第164話 念願の温泉
163話と164話で前後編にしていたのですが、それぞれのタイトルを変更しました。
いつもよりかは、すこーし文字数多めです。
(それでも2640文字)
転移してきた場所は、我が家の玄関前である。
まだ夕日が沈み始めるまでそれなりの時間があるので、村に人の姿はなかった。
きっと今頃は、村人たちは畑仕事中で、孤児達は勉強中なのだろう。
「それでは、って、またか……」
振り向けば、もう何度か見てきた様子がソコにはあった。
アルベルト王もコーネリア王妃も、初めてのテレポート体験に驚いていた。
そんな二人の様子に、ミリーはクスクス笑い、タリアは何故か目を伏せていた。
「国王様、王妃様、とりあえず一度我が家に上がって待って頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
俺に呼ばれ、アルベルト王とコーネリア王妃はハッとなり、俺の方へと視線を戻した。
「も、もちろんだ」
まだ少し動揺しているようだが、アルベルト王からの了承をもらえたので、俺は二人を目の前にある我が家へと案内する。
もちろん家に入る際には、相手が王族だろうがも我が家のルールに従って土足禁止は守ってもらう。
二人をリビングへと案内し、おもてなしはメイド達と嫁達に任せ、俺は一人、靴を再び履いて[恵みの湯]へと転移した。
これまでに何度か利用して来た、[恵みの湯]の入り口から入ってすぐ左手の寛ぎ用スペースに、俺は従業員を集合させ、予定外にも今夜アルベルト王とコーネリア王妃が宿泊する旨を伝えると、当然の如く、従業員達は驚き慌てふためき始めてしまった。
そんな状態の従業員達を相手に俺は話を続ける。
「とりあえず、当初の予定通り我が家のメイド達にサポートを頼んでおきます。
ですが皆さん、彼女達はあくまでもサポートとしてですので、あまり頼らない様に頑張ってください」
「あ、あの!」
こういう話し合いの場でいつも正面に座っている従業員代表のアニータは、未だ落ち着かぬ様子で手を上げている。
「なんでしょう?」
「国王様と王妃様がお風呂に入る場合、お背中をお流しすべきなのでしょうか!?」
「いえ、その必要はありません。今回は私とミリーエルが護衛を兼ね、国王様、王妃様と共に温泉に入りますので、皆さんはその間に食事の用意と寝床の準備をお願いします」
質問の答えに、従業員達一同は多少なりとも安心出来たようだ。
「他にはもう質問ありませんか?」
念の為にと聞いてみると、今度は経理担当であるハキムから質問があった。
経理担当である彼からの質問は、もちろん宿泊費についての事だったのだが、今回に限り無料だと伝えておいた。
ハキムの質問が終わり、他にないかと尋ねてみるが誰も手を上げる様子はなく、俺はこれから家にアルベルト王とコーネリア王妃を迎えに行く事を伝え[恵みの湯]を後にした。
家に戻って来た俺はリビングへと入ると、メイド達以外は椅子に座り、テーブルの上にはサラとディーが立っていた。
何してたのかと尋ねてみると、どうやらサラとディーの2匹がアルベルト王とコーネリア王妃に水の国での話をしていたらしい。
「それでは国王様、王妃様、それにミリーとメイドの皆さん、今から[恵みの湯]へ移動しますので、出発の準備をお願いします」
ミール、ノア、シア、エル、レイ、サラ、ディーを家に残し、一同は家の前へと集まり、俺は皆をつれて[恵みの湯]の玄関前へと転移した。
転移スキルについては、アルベルト王とコーネリア王妃に説明した段階で、隠すことはやめる事にしたので、堂々と使用したのだ。
その結果、従業員達を驚かせてしまったのだが、タリアの咳払いにより従業員達はハッとなり我に戻った。
そして、そんな従業員達の中から、代表であるアニータが一歩前に出る。
「よ、ようこしょいらっしゃいまちた!」
これでまでに何度も練習してきた挨拶なのだろうが、流石の本番には緊張し、噛んでしまったようだ。
目に見えてアニータの表情が赤くなっていた。
初っ端から挨拶に失敗してしまったと、アニータの後ろに居る従業員達はオロオロしていた。
「皆さん、いつまでもお客様をココに立たせているつもりですか?」
失敗にとらわれてしまってはいけないと思い、俺は従業員達に声をかける。
すると、アニータはハッとなり、緊張した面持ちのままアルベルト王とコーネリア王妃の前を歩きながら、今夜二人が泊まる部屋へと案内を始めた。
案内された先は、この[恵みの湯]の中で最高ランクの部屋だった。
ただし、最高ランクとは言っても、部屋の広さは12畳程であり、部屋の中にはコタツのようなテーブルがあり、部屋の隅には布団が折りたたまれて置かれている。
そして外を眺める事の出来る窓際には、向かい合うように置かれた二つの椅子と、そいれを挟むようにして小さなテーブルが置かれている。
因みに一般の部屋の広さは、8畳程であり、部屋には足の短いテーブルがあるだけとなっている。
「国王様と王妃様、この部屋はお二人にとって狭く思われるかもしれませんが、どうかご容赦ください」
「構わぬ、というよりも、どこか落ち着く感じがして良い感じだ」
「そうですね。それにこの部屋、広過ぎず狭過ぎずで、程良い様に感じられます」
さすがに王宮にある部屋の広さを知ってしまっているので、狭く思われるかもと思っていたのだが、意外にも良い印象を与える事が出来たようで安心だ。
そんな事を考えながら、俺は預かっていた荷物をアイテムボックスから取り出し、部屋の隅へと置いて行く。
「さてそれじゃあナツキ殿、早速だがワシは温泉に入りたいのだが、良いか?」
「はい、勿論でございます」
アルベルト王は、今夜の楽しみの一つである温泉に漸く入れる事に喜んでいる。
「それじゃあ私達も温泉に入りに行きましょうか」
「はい!お母さま!」
そんなアルベルト王の隣では、コーネリア王妃がミリーをお風呂へと誘っていた。
そして、温泉に入る事が決まると、国王様と王妃様にはそれぞれの着替えとこちらで用意していたタオルを持ってもらい、準備が出来たところで温泉の場所へと案内する。
当旅館は、当然ながら男湯と女湯で分かれている。
故に、俺とアルベルト王、ミリーとコーネリア王妃の二組に分かれ、それぞれの脱衣所へと入って行く。
脱衣所は、20畳程の広さを確保してあり、木材で作られたロッカーがあり、数は、縦に3つ、横に10の合計30となっている。
もちろんこのロッカーには、鍵もかけれるようにしてある。
俺はロッカーに向かい左端の上の段へと脱いだ服と着替えを入れ、アルベルト王はその隣のロッカーへ脱いだ服と着替えを入れている。
そして裸になった男二人は、タオル一枚を持ち、浴場へと足を踏みれた。
次回、第165話 大事な話と、お約束