第204話 向かう先には
予定していたタイトルを変更しました。
「まいったな、アレがどの方角に飛んだのか全く分からん」
逃走した[世界を蝕む闇]を追いかけ、龍籠に乗って[嘆きの穴]の外まで戻ってもらった俺達なのだが、追いかけ始めるのに時間が掛かってしまった事も有り、[世界を蝕む闇]を完全に見失ってしまったのだ。
しかし、俺達にはシルフが居る。
シルフは風から情報を得る事が出来るようなので、きっと[世界を蝕む闇]の向かった先くらいは分かるはずだ。
そんな訳で、俺はシルフへと尋ねてみる事に。
「シルフ、[世界を蝕む闇]がどこに行ったのか風に聞けないか?」
「ちょっとまって」
そう言って宙に浮いたまま目を瞑り、風の声を聴こうと意識を集中させ始め、そんなシルフに俺達の視線が集中する。
俺達の会話も無いまま5分程の時が過ぎ、シルフの目がついに開く。
[世界を蝕む闇]の行き先が解った事を願いながら、俺はシルフに声を掛ける。
「わかったのか?」
「あ~、ちょっとマズい場所に向かってるみたい」
そう答えたシルフの顔は、まるで「最悪だ」と言わんばかりのしかめっ面である。
そんなシルフの表情から、一体何処に居るのかを聞くのが嫌になったが、それでも聞かない訳にもいかない。
「まずい場所?一体何処に向かってると言うんだ?」
「ココから南東方面にある、この国の王都ウィンディア」
「…oh」
まさに最悪とも言える行き先に俺の思考が一瞬止まり、次の瞬間には右手で両目を塞ぐようにし、少し上を向きながらエセ外国人の様な声を漏らしていた。
せめて人の居ない様な場所へと向かってくれれば良かったものを、なぜ王都方面へ行ってしまったのか?
出来ればそのまま王都を通り過ぎるか、王都よりも手前で方向転換してくれれば良いのだが、と考えていた。
すると、そんな俺の服が背後から控えめに引っ張られ、そちらに顔を向けてみると、そこには心配そうな表情でこちらを見ているエルの姿があった。
「ナツキ様…」
エルは風の国の元王女である。
つまり、現在[世界を蝕む闇]が向かっている先である王都には、エルの両親が居ると言う事になる。
その名の通り、世界を蝕むような存在が自分の故郷であり、両親の居る場所へと向かっていると知れば、そんな表情になるというものだ。
そんなエルの心境を、少しでも早く晴らしてあげたいと思った俺は、エルの頭を軽く撫で、レイへと指示をだす。
「レイ!いつも以上の強力なウィンドシールドを張るから、こっちの事は気にせず全力で王都方面に飛んでくれ!」
『了解しました、マスター!』
レイの力強い返事を聞いた俺は、シルフの協力を得て覚えたての精霊王の力を使ったウィンドシールドを使い、レイと龍籠を包み込む。
この時に使った俺自身の使った魔力は、普段の空の旅の時に使っているウィンドシールドの魔力量よりも少し多めである。
レイは自身と龍籠がウィンドシールドに包まれた事が分かると、気合を入れるかのように大きく一鳴きし、南東方面へと向け、風を切りながら飛び始めた。
その速度は、以前レイの背に乗って体験した時のように早く、周りの景色はすさまじい勢いで流れていく。
道中、シルフには[世界を蝕む闇]の向かう先を常に確認してもらっていたのだが、レイが全速力で飛び始めて数分経った頃、[世界を蝕む闇]の動きが止まったと、シルフが言う。
それを聞いた俺の中に、嫌な予感が走る。
LUK値の高い俺の予感は、80%の的中率がある。
この時ばかりは外れてくれと願っていたのだが、その願いは叶う事は無かった。
「王都ウィンディアの上空みたい」
次回 第205話 ウィンディアでの戦い




