第171話 見てしまったが故に
ロビーに従業員一同が集められ、宣伝用広告についての話し合いが行われた。
とは言うものの、書く事なんて宿泊料金、場所、そして[恵みの湯]の魅力に注意事項位だ。
話し合いで出た案は俺のアイテムボックス内に有るメモ帳に記入していき、それを元に原版を作成する。
その後休憩時間と称し、俺は一度建物の外へ。
[恵みの]湯の建物から少し離れた森の中へと入り、念の為にと周囲に人の気配がない事を確認してからチラシを作る為の紙の作成を開始する。
作り方は簡単、アイテムボックスから大量のメモ帳の束を取り出し、創造でA5サイズの紙へと作り替えるだけでOKだ。
作る枚数は100枚程でいいだろう。
どうせ今回の狙いはある程度の資産を持つ者が対象なのだから。
その後、紙の作成はすぐに終わってしまった俺は、森の中に入ったついでにと風魔法で周囲の木を少しばかり伐採していく。
鋭い風の刃で地面ギリギリの位置をスッパリと切られた木々が次々に倒れ、周囲に大きな音が響き渡る。
確実にこの音は[恵みの湯]やオルリア村にも聞こえているだろうが、騒ぎになる事は無い。
なにせ、このオルリア村では木々の伐採は日常茶飯事なのだから。
俺は周囲に倒れた木々を次々とアイテムボックスへとしまいながら、そんな心配もせず、全く別の事を考えていた。
「(そういや伐採用となってしまってたダマスカスの剣、アレとの戦闘で折れちゃったんだよな。近い内に新しい武器探しにいくか)」
倒木をすべて回収し終わると、最後に地面に残っている切り株部分も一度創造で木片へと作り替えてから回収していく。
そうしてアイテムボックス内に木々の在庫補充が出来たところで、俺は[恵みの湯]へと戻っていく。
「それじゃこれから作業を始めてもらいます。
広告の原版はこっちに張っておくので、皆さんはそれを見ながらこちらに用意してある紙へ書き写して下さい」
再びロビーへと集まった従業員一同に指示を出し、広告作りの作業が始まる。
原版となるメモ帳を見て、それを書き写すだけの簡単な作業なのだが、すべてが手作業であり、用意した100枚の紙すべてが終わった頃には、すでに外は暗くなり始めてしまっていた。
「皆さんお疲れさまでした。
この完成した広告は明日、責任もって王都で配っておきます。
次のお客様がいつ来るかはわかりませんが、皆さんはそれまでの間、接客スキルを磨き続けておいてください。
それでは本日はこれにて解散です」
オーナーらしくそれっぽいセリフで締め括りった俺は、[恵みの湯]を後にし我が家へと向かう。
その道中、俺の腹から空腹を訴える音を聞き、同時に今日見てしまったレイ達の事を思い出す。
我が家で使われていた卵が、まさかのレイの生んだ卵だったという衝撃の事実を。
「今後、卵を使った料理が出てくる度に、きっと今日の事を思い出すんだろうな」
もうすぐ完全な夜を迎える空を見上げながら、俺はそんな独り言を口にしていた。
次回 第172話 アルカ、一日の始まり