度も使った事なかったが、そうか、このスキルで意思疎通出来るのか!
「あの、大丈夫ですか?」
テイムマスタースキルを意識しながら、起き上がったノーブルドラゴンに向けて話しかけてみる。
「(え!?あ、はい大丈夫です、じゃなくて会話が出来てる!?)」
「落ち着いてください、会話は俺の持ってるスキルのおかげなんですよ」
「(そうですか、しかし、まさか人間にこうもあっさりと負けるなんて、はぁ・・・)」
ため息をつくと、膝を折り、地面にその巨体を伏せるノーブルドラゴン
「(出来るだけ苦しくないようにお願いしますね)」
「いやいやいや!殺したりしませんって!そんなドラゴンの世界に戦争ふっかけるようなマネしたくありませんから!」
潔ぎよく死を覚悟されてもこちらが困るというものだ。
「(しかし、あなたのような冒険者がここに来ているという事は、私を殺しに来たという事なのでは?)」
「いや、まぁそうなんだけども、せっかく意思の疎通が出来るわけだし、どうせならこう、お互いに友好関係を築いて穏便にすませたいなぁと」
「(そうですか、ですが私は敗北した身、ならば私は貴方の下僕となるのがふさわしいでしょう)」
ノーブルドラゴンのプリンセスを殺したりして、下手にドラゴンとの戦争なんて事になるのは嫌なので友好関係をと言ったのだが、自らの敗北を認めたノーブルドラゴンのプリンセスは、なんと友好関係ではなく、俺の下僕になると言い出たのだ。
まぁ、何にせよもう一度戦い直すよりはマシなので、承諾する。
「(では、私に名前をつけて頂けませんか?)」
「あ~そうだね、名前がないとどう呼べばいいか困るしね、ん~それじゃあ[レイ]なんてどうかな?」
俺がそう言うと、目の前で伏せていた彼女の身体が突如光り始め、その眩さに俺は両腕で顔を覆う。
光はすぐに収まり、目の前い居たはずの巨体は消え、その場には、一人の少女が立っていた。
身長160㎝程度、髪は膝まで伸びた白髪を腰辺りで一つに束ね、燃えるような赤い瞳
先程までいたノーブルドラゴンも、同じく燃えるような紅い瞳だった事から、その少女とノーブルドラゴンは同一の存在だと思われる。
「って、人型になれるの!?」
「みたい、ですね。レイ自身こんなの初めてなので・・・」
「それについては僕が説明してあげる」
サラの説明によると、本来のモンスターを従えさせるスキルはモンスターテイムといい、擬人化は不可能なのだが、俺の持つテイムマスターというスキルは、配下となったモンスターを擬人化させる事や、その身体のサイズの変更が自由に出来る効果があるそうだ。
そして、先程名前を与えた事で俺とレイの主従契約は結ばれ、それによりレイは擬人化した、という事らしい。
因みにこの内容は、テイムマスターのスキルの詳細を見れば書いてありました。
「今日から私の名はレイ、どうぞよろしくお願いします、マイマスター」
「こちらこそよろしくな、俺はナツキ、それから隣に居るのがミールで、その横が双子の姉のノアで、その隣が妹のシアだ」
3人は名前が呼ばれると、名前が呼ばれるたびに自己紹介をしていく。
自己紹介が終わり、この世界に来て初めて使う事となったテイムスキルに感動を覚えていると、ハスマが空に響いた衝撃音(レイを気絶させた時の音)の後、静かになった俺達の様子を見にやってきた。
事の成り行きや、レイの紹介を話し、俺達は[夜を照らす月]と[守りの剣]の皆と合流し、帰路に着いたのである。
帰りの馬車に揺られ、サファイアウルフとの戦いのあった場所にやってきたところで、ふと、催したので馬車を止めてもらい、少し森の中へと入る。
実の所、帰り始めようと、馬車が動き出したところから我慢してたのだが、ココで限界が近づいたわけだ。
そんな我慢からの解放されスッキリとし、馬車に戻ろうとした時、森の奥に見える沼地に、もう食べる事が出来ないと諦めていたあの植物そっくりな物を発見した。
まさかという、希望と期待を抱き、俺は全速力で駆け寄る。
その植物の傍に着くと、見た目や育つ環境からも、それは間違いなく稲穂であった。
俺は目に見える稲穂を全て刈り取り、アイテムボックスへと入れ、ご機嫌で馬車へと戻った。
「遅くなってすまない、さぁ首都に向けて出発しましょう」
馬車は再び進み始める。
次回 第49話 米の素晴らしさを伝えたくて




