第168話 楽しい1泊2日はもう終わり
用意された食事を目の前にして待つこと10分少々、漸くミール達がリビングへとやって来た。
先頭を歩くミールに、その後ろで肩を並べて歩くノアとシアは笑顔なのに対し、一番後ろをついてきていたエルは、顔を赤くして俯いたままである。
一体どんな話をしてきたのやら……
兎にも角にも、こうして現在この家に居る全員が揃ったところでやっと朝食の時間が始まった。
食事中、サティアとコロンとエルから向けられる視線を感じつつもそれを無視し、俺は食事を続ける。
そうして素早く全ての料理を食べ終えるなり席を立ち、まだ食事中の皆に[恵みの湯]に行ってくると伝え、俺は早々にその場から逃げ出した。
相手がミールやミリー、それにノアやシアならばあの様な視線、気にもしないところなのだが、今回は自分の宣言を破り、ついにエルの純潔を頂いてしまったっている。
流石にこれではいたたまれなくなるというものである。
そんな訳で、俺は家から飛び出すなり、その勢いのまま[恵みの湯]へ向い走り出した。
「周囲の木々を薙ぎ倒す程の勢いで、一体どうしたのですか?」
[恵みの湯]に着くなり、入り口でタリアの姿を見つけ立ち止まった俺に向け、タリアは驚きながらそう言う。
言われて来た道を振り返ってみると、そこにはタリアの言う通り、家からこの[恵みの湯]まで真っ直ぐに木々が薙ぎ倒されていた。
そんな状況を見れば、そりゃ誰だって普通じゃないって思うものだ。
「大方、昨夜旦那様がエルに手を出し、今朝、朝食の間ずっと皆さんの視線を感じて居た堪れなくなり、さっさと食事を終わらせてここまで逃げて来たのではないですか?」
聞きなれた声が背後から聞こえ、そちらへと視線を移すと同時に、声の主は俺の体へと抱き着いてきた。
「おはようミリー。それにしても、まるで見てたかのような回答だな」
「おはようございます旦那様。で?どうなのですか?」
「半分正解と言ったところだ」
ホントは完全正解なのだが、俺はついつい見栄を張る。
そんな俺の顔をじっと見つめ続けるミリーの視線に、俺は少しだけ視線が泳いでしまった。
それをみたミリーは、意味深な笑みを浮かべた後、俺の体からそっと離れた。
「まぁ旦那様がそう言うのなら、そう言う事にしておいてあげましょう」
貴方の事くらいお見通しと言わんばかりに、余裕の表情を浮かべながらミリーはそう言う。
これはもう確実に俺の見栄はバレた様だ。
「そんな事より、どうだった?親子水入らずの一泊二日は」
見栄の件については諦め、俺は話題を変え、親子の時間を過ごした感想を尋ねてみる事に。
「3人で並んで眠るなんて初めてでしたが、おかげで昨夜はお母様に甘えながら眠る事が出来ました。
あんな風にお母さまと眠ったのは、子供の時以来です」
「そっか。それならきっとコーネリア様も喜んでくれた筈だな
ミリーの感想に答えながらも、そこにアルベルト王の話題が上がらない事に気づいた俺は、きっと母子が仲睦まじく眠る傍で一人寂しく寝ていたのでは?と心配になるのだが、あえてその事については触れる気にはなれなかった。
もしそれが本当なら、コーネリア同様に、ミリーと過ごせる一夜を楽しみにしていたアルベルト王が可哀相で仕方がないからである。
そんな事を考えていると、俺達の居たロビーに暗い表情のアルベルト王とニコニコ笑顔のコーネリア王妃がやって来た。
二人の後ろには荷物を国宝の如き扱いをしながら運ぶ、3人の従業員の姿もあった。
俺はその3人の従業員達の姿に、それはちょっと丁寧過ぎではないだろうか?と思うのだが、それはそれで悪い事でもないので、口を出さないでおくとしよう。
「おはようございます。昨日はよく寝れましたでしょうか?」
「ええ。何時以来か、ものすごくスッキリとした朝を迎える事が出来ました。それに、久し振りにミリーと一緒に眠むる事も出来ましたしね」
「そうじゃな、こんなに身体が軽く思えるような朝を迎えたのは久し振りな気がする」
「それはよかったです。また今度、時間が作れましたらご連絡を下さい。その時はまたご招待しますので」
「ああ、その時を楽しみにしておるぞ」
次回が何時になるのか分からないが、俺はアルベルト王と握手しつつ、再度招待する交わした。
「さて、それではそろそろお二人をお城までお送りするとしましょう」
そう言って俺は、従業員達からアルベルト王とコーネリア王妃の荷物を受け取るなりアイテムボックスへと仕舞い込み、忘れ物は無いかの確認をした後、二人をお城へとテレポートスキルを使って送り届けたのだった。
次回 第169話 まさかの入手ルートに俺は……
この話の最後、すごく無茶な終わり方をしたような気がします。
ごめんなさい!