第202話 タイプ
「お、オレっち、今まで色んな冒険者達の野営風景を覗いて来たけど、流石にこういうのは初めてかな…」
目の前の家を見上げつつ、呆れたようにシルフはそう口にした。
現在俺達が居る場所[嘆きの穴]という小高い丘の上に空いた、直径300m程の穴のすぐ隣であり、ここで野営をしようと言う事になった。
そんな訳で俺はアイテムボックスの中からアレを取り出し、シルフはそれを見ていた。
「だろうね、僕もまさかこんなのを作って、しかもそれをアイテムボックスに入れて持ち運ぶなんて思いもしなかったもん」
俺の頭の上に居たサラは、我が家の半分程のサイズはあろうとか言うログハウスを見上げるシルフの隣に降り立ち、そう口にする。
「まぁ、俺としてももう少しコンパクトな家にすべきかなとは思ったんだが、作ってる途中であれも必要これも必要って考えてたら、このサイズになってしまったんだよ」
「いや、そもそも野営っていうのは[家]じゃなくて[テント]を使うと、オレっちは思うんだ」
ジト目でこちらを見ながらそう呟くシルフと、その隣で呆れた表情をしているサラを両脇に抱え「そんな細かい事はきにすんな」と口にし、ミール達と一緒に家の中へと入る。
その後、ミールとノアの作った料理を食べ、食事が終わると、今日の所はさっさと寝てしまおうと言う事になり、俺達は皆揃って寝室で眠る事となった。
流石に今夜は嫁達とはお休みのキス以外は何も致してない。
翌日、 まだ少し外が暗い内に目が覚めた俺は皆を起こさない様にと、この建物のリビングへと転移し、皆の朝食を作り始めた。
まぁ作ると言っても、アイテムボックスに入れておいたパンとレタスの様な野菜、そしてハムを取り出し、それらを一纏めにするだけである。
要はサンドイッチだ。
サンドイッチを人数分用意し終えたところで、一旦それらをアイテムボックスに仕舞い込み、皆を起こそうと寝室へと向かう。
「起きろー」
部屋の扉を開きながら、少し大きめな声で呼びかけるのだが、これで起きるのはシアとエル、そしてレイの3人くらいだ。
そんな訳で、目を覚まさないミール、ノア、ミリーの3人と、何故か床で仰向けになり、お腹を丸出しにした状態で寝ているサラとシルフを起こしていく。
「ナツキー、もっと食べたいー」
「オレっちもー」
皆を起こし終えた後、リビングで先程作ったサンドイッチで軽い朝食を済ませるのだが、サラとシルフには全然足りなかったらしいのだが、そんな量は作っていないので昼にはたっぷりと食わせてやると約束し、我慢をさせる。
朝食が終わり、外に出てから[家]をアイテムボックスへと仕舞う事で、野営の片づけが完了し、この後の事について話し始める。
最初に、目標の現状についてシルフに聞いて見たのだが、どうやら全く動きは無いらしい。
むしろそれどころか微動だにしていないらしい。
ところで、どうやって現状を確認しているのかと、今更ながらに訊ねてみると、どうやら[嘆きの穴]から流れる風が教えてくれるとの事。
風が教えてくれるとか、流石は風の精霊王と言うところだろうか?
「微動だにしてないのが微妙に気になるけど、とりあえずまずは穴底までレイに運んでもらって、目標の姿が見え次第、全員で一気に攻撃を…」
「あの、主様」
この後の動きについて話している途中、ノアは控えめに手を上げながら俺の名を呼ぶ。
「どうした?」
「わざわざ下に降りなくても、ココから皆で全力の魔法を打ち込めば倒せるんじゃないでしょうか?」
確かにノアの言いたい事は分かる。
むしろ俺もそれを考えた位だ。
しかし、それをする訳にはいかない訳があるのだ。
「あー、それなんだが、俺もその手段は昨日の時点でかんがえてたんだけど、やめて欲しいって言われたんだよ。女神モイラ様に」
時間は少し遡り、昨夜、早めに就寝した後の事について俺は語り始めた。
皆との挨拶をすませ、早々に意識が眠りへと就いたところで、俺の意識は狭間の世界へと呼ばれていた。
狭間の世界に来た事に気づいた俺は、いつものように運命の女神であるモイラに挨拶をし、今日呼ばれたのはどういった内容なのかと訊ねてところ、こう答えた。
「絶対に[嘆きの穴]の周囲を崩すような事だけはしないで下さい」
何故だろうかと、その理由を訊ねて、女神モイラにはそれを実行した場合の未来が見えたらしい。
詳しくその内容を聞いてみたところ、[嘆きの穴]の周囲にはいくつもの空洞があるらしく、そんな状況の所に俺達が全力の魔法を撃ちこむと、広範囲にわたり地面が陥没していき、それによりこの辺り一帯の地形が変わってしまうそうだ。
その結果、ここ等一帯に生息していた生き物達に影響が出始めて行き、終いには生態系のバランスが崩れ始めてしまうと言う未来だったそうだ。
「とまぁ、そんな訳でココからの全力の魔法っていう計画は駄目になった。ああ、それともう一つ、どうやらこの穴の底にいる奴は防御に特化したタイプらしい。
聞いた話じゃ、俺達がここから魔法を撃ちこんだ場合、周囲に影響が出るだけで、[世界を蝕む闇]自体には全くダメージを与えれていなかったそうだ」
正直そんな奴に勝てるのかと不安になったのだが、その心配は必要なかったようだ。
というのも、今回の相手は遠距離攻撃に対しての防御力が高いだけで、至近距離ならばダメージを与える事が出来るようだ。
この事を皆に話し、納得してもらえたところで俺達は元の姿に戻ったレイの背に直接乗り、ゆっくりと穴底に向かい降りて行った。
次回 第203話 まさかの…




