第178話 作業の如く
タージュ達と別れてから約1時間と30分程経つが、未だにレイの視界に魔物の大群が映る事は無い。
目撃情報が入ってからそれなりに時間は経っているので、もし魔物の大群が王都方面に向かってきていたとするなら、そろそろ発見できても、おかしくない頃だ。
これはもしかして別の方向に向かっているのかも?と思いながらも、ケニーから聞いたボアの大群が目撃されたという場所へと向けさらに進む。
そして、更に30分程経ったところで、俺達、というよりもレイが魔物の大群を数キロ程先に発見する事が出来た。
どうやら目撃したという場所から、あまり移動はしていなかったようだ。
現在俺達の眼下には、見渡す限り荒野が広がっている。
ここでなら、ミリーやエルにも気兼ねなく魔法を撃たせることが出来る、好都合な場所だ。
「よし、それじゃあレイ、この辺で下ろしてくれ」
『分かりました』
所々に茶色い岩が存在する荒野に、俺達の乗っている龍籠がゆっくりと下ろされ、続いてレイも大地へと降り立つ。
全員が龍籠から居り、俺はソレをアイテムボックスへと仕舞い込む。
もし俺達の戦いの影響で壊れでもしたらまた作り直さねばならない。
一応龍籠(大)もあるのだが、あれはあくまでも大人数用なので、普段は使わない事にしている。
と言うのも、以前に食事中の話題でレイが言っていたのだが、あの大きさの龍籠を運ぶにはバランスをとるために集中しなければならないらしく、疲れるそうだ。
そんな訳で、龍籠を仕舞い終えた俺は、アイテムボックスの中からマジックポーションを2つ取り出す。
「ミール、シア、二人にはこれを渡しておく」
そう言って俺は二人に取り出したマジックポーションを手渡した。
「ミリーとエルが全力で魔法を使ってMPがなくなるだろうから、ミールとシアはMP切れを起こしたミリーとエルに飲ませてあげて」
「わかりました」
「はーい」
「ノアは全力でウインドシールドを使って、俺達を守っていてくれ」
「わかりました」
俺の予想が正しければ、ミリーとエルが全力で魔法を撃つ事で、きっとものすごい衝撃波が襲ってくるはず。
なのでこれは非常に重要な事だ。
『マスター、私は何をすればいいですか?』
レイの声に反応し、俺はそちらの方へと向くが、その瞬間、俺の目は眩い光に襲われた。
というのも、太陽の光をその身に受け、真っ白な鱗が太陽光を反射し、丁度俺の方へと照り返している。
鏡等で反射した光が目を直撃するという、あの現象である。
眩しくて目を開けてられない。
俺は一旦レイから視線を外し、レイの陰になっている位置に居る、ミールの傍へと移動する。
『あ!眩しかったのですね。申し訳ありませんマスター』
「気にするな。それよりもレイの仕事だが、この後俺が1㎞感覚で左右に壁を作るから、レイはあの大群の後ろまで飛んでいって、うまくその壁と壁の間に誘導してきてくれ」
『分かりました。一匹たりともはぐれさす事無く誘導して見せます!』
何故か今日のレイはやたらと張り切っているようだ。
強者として、獲物を追い込むのが楽しみなのかな?
まぁ、そんな事はさておき……
「で、うまく先頭の集団が誘導されてきたら、ミリーとエルはそこに向けて全力で魔法を撃ち込むように」
「「はい!」」
ミリーとエルもかなり殺る気に満ちている。
そんな二人の様子を見ていると、俺の横に居たミールとノアの話声が聞こえて来た。
「なんだか主様ってこういう大群の相手の仕方に詳しいわね」
「そうですね。きっとナツキ様は元の世界でこういった狩りを良くしていたのかもしれません」
何やらミールが見当違いの予想を立てている様なので、訂正をしておく。
「元の世界で俺は狩りなんてしてないからな。寧ろ狩りをする様な環境じゃなかったし」
「違ってました」
予想が違っていたと、ミールのお耳と尻尾がシュンとなってしまった。
そんなミールの頭をナデナデして励ましておく。
「さて、それじゃ俺は早速壁を作って来るから、レイも魔物の大群の背後へと移動してくれ。
他の皆もすぐに動けるように準備しておいてね」
そう言って俺は早速壁を作る場所へと走り、創造スキルによる土の壁を作り始めていく。
壁は魔物達がぶつかって壊されぬよう、土を圧縮し、幅も増やして頑丈なものにしていく。
この作業が終わったら次は反対側の番となる
俺は黙々と作業をこなして行く。
俺のタイムリミットは、レイがここまで敵を連れて来るまでである。
それまでの間に完成させるべく、俺はひたすらに創造スキルを使い、壁を完成させていく。
それはまるで、普段村で家を作る作業の如く、黙々スキルを使用していく。
次回 第179話 真・ボーナスステージ