第13話 守護神の巫女
大きな扉を開けるとその先は大きな広間だ、そしてその広間の奥には、いかにも王様といった赤く長いマントを羽織った人物が座っていた。
大広間に入ると、俺は王の前で片膝をつけるように跪ひざまずく、そしてその後ろでミールを中心にしその左右でノアとシアが並び、両膝をつけ頭を垂れていた。
こういった場の事は俺はまったく知らない、なのでこの王に対する礼儀はここに来る途中、タリアに教しえてもらったのだ。
「ほう、そなたがハスマ殿の言っておった冒険者か、噂は聞いておるぞ」
「はい、私はナツキといいます、そして後ろに控えているのが、王から向い左からノア、ミール、シアです」
「うむ、ワシはこの火の国の王アルベルト=フォーン=フレムストじゃ、こんな時間に城まで来させてすまぬ、なんせ今回の依頼は少々急ぎの用でな、今日の内に話を聞いて貰いたかったのじゃ。
さて、その依頼の内容について話をしたいのじゃが・・・少し場所を変えようかの、誰か、この者達を会議室へ案内せい」
王に呼ばれてやってきたのは、俺達4人はここまで案内してくれたメイドのタリアだった。
俺達は、再びタリアの案内で会議室へと向う。
会議室の扉を開くと部屋の中には、大きなテーブルと椅子があり、部屋の奥には大きな机と椅子があり、俺は大きなテーブルに備え付けられている椅子へ座り、俺の後ろ側の壁にミール達3人は並んで控えていた。
そして10分少々経った頃だろうか、アルベルト王とその後に一人の少女が入ってきた、俺はその少女の透き通るようなエメラルドグリーンの瞳に金色で長い髪を左肩から胸元へと流していた。
多分歳は14か15といったところだろう、少女の表情にはまだ幼さが残っていた。
「すまぬな、すこし待たせてしまったようじゃ、ああ、ここでは多少楽にしてくれてもかまわんぞ」
そういって王は部屋の奥の椅子に腰掛け、その横に少女が立つ。
「さて、依頼の説明なのじゃが、その前に我が娘の紹介からじゃな、さぁミリーエル、挨拶をしなさい」
王の言葉に「はい」と答え少女は一歩前にでる。
「私の名はミリーエル=フェーン=フレムストと申します、よろしくお願い致します」
そういって頭を軽く下げたのだが、ミリーエル王女の仕草は一つ一つが美しく見えた。
「こ、こちらこそ丁寧なご紹介ありがとうございます、私は冒険者のナツキです、そして後ろに控えている3人、王女様からみて左より、シア、ノア、ミールです」
後ろに控えている3人も名前を言われると頭を下げる。
お互いの自己紹介が終わったところで、ようやく本題が始まろうとしていた。
「さて、それじゃあまず最初にじゃが、これからお話しする事は国家機密と言える、それを踏まえてお聞きください」
「あ、あのその前に一つ、お聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか?」
「ん?なんじゃ、申してみよ」
「ハスマさんにも言ったのですが、私達4人はまだ冒険者になって数日しか経っておりません、そのような私達が本当にこの依頼を受けてもよろしいのでしょうか?」
「なんじゃそんな事か、ハスマ殿はあれで人を見る目はかなりあるとワシは解っておるからのぉ、そんなハスマが勧めてくるお主達なら十分信用できると思っておる」
おいおい、そんな簡単に信用していいのか?俺ならこんな強さを持った奴をそう簡単に信用出来ないぞ・・・
「あ、ありがとうございます、ハスマさんの信頼を裏切らぬよう努力します」
「うむ、がんばってくれ、さぁミリーエル、説明を」
「はい、では今回の依頼内容ですがその前に、私はこの国の王女であると共に、火の国の守護神様に仕える巫女でもあるのです、そもそも・・・」
王女の説明はこうだ
この世界のすべての王家に生まれてくる最初の女の子は、守護神に仕える巫女となるそうだ、そして自分の子に女の子が生まれると、その役はその子へと儀式を行い託されるらしい、それ故に王家は女の子が生まれるようにするために、一夫多妻なのだそうだ。
余談ではあるが、この火の国フレムストは最初に生まれた子がミリーエル王女だった事により、妻は王妃コーネリア=フェーン=フレムストの一人だけだとか、
