第209話 再出撃
次回タイトルを変更しました。
俺を馬の骨と叫び、敵意剥き出しで俺に掴みかかろうとしたグラス王は、次の瞬間、突然背後に現れたエルにより、チョークスリーパーで意識を刈り取られ、その場に崩れ落ちた。
普段のエルからは到底想像出来ない行動に、俺は驚きを隠せなかった。
俺の背後にいるレイとシルフも口をポカンと開いて固まっている。
「エ、エル?」
「さぁ、行きましょうナツキ様」
すごく良い笑顔でそう口にするエル。
どうやら今の一連の出来事は気にしてはいけないと、あの笑顔が語っている様な気がする。
「早く他の皆さんにもその元気な姿を見せてあげませんと」
「お、おう」
エルに言われるがまま、案内されるままに俺達はミール達の待っているという客室へ足を進める。
先程のグラス王の事を心配しつつも、更に歩く事約3分。
俺達はミール達の待っているという客室へとやって来た。
「ナツキ様!」
客室の中へと入ると、ミールに勢いよく抱きつかれ、俺はそのまま床に押し倒される形になる。
「シルフ様がナツキ様の元に[世界を蝕む闇]がもう一体近づいていると聞きましたが、大丈夫でしたか!?」
マウントポジションをとったまま、ミールは俺が怪我をしていないかを確認しつつ、そう尋ねて来た。
もちろん無事に逃げて来たので、あの戦いで怪我はしていない。
しかし、それとは別件で、先程押し倒された瞬間に後頭部を打ったのが痛いのだが、流石にそれは言えないので黙っておく事にする。
ここは我慢のし所だ。
「大丈夫だよ。流石に2匹相手に俺達だけじゃ厳しいからな、それにレイとサラの助言もあったから、新たな[世界を蝕む闇]が来る前に撤退する事にしたんだ」
「そう、でしたか…って、あ!ご、ごめんなさい!すぐに退きますから!」
ホッと胸をなでおろしたミールだが、今も尚、俺の上に乗っている事に気付き、慌てて立ち上がる。
そんなミールの様子を見て、俺は思った。
ミールに限らず、最近では皆の行動に素なところが度々見受けられるようになり、少し嬉しいなと。
まぁ、唯一シアだけは、初めから本当の自分らしい行動をしていたような気もするのだが…
そんな風に思っていると、丁度その例外として挙げていた人物が動いた。
「まったく、こんなところで主様を押し倒すなんて、ミールってば大胆だねぇ」
シアはニッシッシと笑いながらミールを茶化し、それにミールが怒って客室内でシアを追いかけ始めた。
仲の良い二人の事は、少しの間放っておくとしよう。
「シルフ、あの2匹が今どこにいるか分かるか?」
「うん、大丈夫。ナツっち達が退却を始めた時からずっと監視してるからね!」
小さなドラゴンの姿をしていながらも、器用に親指らしき指をグッ!と立てている。
その姿が可愛いので、とりあえず捕まえて抱きしめ、監視をしてくれていた事に対するお礼と称しつつ、存分に愛で始めた。
それから数分、十分にシルフを愛で終えたところで、[世界を蝕む闇]との再戦に向け、やる気を出す。
「よし、全員の準備が出来たら再戦しにいくか」
「出撃ですか?主様」
「のわっ!?」
やる気になった途端、突然背後から聞こえてくるシアの声に驚き、変な声が出てしまった。
振り向くと、そこには先程までミールに追いかけられていたはずのシア|が、何故かミールの尻尾を握って捕まえていた。
シアよ、その尻尾は俺のお気に入りなんだから、あまり雑に扱わないでくれよ?
ところで、なんで二人の立場が逆転している?
俺が目を話していた間に一体何があったんだ?
「どうかしたの?主様」
「いや、シアとミールの間で何があったのかなと」
「いえ、ちょっとミールが聞き捨てならない事を口にしたので、私がお仕置きする側に回ったって、それだけの事ですよ」
そう言ってフフフッと笑うシアの表情が怖くて、ミールが何を言ったのか聞くことを躊躇い、俺はただ「そ、そうか」と答えるしか出来なかった。
「ほらほら、旦那様もシアお姉ちゃんも、そんな事は今はいいじゃないですか。それよりも早く出発しましょうよ」
「お、おう。そうだな、ミリーの言う通り、早く行くとしようか」
「「「「はい」」」」
早く出発しないと、そろそろエルに意識を刈り取られたグラス王が復活してこの部屋に来るような気がする。
もしそうなってしまったら面倒な事になり、出発の時間が遅くなってしまう可能性が十分にあるのだ。
「それじゃ、とりあえず街の外に行くぞ」
こうして俺達は、グラス王が復活する前に城を抜け出し、シルフの案内の元、2匹の[世界を蝕む闇]がいる場所へと出発した。
次回 第210話 ソレは最高のモノだった




