第132話 影響
「ところでモイラ様?世界樹の苗にどんな影響がでるんです?」
心配しながら世界樹の苗を見て、ふと思いついた疑問を投げかけてみると、女神モイラは困惑の表情へと変わる
「世界樹の苗の天辺をよく見てください」
女神モイラに言われ、俺は世界樹の苗の天辺付近に目をやると、一番頂上にある一枚の葉が黒く染まっていた。
「今回は早めの対処でその程度で済みましたが もし対処もせず放置していた場合、世界樹の苗は[世界を蝕む闇]の負の力を受け続け、全ての葉が死滅してしまっていたでしょう」
「マジでか…」
女神モイラの言葉に驚くあまり、素で反応してしまった。
だが、そんな事を気にするよりも、聞いておかねばならない事があり、俺は口を開く。
「とりあえず、この黒くなってしまっている一枚を千切っておいた方が良いのかな?」
「ダメです!そんな事をしたら、世界樹の苗が人化した時、頭の小さなハゲが出来てしまうじゃないですか!」
え?そうなの!?
ってかこの葉は髪って事なのか?
しかもその理論だと、全ての葉の死滅=髪がすべて死滅するって事だから…
うん、大事だ。
けど今の状態で人化した場合って、頭の天辺部分はどうなるのだろうか?
色は変われど葉はある訳だから…
周りとは異なる色になるという事だろうか?
ってか、影響ってそれだけなのか?
ふと疑問が浮かび、俺は女神モイラに聞いてみる事にした。
「あのぉモイラ様?
現状、世界樹の苗に出る影響って、人化した時、頭の天辺の髪の色が変わるという事でしょうか?」
「はい」
女神モイラの表情はいたって真面目だった。
そして、その瞬間俺の心配する気持ちが音を立てて崩れて行く。
「ナツキさん、もしかしてその程度だと思ったりしてないですか?」
俺の様子に、俺が軽く見ていると感じた女神モイラは、真剣な表情で詰め寄って来た。
「世界樹の苗は人化すると、空中に漂う魔力をあの葉の部分、つまり人化していれば髪から吸収し、身体を維持するためのエネルギーへと変換するのです。
ですが、今の状態だとほんの一部とはいえ、機能しない部分が出来てしまうので、通常よりも若干ですが変換効率は悪くなってしまいます。
そしてその機能しない部分を補う為、周囲の髪は、より多くの魔力を取り込むようになってしまいます」
「なってしまう、という言い方をするという事は、それは何か問題があるということですか?」
「はい。もしそうなってしまうと、世界樹の苗の髪の正常な部分は、ほんの少しだけ、魔力の過剰摂取状態となるのです。
ですが、ほんの少しとはいえ過剰な事を続ける、つまり無理をさせ続ける事になります。
それをずっと続けていれば、無理をさせてしまっている分、その無理をさせた髪にもそれなりの影響が出てしまうでしょう。
つまり…」
ゴクリ。
女神モイラの真剣な語りに、俺は唾を飲み込み、その続きを待つ。
「世界樹の苗の髪は痛みやすくなり、数日に1度は手入れをしなければ大変な事になるのです!」
・・・え?
重大そうに言い切ったモイラに、俺は思わずキョトンとしてしまう。
いやまぁ、確かに髪から魔力を吸収し、それを変換して体を維持させるというのだから、髪が傷むというのは重大な事だろう。
だが、数日に一度に手入れをすればいいのなら、問題は無いのでは?
寧ろ、重要な器官であるのだから、毎日すべきじゃないだろうか?
そんな風に思っていると、女神モイラの話が髪の手入れの仕方へとシフトし、俺は女神式の髪の手入れの仕方を知る事となった。
しかし、残念な事にそれをミール達にしてあげる事は出来そうにない。
なんせ女神式の髪の手入れには、神界でとれる果物から作られた、特殊な液体が必要になるそうだ。
手に入らないなら仕方がないと諦め、俺はその後もしばらく続いた髪の手入れ方の話を聞き続けていた。
次回 第133話 目覚めるとそこには期待の視線