第210話 ソレは最高のモノだった
2匹目の[世界を蝕む闇]のサイズを忘れていたので、初登場シーンに追加しました。
風の国の王都ウィンディアを出て、そこからレイに乗って移動する事30分。
俺達は風の国と地の国の境目である山脈の頂上へとやって来ていた。
周囲にはお互いの姿を遮る様なモノは何もなく、身を隠す事など出来はしない平地である。
上空からこの地に降りる時に見えたこの場所は、楕円形に近い形をしていた。
そんな地形の中央付近にて、武器を構えた俺達は、スズメに似た姿の小鳥タイプの[世界を蝕む闇]と、小鳥タイプと同等サイズの黒い靄の塊である[世界を蝕む闇]の2匹と向かい会っている。
だが、俺の意思は目の前の2匹ではなく、自分の手元に向かっていた。
「なぁ、エル?本当にこの剣使ってもいいのか?」
今、俺の手にはフレムスト王国で買っておいた鉄製のロングソードではなく、剣身が明るい緑色をしたロングソードが握られている。
このロングソードは特に豪華な装飾があるわけでもなく、ただ通常よりも少しばかり剣幅が細めで、全体的にスラっとした感じのシンプルな造りをしている。
因みにこれは、エルが母親に、つまり王妃に頼んで城の宝物庫から借りていた一品なのだ。
それをシルフがアイテムボックスに閉まっていたのを、先程エルから聞き取り出していたのだが、使ってもいい物なのか少し悩む。
なんせこの武器は武器庫に、ではなく、城の宝物庫にあった物だ。
確実においそれと貸し出せるような武器ではないはずだ。
そんな風に悩んでいるところに、俺の悩みを解決してくれる一言がエルの口から発せられた。
「どうぞ、ご自分の物だと思ってお使いください。もしナツキ様が気に入ったのなら譲っても良いと言質を頂いておりますから」
「そ、そうなのか?…よし、なら遠慮せず使わせてもらうか」
だがその前にと、完全解析でこのロングソードを調べてみる。
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ミスリルの剣
魔力を込めれば込める程、その切れ味と丈夫さを高める事の出来る剣。
但し、魔力を込めていない場合は鉄より劣る。
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「(やっぱりミスリルか…って、あれ!?ミスリルってそんな特製の素材だっけ!?確か軽くて丈夫な金属だろ普通)」
自分にある知識とこの世界の常識の違いがまた一つ判明した瞬間だった。
「(はぁ、鑑定しておいてよかった。危く魔力も込めずに使うところだったぞ)」
もし鑑定しないまま使っていたら、多分アッサリと折ってしまっていた事だろう。
使う前に知れた事にホッとした俺は、同時にこうも思った。
その気になれば魔力はいくらでも高く出来る俺にとって最高の武器であると。
そんな最高の武器を譲ってくれた王妃には、必ず後で礼を言わなければと思った俺はエルに向かい口を開く。
「エル、この戦いが終わったら、一緒に王妃様にお礼を言いに行こうな」
「はい!」
まるで何かのフラグのようなセリフを口にした俺の表情は、きっとすごく嬉しそうにしていたに違いない。
そしてそれに答えたエルの表情も、このミスリルの剣を持ってきた事は正解だったと喜ぶような、良い笑顔をしていた。
次回 第211話 各個撃破




