第188話 あまり知られていなかった
「それっぽっちじゃ教えられねぇな!」
「どうしてよ!情報料としては十分なはずよ!」
冒険者ギルドの扉を開き中へと入るなり、つい最近聞いたことのある女性の声が聞こえて来た。
声の聞こえた方へと視線を向けると、そこにはタージュとボーロが、ガタイの良い冒険者と険悪なムードを漂わせていた。
今しがた聞こえて来た内容から、タージュ達は何かの情報を求めているようだ。
タージュは一体何の情報を求めているのだろうか?
そんな疑問を持ちながらも、俺は自分の目的を果たす為、受付に座るミオの姿を見つけたのでミオの元へと向かう。
「こんにちはミオさん」
「お待ちしておりましたナツキ様、準備してまいりますので少々お待ち下さい」
そう言ってミオは立ち上がり、奥にある棚へと向かい、そこに置いてある中身の詰まっていそうな皮の袋を手に取り、受付へと戻って来た。
「お待たせしました。こちらが先日受けていただいた討伐依頼の報酬です」
「ありがとう」
差し出された皮の袋を受け取ると、その重みを感じて中身を確認したい気持ちになりつつも、そんな気持ちをグッと我慢し、すぐにアイテムボックスへと仕舞い込む。
「ところでナツキ様」
俺が報酬の入った袋を仕舞うのを見届けたところで、ミオが再び俺の名を呼部。
「何です?」と答えると、ミオは俺の方へと顔を近づけてきた。
「私、オルリア村の冒険者ギルドが完成したらそちらに転勤する事になりましたので、その時はよろしくお願いしますね」
周りには聞こえないと小声で、嬉しそうに話すミオの言葉に少し驚いた俺は「それなら…」と、ギルドが完成後にはコロンを働かせる予定であることを伝え、また同僚として仲良くしてやって欲しいと伝えると、ミオは笑顔で「勿論ですよ!」と、明るく答えてくれた。
「さて、それじゃあ俺達はそろそろ帰るとするよ」
「はい。またのお越し、お待ちしております」
受付のカウンター越しに笑顔で見送るミオを背に、俺とレイは冒険者ギルドから外へ出る。
するとそこにはタージュとボーロが待ち構えていた。
「待ってましたよナツキさん!」
「タージュさんにボーロさん、俺に何の用です?」
「ナツキさんはオルリア村をご存知ですか?」
タージュは俺の二つ名である[一閃]や、Sランク冒険者であることは知っていたようだが、どうやらオルリア村や、その周辺が俺の領地になっている事は知らないようだ。
「そりゃ(俺の領地だから)知ってますが、オルリア村がどうしたんですか?」
「ホントですか!?」
タージュは、期待に満ちた目をしながら、一瞬で俺に詰め寄ってきた。
そんなタージュの動きに驚いた俺は、タジタジになりながらもタージュに答える。
「あ、ああ、本当だ」
「どうかオルリア村の場所を教えてください!情報料なら払いますから!」
タージュの求めていた情報が、まさかのオルリア村の場所だった事に驚いた。
だが、それは仕方のない事である。
なんせオルリア村を完成させてから昨日までの間、その存在をアピールした事など無かったのだ。
昨日配った[恵みの湯]の広告こそ初のオルリア村をアピールする活動であり、これにより客が来るようになれば、きっとオルリア村の知名度は上がると、俺は信じている。
「情報料なんていりませんよ。それよりも俺達はこれからそのオルリア村に帰る予定ですが、一緒に来ます?」
「良いんですか!?っていうか、ナツキさんってオルリア村に住んでたんですね」
「というよりも、あの辺りは俺の領地だしね」
「「え!?」」
俺の領地という言葉に、タージュとボーロは声を揃えて驚き、その目を大きく見開いていた。
どうやら俺の二つ名の事についての情報は持っていながらも、俺が爵位持ちだという情報は持っていなかったようだ。
「レイ、そんな訳で帰りはこの二人を一緒に運んでくれ」
「わかりました」
帰りも俺を背に乗せれると思っていたのであろうレイは、それが叶わない事が残念そうな表情をするが、二人を運んでくれる事を了承してくれた。
そんなレイの為にも、近い内にまた背に乗せてもらえるように俺から頼むとしよう。
その後、俺が貴族である事を知り慌て始めたタージュとボーロを落ち着かせ、一緒に王都の外へと移動する。
そして王都の外へ出るなり、龍籠をアイテムボックスから取り出し俺達は龍籠に乗り込むと、元の姿に戻ったレイによって俺達は空へと昇っていく。
尚、タージュ達は俺がアイテムボックスを使えば驚くだろうと思っていたのだが、どうやら俺がアイテムボックスを使える事を噂で知っていたらしく、龍籠を取り出す時に驚いた様子を見れなかったのがちょっと残念に思えたのは内緒だ。
次回 第189話 空き家あります