第181話 真の強敵は……
「ミール、こいつはいつからあそこに居たんだ?」
50m程先で、夜の闇に紛れるようにして佇む、全長1m程の真っ黒なボアを睨みつけながら、俺はミールに尋ねてみる。
しかし、ミールから帰って来た答えは「わかりません」というものだった。
「俺の探知のスキルにも反応は無かった、まさか、こいつは探知スキルから逃れる術でも持っていると言うのか?」
「もしかして、主様みたいにテレポートスキルを持ってたりして?」
冗談交じりにシアはそう言うのだが、それは無いと俺は思う。
何故ならテレポートスキルは、自分のいった事ある場所、もしくは視界に移る範囲にしか転移できないからだ。
ただ、可能性としてあの真っ黒なボアがこの場所を知っていたという事もありうる。
「とりあえず考えるよりも、あいつの情報を視る方が早いな」
そう結論付けたところで、さっそく目の前の魔物に向かい俺は完全鑑定を使用した。
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ダークスピリット
LV 1
HP 2381
MP 0
STR 2058
VIT 1893
AGI 1938
INT 0
DEX 2014
LUK 0
スキル
恨みの声
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真っ先にスキルを確認してみたところ、どうやら探知スキルから逃れるようなスキルや、テレポートスキルは持っていないらしい。
そして現状、視界には確かに存在しているにも関わらず、探知スキルには反応がない事から、このダークスピリットという魔物は元から探知スキルに反応しない魔物だと言う結論に至った。
「あいつの名前はダークスピリットっていう名前らしい、レベル1なのに、一部を除いてステータスが2000前後もあるぞ。
後、スキルは恨みの声と言うのがあるだけだ」
視えた情報を口にすると、それに反応したのはエルだった。
「ダークスピリット…そういえば昔、本で読んだことがあります。
強い負の感情が多い場所で、極稀に現れる災害級の魔物だとか。
記録によれば、前回現れたのは200年程前で、地の国のどこかの戦場と書かれていた気がします。
後、ダークスピリットには決まった姿と言うものがなく、その辺りに居たモノの姿形で突如現れ、破壊の限りを尽くして回るそうです」
災害級の魔物。
確かにこのステータスを見れば納得である。
だがそこでは俺はふと思った。
あのステータスで災害級と言うのならば、俺の今のステータスは何級になるのだろうか?
そんなしょうもない事を考えていると、ボアの姿をしたークスピリットの体がゆらりと動き、俺達に向けて前進し始めた。
その動きはとても遅く、俺の中に油断が生まれてしまっていた。
一歩、また一歩と近寄って来るダークスピリット。
そして俺達との距離が30mを切ったと思ったその時、突如ダークスピリットは俺に向かい、その姿がまるでブレるかの様な速度で突撃してくる。
「っ!?」
油断してしまっていた俺は、その突撃を避けれず、もろに食らってしまい、ダークスピリットに押し倒される形で地面へと倒れる。
「「ナツキ様!」」
「「主様!」」
「旦那様!」
「なつき!?」
「マスター!」
ダークスピリットに押し倒された形になっている俺を心配し、ミール達が一斉に俺の名を呼ぶ。
しかし、いくら災害級とは言えこの程度ではまともなダメージを受ける事のない俺は、ダークスピリットの腹に足を当て、巴投げで投げ飛ばし、スクッと立ち上がる。
「大丈夫大丈夫、これくらいじゃ俺はやられないよ」
心配してくれた皆に何ともない風を装いながら声を掛けるのだが、内心はちょっと驚き、同時に反省していた。
この人間離れしたステータスのおかげで無事だったとは言え、油断していたせいで敵の攻撃を受け、皆を驚かせてしまった。
油断こそが最大の敵なのだと。
そんな反省をしながら、俺は再びダークスピリットへと視線を向ける。
「とりあえず、お前みたいな危険な魔物はさっさと倒してしまうとしようか」
そう言って俺は、ちょっとばかり魔力を込めたフレイムランスを作りだすのであった。
次回 第182話 癒しのモフモフ