第175話 久し振りに依頼を
やはりと言うべきか、ミリーが述べた提案とはお城に来るお抱えの商人に頼むというものだった。
元王女であるミリーの知っている宛てと言えば、それくらいしかないだろう。
もし他に商人の知り合いがいたとか言われれば驚くが、その可能性はほぼゼロである。
かく言う俺には、行商を頼めるような商人に知り合いが居るわけもなく、そのお抱え商人とやらに話をする他はないのだ。
とはいうものの、その商人の家をミリーが知っているはずもなく、すぐに会う事は出来ない。
後でアルベルト王にお願いして、アポをとってもらうしかないかな?
そんな訳で、とりあえず手元の広告が残り2枚となったので、俺達はミール達が居るであろう冒険者ギルドへと向かう事に。
尚、この2枚を残したのは、俺の中でコレを配る予定があるからである。
大通りへと戻って来た俺達は、そこから南へと向かい中央広場を目指す。
中央広場へと辿り着くと、北東に位置する場所にある建物、冒険者ギルドへと入っていく。
ギルドに入った俺達3人は、受付嬢のケニーと何か話をしている様子のミール達を見つける。
「どうやらミール達も配り終わってるみたいだね」
ミリーとエルに聞こえるようにそう言うと、俺達はミール達の居る受付へと近づいていく。
すると、そんな俺達にミールが真っ先に気づき、こちらへと振り返る。
「お疲れ様ですナツキ様、」
「お疲れ、その様子だとそっちも終わってるみたいだね」
「はい。ギルドに入ったら裕福そうな方が多く居らっしゃったので、そう時間をかける事なく配り終える事が出来ました」
受けたミッションを完遂出来た事を嬉しそうに話すミールの尻尾はユラユラと揺れていた。
「そうか、ありがとな、ミール、ノア、シア、レイ」
お礼を言いながらも、俺は4人の頭を順に撫でていく。
「ところでさっきはケニーさんと何を話してたんだ?」
「それが…」
そう言ってミールは視線をケニーへと向ける。
「それについては私からお話します。
実はこの王都から南東に馬車で5日程向かった場所で、ボアの大群を目撃したという情報があったのです。
目撃者によれば、その数はおよそ300頭は居たと」
「300頭!?またすごい数だな。というか、それだけが群れを成していると言う事は、それを率いる上位種もいるんじゃないですか?」
「はい。ハスマ様も同じことをおっしゃっておりました。なのでDとCランク冒険者を複数、そしてAランク以上の冒険者を3組以上を募集して討伐隊を編成し、その大群を排除する事が今朝決定されました。
この依頼書は12時より張り出す予定となっているので、まだ正式に募集は始まっていないのですが、丁度この場に[一閃]のパーティの方達がいらしたので参加していただけないかという話をしていたのです」
「なるほど、わかりました。それならその依頼、俺達に任せてください。サクッと片付けておきますよ」
ケニーの話す内容に、これは久々の大量ステータスゲットのチャンス、と内心大喜びしながら俺はこの件の処理を申し出た。
もしこの俺にもミールのような尻尾があったら、きっと激しく揺れてしまっている事だろう。
「え!?しかし相手は300もの大群ですよ?しかも上位種もいる可能性だってあるんです、流石にSランクといえ[一閃]のパーティだけでは…」
「大丈夫です、それにほら、俺達には精霊王であるサラとディーがいますから」
なかなか首を縦に振らないケニーに、俺は精霊王である二人の名前を出してみるのだが、それでもケニーは「ですが…」と承諾してもらえない。
まぁ、普通に考えればいくら強くてもその数を相手にするのは無理だと思われるのも仕方がない事だ。
そんな訳で、俺は最後の札を切る事に。
「それなら、ハスマさんに聞いてみてください、俺達に任せてもいいかどうかを」
「わかりました、それでは聞いてまいりますので少々お待ちください」
そう言ってケニーは受付の奥にある扉の先へと消えて行くが、すぐに戻って来た。
「おまたせしました。ハスマ様に尋ねてみたところ、[一閃]の皆様になら任せても大丈夫と、むしろ任せた方が良いと言う事ですので、さっそくこの依頼の手続きをさせていただきます」
事務的なやり取りをしているケニーだが、扉の奥から戻ってきてからというもの、ずっと不思議そうな表情をしている。
「ありがとう。ところで、その[一閃]って俺達のパーティ名の事だよね?俺登録した記憶がないんだけど?」
いつの間にか俺達のパーティ名が登録されてしまっている件について尋ねてみると、ケニーは申し訳なさげな表情で答えた。
「すみません。本来ならパーティリーダーであるナツキ様に決めていただく事なのですが、なかなか登録される様子がなかったからと、ハスマ様が、それならもうナツキ様の二つ名でもある[一閃]で良いだろう、と」
勝手に決められた事に対して少し言いたいこともあるが、いつまでも登録をしなかった自分にも非があるし、名付けのセンスもない自分が考えるよりはマシか?と思った俺は、その[一閃]というパーティ名を正式に採用してもらう事にした。
因みにこのパーティ名だが、登録して1年以内であれば1度だけ変更が可能との事らしい。
次回 第176話 戦う商人タージュ