第193話 お仕置きと紹介
オルリア村を出発して15分程経った頃、俺と人の姿になったレイは王都の門前へと辿り着いた。
門前にはある程度見知った兵が経っており、街に入るための手続きをしてもらう。
その際、俺が連れて来た盗賊達の事を聞かれ説明する羽目になったのだが、そのおかげで盗賊達の引き渡しはこの場で出来る事を知る事が出来た。
これで態々城まで行く必要は無くなり、手間が省けた。
だがしかし、ここで引き渡しをしたからと言ってすぐに報酬がもらえるわけではない。
盗賊達に賞金が掛かっているかを調べ、その後に報酬を出すための手続きをしなければならないらしく、結局報酬がもらえるのは明日の9時以降と言う事となった。
「仕方ない、レイ、帰るぞ」
「はい!マスター」
とても嬉しそうに答えるレイは、再びドラゴンの姿に戻るなり俺が乗りやすい様にと、背を向け腰を低くしてくれた。
レイの背中の中央よりやや首に近い位置には、一枚の虹色に輝く鱗があるのだが、俺はそれに触れない様にと気をつけながら登っていき、首筋に近い位置に座る。
俺が触らない様に気を付けている事に気づいたレイは、若干寂しそうな表情になったが、「村に着いてからな」と言うと、再び嬉しそうな表情になり、大きく咆哮をあげ、大空へと勢いよく飛び立った。
そんな俺達の様子を、門番やその周辺にいた商人、はたまたこれから出発しようとしていた冒険者達が、驚愕の色を浮かべながら見ていた。
しかし、そんな周りの様子を気にしている余裕は俺には無い。
というのも、レイがあっという間に大空高くまで飛び上がったと思うと、次の瞬間にはこれまでに味わった事のない恐怖を感じるほどのスピードで移動を始めたのだ。
多分これはレイが出せる全力のスピードなのだろう。
一応普段通りにウィンドバリアを使ってはいるが、魔力の消費量はいつもの4倍である。
数字で言うと普段のMP120消費に対し、現在は480も使用していた。
それ程の速度で空を飛び、途中で再び咆哮をあげるレイの様子に、俺は思った。
それほどまでにその鱗を触ってもらえるというのが嬉しいのかと。
そんなこんなで、10分もしないうちにオルリア村に戻って来た俺とレイはエキナ達の家へと向かう。
「おかえりなさいませ主様。ずいぶん早かったですね」
家までもう数メートルと言ったところで、丁度玄関から出て来たノアが俺とレイに気づき、不思議そうな表情で話しかけて来た。
「ただいま。盗賊達は王都の門前で兵に引き渡しするだけだったからな。まぁ色々と手続きがあるみたいで、結局お金をもらえるのは明日になるらしいが…」
「そうでしたか。高額報酬になると良いですね」
「ああ、そう願ってる。ところでそっちの方はどうだ?終わりそうか?」
「こちらはすぐに終わりまして、すでにミールさん達は家に戻ってます」
「へぇ、そっちも早かったんだな」
「荷物も多くありませんでしたし、それに8人で手分けしてやってましたから」
ノアはそう答えると、「ふふふ」と優しい笑顔を浮かべていた。
「まぁ、確かにあれだけしか荷物が無かったし、そんなもんか」
引っ越しの準備と言う割に、3人共旅行に行く様なレベルの荷物しか持っていなかったという姿を思い出しながら、俺はそう呟いた。
「ところで皆帰ったってわりに、ノアはなんでまだここに?」
「エキナおばさん達がエマルさんのお茶が気に入ったそうなので、エマルさんに頼んで少しばかり譲ってもらい、それを届けに来ていました」
なるほど、と答えると、ノアはこれから家に戻るところだったと言う事で、3人で一緒に家へと歩き始めた。
我が家に着き、リビングへの扉を開くと、目の前には久々に少女の姿になっているサラと、見知らぬ少年が土下座していた。
何故?そしてサラの隣に居る少年は誰だ?
そんな疑問で頭が一杯になっていると、サラと謎の少年の後ろにミールが立ち、この状況について説明してくれた。
まずこの二人が土下座をしている理由は、村に盗賊が来た時、隣の少年と一緒に昼寝をしていて気づかなかったそうで、その事で俺が怒るだろうと思い、こうして謝罪の気持ちを込め、土下座をしているそうだ。
そして次に謎の少年についてだが、こちらは風の精霊王だそうだ。
「って、まてまて!なんで風の精霊王がここに居るんだ?ってか、風の精霊王までなんで土下座してるんだ?別にこの村を守る様に頼まれている訳でもないんだからそんな事をする必要はないだろ?」
俺の疑問に、風の精霊王である少年は「それがさ」と気軽な感じで話し始めたところでサラが慌てて止め始めたのだが、俺がそんなサラの口と体を抑え込み黙らせ、風の精霊王に話の続きをするように促す。
「火の王がオレッちにも一緒に謝ってくれって、そうすりゃきっとこうやってオレッちも頭を下げる理由を聞くことでうやむやに出来る可能性があるって」
・・・
多分この風の精霊王が言っている事は本当なのだろう。
その証拠にサラは滝の様な汗を流している。
俺はサラに子龍の姿になる様に命じ、子犬サイズの龍になったのを確認した後、小さく「お仕置き」と呟いた。
次回 第194話 約束と契約~前編~