第15話 対峙
『すまぬが、我はもうあまり力が残っておらぬ故、手短に話しをさせてもらう』
「も、申し訳ありません精霊王様!」
『よい、それよりも、我の力はもうあまり残されておらぬ、急ぎこの祭壇の奥の我の本体の所まで来てもらいたい』
「えーと、その本体の方に原因があるってこと?」
『ああ、我の本体が闇に飲まれかけているのだ、今も何とかその力に抗ってはいるのだが、もうあまり長く持ちそうもない、我の意思と声を飛ばす力もそろそろ限界だ、どうか我の本体を闇の力から助けてくれ』
火の精霊王の声がフェードアウトするように聞こえなくなり、目の前に居た光りもゆっくりと消えていくと、俺とミリー王女は元の場所へ戻っていた。
「ナツキ様、今の光はいったい・・・?」
どうやら先程の空間に居た間の事は俺とミリー王女以外にはただの一瞬の出来事だったとのだろう。
俺は先程あった出来事をミール達に話し、先を急ぐ。
「というわけだ、兎に角今は火の精霊王の下へ急ごう!」
「はい!早くしないと手遅れになってしまいます」
どうやらミリー王女もこの先に付いてくる様だが、ここから先に連れて行くのは危険だ、ここで兵士達と残らせたほうがいいだろう。
「ミリー王女は兵士の皆さんはここに居て下さい」
「しかし・・・いえ、確かに私達が着いて行っても足手纏いになるだけでしょう・・・わかりました、どうかお気をつけ下さい」
ミリー王女も自分では何の役にも立てない事を分かっているのだろう、一瞬だけ悲しげな表情をしたが、すぐにもとの可愛い笑顔をして、俺の無事を願ってくれた。
「すみません。それと、ノアとシア、二人もここに残ってミリー王女達を守っていてくれ、ここも安全とは限らないんだ」
「わかりました主様、ミリー王女様達は私とシアが命に変えてもお守りします!」
「うん、ここはボクと姉さんに任せて。それよりも主様とミールこそ気をつけてね!」
ミリー王女や兵士達をノアとシアに任せると、俺とミールは祭壇の後ろにあった洞窟の奥へと入って行く。
洞窟の中は大人3人が横に並んで歩けるほどの広さだ、明かりは無いのだが足元が見えるくらいには明るかった。
というのも壁や地面がぼんやりと輝いているおかげだ。
ミールと二人並んび洞窟を進んで行くと、先の方が明るくなっていた。
そちらを目指し、明るくなった場所に着くと、そこは開けた場所となっており、上をみると明るい空が見えていた。
そして今入る場所より奥を見ると、そこには外にあるよりも更に大きく、同じ造りをした祭壇があり、その祭壇の上では、頭から背中にかけて炎の鬣たてがみがあり、その背には自身の巨体を空へ飛ばす為の大きな翼をもった大きな竜が横たわっていた。
そしてその全身には、禍々しい黒い靄もやの様な物がが纏わりついていた。
「ナツキ様、あの竜が精霊王様でしょうか?」
「あ、ああ、多分そうだろうな。で、あの身体に纏わりついている靄が原因である闇ってやつか」
とその時、竜に纏わり着いていた黒い靄が突然、精霊王の身体から離れ、目の前の空中へと集まり始めた。
「ナツキ様!なにかとても嫌な感じがします!」
次の瞬間、俺達の頭の中に直接意識が送り込まれてきた。
『チカラ、オオキナチカラダ、ソノチカラヨコセ!!!』
「なっ!?」
黒い靄はしだいに大きくなり、その姿を祭壇の上の竜と同じ形へと変わるが、身体は黒く高さは3メートルはあろうかと言う大きさで全長は6メートルほどありそうだ、そして頭から背中まである鬣たてがみもあり、ソレは黒い炎で形成されていた。
俺とミールはすぐに戦闘態勢をとり、俺は完全解析スキルを使う。
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世界を蝕ばむ闇(ダークドラゴン形態)
LV ??
