第161話 オルリア村にご招待
温泉の効能についての話に一段落ついた頃、会議室にノックの音が響き渡る。
「入れ」
アルベルト王は、ノックした人物が誰かも確認せず、入室の許可を出すと、扉が開かれ、その向こう側には銀髪をオールバックにし、執事服を着た優し気な男が立っていた。
男は室内に入ると、俺の元へとやって来てお辞儀する。
「お初にお目に掛かります。私はアルベルト王の執事を任されております、マルカス=ノーエルでございます」」
「ノーエル?」
聞き覚えのある名に反応した俺は、その名を呟く。
すると、それにアルベルト王が答えた。
「ナツキ殿に仕えておる、メイドのタリアの親だ」
言われてみれば目元が似ている気がするし、瞳の色もタリアと同じ琥珀色だ。
「うちの娘はお役に立てておりますでしょうか?」
「は、はい!もう十分すぎる程に!」
「そうですか、それは良かった」
そう言ってマルカスは笑みを浮かべていた。
「ところでマルカスよ、今夜からワシとコーネリアはオルリア村の温泉旅館とやらに行きたいのだが、予定の調整は出来るか?」
アルベルト王の、今夜からという単語に俺は驚いた。
俺の中ではアルベルト王が泊まりに来る日までの間、もう一度タリア達に[恵みの湯]の従業員達の礼儀作法のチェックをし直してもらったり、出す料理のメニューや材料のチェック等といった、再確認をしていく予定にしていたのだが、このままではそんな余裕は無さそうだ。
というか、一国の王がそんなにすぐ予定を決めることが出来るのだろうか?
普通は無理だと思うが。
「可能でございます」
嘘、だろ…
平然とした態度で答えたマルカスに、俺は驚のあまりに、目を見開いてマルセルを見た。
そして、次の瞬間マルカスの表情が心配そうなものへと変わる。
「ただ、戻ってから暫く自由な時間は無くなってしまいますが、それでもよろしいのですね?」
「構わぬ!すぐに調整の方を頼む」
「はっ!」
右手を胸元に当て、軽くお辞儀をしたマルカスは、俺にの方へと向くなり「ではまた後程」と言い、軽く会釈をし、会議室から出ていった。
招待しに来た俺が言うのもなんだが、温泉の為に公務を後回しにするような者が国王で大丈夫なのだろうか?
「あれ?そういえばマルカスさんって何の用で来たんだろ?」
「なーに、ワシ等の話の内容を聞いて、ココに来た方が良いと思ったのだろう」
「話の内容を聞いて?ってことは、この部屋の会話は盗聴されてるのですか?」
会議室での会話が漏れるとか一大事なのでは?
「この部屋、という訳ではない。ちょいとばかり耳の良い者が、常にワシの声が聞こえる範囲に居るのだよ。
おかげで、何かあればすぐ対応出来るようになっておる」
「な、なるほど」
アルベルト王には、プライベートというものは一切無いらしい。
必要な事なのだろうが、なんだか可哀相に思えてきた。
「とりあえず、今回の招待を受けて頂ける、と言う事でよろしいですね?」
「うむ!むしろ、ワシの方から頼むくらいだ!」
こうして、予想以上に早く[恵みの湯]へと招待する事が決まったのだが、まだ護衛の件や従業員達の為に守って欲しい約束の事について話しておかねばならない。
なので俺は、今夜を楽しみにしているアルベルト王に、それらの事を話し始めた。
次回 第163話 新たに知ったコーネリア王妃の一面
なんか、時間が全然進んでない様で申し訳ないです…