そして、そんな巫女になったミリーエルは今朝、守護神様が助けを求める夢を見たのだとか、巫女がそういった内容の夢を見るのには意味があるらしく、そえを聞いた王はすぐさま冒険者ギルドに依頼を出したとのことだった。
「そういう訳で明日の早朝、ナツキ様達には私と一緒に北の守護神様のいらっしゃる山の神殿まで護衛として着いて来て頂きたいのです」
申し訳なさそうな表情で、ミリーエル王女は嘆願する
しかも上目づかいで・・・だ。
断れる気がしない、まぁ断るつもりもないんだがな
「わ、分かりました、私達4人で護衛の依頼をお受けします」
「うむ、話は纏まったようじゃな、では今日はもう遅いし、城の客室に泊まっていくといい、ついでに軽い食事も部屋へ運ばせよう」
「ありがとうございます、正直、食事をとってなかったのでとても助かります」
「ハッハッハッ、なんとなくハスマ殿がお主を選んだのが分かる気がするわい、さぁ明日も早い、外に居る者に部屋まで案内してもらうとよい」
「は、はい、では失礼します」
「それでは皆様、明日はよろしくお願いしますね」
アルベルト王とミリーエル王女に挨拶をし、部屋の外へ出るとタリアが控えており、客室へと案内してもらう。
案内してもらった客室には大きなキングサイズのベッドが一つとテーブルと椅子が4つ、そして部屋に入って右側には調度品が並んでいた。
俺達がそんな室内の豪華さに驚いていると、サラサラの真っ白な髪をポニーテールにした、白い猫耳のメイドが4人分のサンドイッチ、そして身体を拭くためのお湯と布が運んできてくれた。
俺は猫耳のメイドに礼を言うと、ニコッと笑顔で答え、会釈をした後部屋から出て行った。
「さぁ、さっさと食べて、今日は早く寝ようか」
「「「はい(うん)」」」
空腹だったため、サンドイッチはあっという間に食べ尽した、満腹とは言えないが、空腹は紛らわせることは出来たので、その後はそれぞれ身体を拭き、用意してくれてあった服へと着替える。
今日は朝から依頼ついでに魔法の特訓をしてたせいで疲れていたのか、ベッドに入るなりすぐ眠気が襲ってくる。
今日はさすがに城の客室でミール達を抱くわけにもいかないし、眠気も限界なので、今夜はミールを抱き枕いしながら寝る程度にしておいた。
因みにノアとシアは俺の後ろで二人向かい合いながら両手を繋いで眠っていた。
翌日・・・といってもまだ外は暗い時間なのだが、タリアが俺達を起こしに来てくれ、テーブルの上にはすでに朝食が運び込まれていた。
俺は朝までミールに抱きついたままだったのだが・・・ミールはちゃんと寝れたかな?
気になって聞いてみると、ちゃんとぐっすり眠れていたらしい。
朝食が終わり、着替えを済ませると、タリアに連れられ城の入り口の門へと向かうと、そこには豪華な馬車が止まっており、そのすぐそばにはミリーエル王女と護衛の兵士4人がいた。
「お待たせしてしまったようで申し訳ありませんミリーエル王女様」
「いいえ、大丈夫です、私共も先程準備が出来たところなのですから」
まさか、異世界に着てデートの待ち合わせのようなやり取りをするとは思わなかった。
「では、出発いたしましょう、さぁ皆様も馬車にお乗りください」
ミリーエル王女に招かれ、俺は馬車に乗り込んだのだが、ミール、ノア、シアの3人は馬車に乗ろうとはしなかった。
やはり奴隷だから自分たちは乗るわけにはいけないとか考えているのだろう。
「えっと、ミールさんに、ノアさん、それにシアさんでしたよね?あなた方も遠慮せずどうぞ乗ってください」
ミール達はミリーエル王女のお誘いに困惑し、俺に向けてどうしたらいいのかという視線を投げかけてくる。
「ミリーエル王女様もこうおっしゃってるし、乗ればいいんじゃないかな?」
「しかし・・・」
そういってミールはミリーエル王女の方を伺うと、ミリーエル王女は笑顔でどうぞと手を馬車の中へ向けている。
ミールもこれ以上王女様のお誘いを断り続けるのは失礼だと諦め、恐る恐る馬車に乗り込む、それに続き、ノアとシアも恐る恐る馬車に乗り込んだ。
護衛の兵士以外が馬車に乗り終わると、ミリーエル王女は御者に向けて出発の意を伝える。
「では、出発して下さい」
ミリーエル王女のこの一言で馬車は出発し、俺達は王都の北にそびえる山へと向かった。
次回 第14話 守護神