第224話 勘違い
ミール達が時間稼ぎをしてくれている中、俺はひたすらに精霊王の力を制御しようと集中している。
しかし、只でさえ使い慣れてない上に、今回はサラの力の大半を受け取っているので、思った以上に手間取っていた。
「(サラの力が大きすぎて制御が難しすぎるだろ。これじゃ俺の魔力を混ぜるどころか、抑え込むだけで精一杯だぞ)」
内心でそんな風に愚痴っていると、サラは俺が手こずっているのに気づく。
「ナツキ、無理に抑え込もうとせず、一旦その力を体中に均等に巡らせてから、徐々に手のひらに集中させるようにすれば良いよ」
「そう言われても、結構難しいんだが?」
サラの助言通りにしようとするが、なかなか上手く出来ないでいた。
この状況に俺は、ふとある事を思い出していた。
それは、以前にミールが使っている身体強化魔法のやり方を聞いた時の事だった。
その内容とは、身体強化魔法を使用する為には、先程のサラの助言と同じく、体中に魔力を巡らせるというものであり、それを知った俺はチャレンジしたのだが上手く出来なかった。
故に、俺は身体強化魔法を使う事をすっぱりと諦めたのだ。
あの時もっと練習してればと、俺は後悔する。
「ナツキ!集中が乱れてるよ!早くしないとミール達もそう長くは…って、アレ?」
サラが注意してきたと思うと、何やら気の抜けたような声が最後に聞こえ、俺は閉じていた目を片方開く。
そうして視界に入ってきたのは、なんとミール達が戦っていた三つ首のドラゴンの尻尾が半ばから切り落とされており、それでもなお続くミール達の攻撃が、三つ首のドラゴンに対して多大なダメージを与え続けていたのだった。
「なぁサラ?なんかあの様子だと、俺の出番が無いまま終わりそうじゃね?」
予想外なミール達の猛攻っぷりに、俺は何とか今の状態を保ちつつ、サラに訊ねた。
サラは俺と同じ光景を見て、口をポカーンとさせたまま、俺の言葉にコクっと頷いたと思うと、すぐにハッ!となる。
「って、それじゃダメだよ!せっかく僕の力のほとんどを渡したのに、無駄になっちゃうじゃん!これじゃ仇討ちにならないよ!ほらナツキ!早く魔法を完成させて!」
俺の方へと振り返り、詰め寄りながら急かして来た。
「いや、そう言われてもな」
早くと言われたところで出来る訳もなく、むしろ焦る気持ちが大きくなってしまった。
このままではいつまでたっても魔法が使えない。
そんな状況の中、突然爆発音が聞こえてきた。
音につられるようにミール達の方を見てみると、爆発の煙の中から、体の大半が抉り取られたような姿になった、元三つ首のドラゴンらしき物体がそこにはあったのだが、次の瞬間、その残った部分がまるで砂になったようにサラサラと崩れ始め、やがてその場には、砂のようなモノだけが残っていた。
「おい、マジで俺の出番がないまま終わっちまったぞ」
額に汗を浮かべながらも、必死にサラの力を維持させたまま俺はそう口にする。
それが聞こえたサラは、ガクッっと肩を落としたと思うと、その状態のまま地上に着地し、まるで人が両手を地につけて落ち込んでいる様な姿になっていた。
しかし、そんなサラからドヨーンとした空気が漂い始めた瞬間、ミリーの声が洞窟内に響き渡る。
「皆さん!アレを!」
そう言ってミリーが指さす先には、洞窟の壁際に残っていた、三つ首のドラゴンの体から切り落とされた尻尾がウネウネと動いていた。
よく見ると切り落とされた断面がモコモコと動き始め、その様子が数秒続いた後、その動きがピタリと止まる。
一体何だったのか?そんな疑問を感じていると、次の瞬間、尻尾の断面再び動き始め、ソコからものすごい速さでどんどんと膨らみ始め、ついには三つ首のドラゴンの体程のサイズまで大きくなった。
いや、むしろ三つ首のドラゴンの形になってしまったのだった。
「まさか、ああやって体の一部が残ってたら、ソコから復活してしまうってことか?もしそうだとしたら、最初の魔法は効かなかったのではなく、細切れにしただけで結局は元の形に再生されたって事だったのか?」
その可能性は思いつかなかった!と、内心で驚きつつも、段々と相手の特徴が分かり始めた事を喜んだ俺は、[世界を蝕む闇]が完全復活して、動き始めるまでにどうにか魔法を発動させれるようになろうと、再び力の制御の為に意識を集中させ始めたのであった。
次回 第225話 放て!すべてを吹き飛ばす爆裂魔法