HP ????
MP ????
STR ????
VIT ????
AGI ????
INT ????
DEX ????
LUK ????
スキル
????
????
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「何!?こいつのステータスが視えない!」
「ナツキ様のスキルで見えないなんて、そんな事あるのでしょうか?」
「わからない、だが現にこいつのステータス、名前以外が全て見えないんだ!」
「・・・では今は考えるだけ無駄ですね」
「ああ、ってことは今は目の前のこいつをどうにかすることだけ考えるだけだ」
「はい!」
次の瞬間、ダークドラゴンは背中にある大きな翼を羽ばたかせながら、宙に浮かび咆哮を上げた。
『グァァァァ!!!!』
「ひぃっ!!」
咆哮にミールが竦すくみ怯えていると、それを見たダークドラゴンがミールに向けて凄まじいスピードで滑空し襲いかかる。
「ミール危ない!!」
(クイック!)
咄嗟にクイックを使いミールを抱え、すぐさまその場を跳び退く、すると今いた場所ダークドラゴンの身体が空を切るように通り過ぎ、そのまま壁に激突してしまい、砂煙が濛々(もうもう)と立ち込めた。
しかし今のダークドラゴンの動き、どこかあの身体で戦う事にまだ慣れていないように感じた。
相手の動きを観察していると、腕の中にいるミールは正気を取り戻した。
「あ、ありがとうございますナツキ様、もう大丈夫です!」
ミールの表情を見て本当に大丈夫だと判断し、そっと地に立たせた。
「気にするな、それだけ奴は強いって事だろ、それにさっきのスピード、俺も咄嗟にクイックを使ったがそれでもやっとあいつに着いていける位だ」
クイックにMPの3割を一気に使ったせいか、俺はうっすらと額に汗を滲ませる
「ナツキ様のスピードにクイックを使ってやっととは・・・」
ご主人様の役に立つどころか、足手纏いになっている自分が許せいと、自身の無力さを感じ、悔しくも悲しげな表情をしているミールをみて俺は気づく
余計な一言でミールを悲しませてしまったのだと・・・
「すまないミール、俺が余計な事を言ったばかりに悲しい思いをさせてしまって、それにクイック使ったと言っても3割程度の魔力しか込めていない、だからまだ余裕がある」
「いいえ、事実私の力では・・・」
ミールを少しでも励まそうと余裕をみせるが、ミールは自身の力が足りない事を気にし続けていたが、それでも俺はミールを励まし続ける。
「いいかミール、確かにお前の今の力ではこいつには立ち向かう事は無理だろう、だけどなそれはお前自身が弱いんじゃない、奴や俺が規格外なだけだ、だからミールが落ち込む事はないんだよ、こういう規格外な敵は俺に任せて、それ以外の事で俺の役に立ってくれれば、俺はそれだけで十分に嬉しいんだ」
落ち着いて言葉を選ぶ時間は無いが、思いつく限りをミールに伝える
もっと納得させれる言葉が思いつけれればいいのだが、俺の知能じゃこれが限界のようだ。
しかし、ミールは俺の言いたい事を汲み取ってくれたのだろう、先程の悲しげな表情も和らぎ、目には力強さが戻っていた。
そして丁度ミールが立ち直った時、先程ダークドラゴンの突撃で舞い上がった砂煙も落ち着き視界が晴れ、再び俺とミールは戦闘態勢を取り直す。
「さぁミール!おしゃべりはここまでだ、気合入れていくぞ!」
そう言って俺はすぐさまマジックポーションを飲みMPを回復させ、持てる魔力の全てを使ったクイックをミールに掛け、さらにマジックポーションを1本飲み干したのだ。
次回 第16話 火の精霊王
最近誤字報告が無い事が寂しく思えるのはなぜだろう
無いほうがいいのに!