第189話 空き家あります
空を移動し始めて20分と少々、俺達はオルリア村に到着する。
王都を出発してからオルリア村に到着するまでの間、タージュとボーロは初の空の移動に興奮しっぱなしだった為か、到着する頃には少しお疲れている様だった。
『マスター、レイはミールさん達のところに行ってきますね』
「ああ。運んでくれてありがとな」
レイに労いの言葉をかけると、人の姿になったレイは俺にペコリと頭を下げた後、孤児院へと向かい走って行く。
そんなレイの後姿を見送った後、俺は少し焦りながらも、タージュとボーロに声を掛けた。
「さて、タージュさん、ボーロさん、オルリア村にようこそ!
今はまだ開発中なので何にもない村ですが、いずれは立派な街になる予定です」
全ては冒険者ギルドが出来てからの話ではあるのだが…
ともかく、[恵みの湯]やギルドがまともの運営出来るようになれば、訪れる人も増え、この村に住む者も増えると俺は思っている。
「それじゃあ早速ですが、お二人を[恵みの湯]に案内しますね」
しなければならない事が出来た俺は、少し急ぐようにしてタージュとボーロを[恵みの湯]へと案内する。
因みに、そのしなければならない事というのは、オルリア村をへと向けて空を移動中、タージュ達にオルリア村の場所を知ろうとした理由を聞いている時に発覚したのである。
と言うのも、どうやらタージュ達は王都の中央広場にある広告を見て[恵みの湯]にある温泉の効果を試したくなったらしい。
なんせ、アルベルト王が実際にその効能を体験し、満足したという温泉なのだから。
だが、タージュ達はすぐに[恵みの湯]に向かう事は無かった。
いや、正確には出来なかったのだ。
では何故二人はすぐに出発しなかったのか?
答えは簡単!
オルリア村が出来た事は公表されたわけではなく、更には全くという程に知名度は低い。
そんな現状であるにも関わらず、皆で作った広告には[恵みの湯]の宣伝と料金等を書いているだけで、オルリア村の場所は書かれていなかったのである。
大失敗だ。
以前にシアが言っていたのだが、どうやら俺は本当に肝心なところが抜けているようだ。
そんな訳で、俺はタージュとボーロを[恵みの湯]に案内し、後の事は従業員に任せてから、急ぎオルリア村の場所を書いた地図を作成し始めた。
地図の作製は10分程で完成し、俺はすぐさま王都にある転移ポイントへと転移すると、中央広場に向けて走る。
中央広場へと辿り着くと、すぐに掲示板のある場所へと向かい、俺は先程作成した地図を[恵みの湯]の広告の隣へと貼り付ける事で、緊急ミッションは完了となった。
こうして無事に?ミッションを完了させた後、俺は王都の転移ポイントに向けて歩き、そこで靴を脱いでから俺の部屋へと転移するのであった。
「ただいま」
靴を玄関に置いた後、そう口にしながらリビングへ入ると、エキナ、ボード、シルバ、ノア、シアの5人は楽しそうに話していたのを止めそれぞれが「おかえり」と迎えてくれた。
「ところでナツキさん、戻ったばかりの所申し訳ないんだけど、一つお願いがあるの」
そう言って声を掛けて来たのは、ノアとシアの育ての親であるエキナだ。
俺にお願いとは一体何だろうか?
そんな疑問を感じながら、俺はエキナに「なんでしょう?」と尋ねる。
「私、ノアとシアの居るこの村に住もうと思うのですが、お許しいただけますか?」
「「エキナおばさん!?」」
「「エキナさん!?」」
どうやらノアとシア、更にはボードとシルバまでもがエキナのお願いについては予想外だったらしく、4人はとても驚いていた。
かく言う俺も、まさかノアとシアの育ての親であるエキナがこの村に住みたい等と言い出すとは思ってもみなかったので、結構驚いている。
が、俺はすぐに平常心を取り戻し、あっさりとエキナに対し許可を出した。
「なんなら丁度空き家もあるし、そこに住みますか?」
「空き家を?良いのですか?」
「はい。この村への入居希望者第一号と言う事で、空き家をお譲りします」
突然のこの村に住むという宣言をしてノアとシア、更には共にやって来たボードとシルバまで驚かせたエキナだったのだが、今度は入居の許可をもらえた挙句、空き家まで譲ってもらえると言われ、驚く側となっていた。
次回 第190話 増えた入居者
200話が近づいてまいりました!
…深い意味はありませんがね!