第125話 休息を求めて
「傷痕、残っちゃってますね。どうしてでしょうか?」
癒しの加護を使った所から見ていたミールが不思議な表情をしながら俺の腕に残る傷痕を見ながら話しかける。
「わからない、これくらいの傷なら簡単に治るはずなんだが…まぁいいか、傷自体は塞がってるし」
「主様、とりあえず倒したこいつらからステータスを貰って…え?」
俺から少し離れた場所で、シアが吹き飛ばされて倒れていた下っ端の一人を足蹴にしながらアブソープスキルの使用を進めようとしたのだが、言葉を言い切るより先に、足元にある下っ端の身体がボロボロと崩れて行き、その場に灰の山だけが残っていた。
最初に崩れた下っ端に続く様に、他の下っ端共の身体も次々に崩れて行き、部屋の壁際には7つの灰の山が出来上がる。
「([世界を蝕む闇]の力の一部を身に宿した代償とかそんな感じなのか?)」
「主様!そのボスの身体はまだ残っています!今の内に!」
次々に崩れていく下っ端共の身体を見ながら、その原因について考えていると、ノアが慌てる様に声を掛けて来た。
「あ、ああ!」
急ぎムスタに向けアブソープを使用しようとするのだが、何故かスキルが発動せず、俺は顔をしかめる。
そして次の瞬間、ムスタの身体と、切り落とした腕がボロボロと崩れて行き、2つの灰の山となる。
「どうしたの主様?」
「主様?」
「ナツキ、様?」
自分の手を見る俺の姿を不思議そうに見つめる3人。
「何故かわからないが、スキルが発動しなかったんだ」
それを聞き、ミール達3人はお互いの顔を見合わせると、ミールからミリー達の元へ戻ろうという提案が上がる。
どの道ここで悩んでいても、きっと答えは出ないだろう。
そう思い俺はミールの提案に乗り、下の階で待つミリー達の元へと向か事にした。
「旦那様!」
「ナツキ様!」
下の階に戻るなり、頭の上にサラを乗せたミリーと、ディーを抱きしめていたエルの二人が俺の姿を見て表情をパァッと明るくし、立ち上がる。
レイとティリアも俺達に気づくと、立ち上がり安堵の笑みを浮かべていた。
上の階での声や音は聞こえていた様だが、詳しく知りたいとミリーに言われたのだが、その事については帰りの空の移動中に話すと約束し、俺達はとりあえずこのジャイアントシェルから出ようと、歩き始める。
窓など一切無いジャイアントシェルの中では、時間が全く分からなかったのだが、ジャイアントシェルの外に出ると、空は夕焼けに染まり始めていた。
これは少し急いで戻らないと、王都に着く頃には暗くなり始めてしまうだろう。
帰る為の準備をしようとしたところで、俺達の移動手段を知らないティリアから質問されたのだが、それは見てのお楽しみと、準備を進める。
と言っても、俺は龍カゴを取り出し、レイに元の姿に戻ってもらうだけなのだが!
レイがドラゴンの姿に戻り、それをみたティリアが「ひぃっ!」と小さく声を漏らしながら腰を抜かしてしまったようだ。
そんなティリアに、エルはレイの紹介をしながら手を差し伸べていた。
「さぁ、話の続きは帰りながらにして、早く乗った乗った」
レイが龍カゴの縄を首にかけ、準備が整ったところで皆に声を掛け、俺達は帰路につく。
(ああ、早くアクルーンの王都に戻って報告して、ご飯食べて皆でのんびりしたい)
そんな俺の思いは空しく、帰りの空の旅の途中、5度もスカイファウルの群れが襲い掛かって来た。
しかし、奴等も襲う相手が悪すぎた。
半数はレイの胃の中に収まり、残り半数はゆっくり話も出来ない!と怒るノア、シア、ミリー、エルの4人の魔法により、跡形も無く消滅させられていたのである。
俺はその光景を見て、スカイファウルが哀れに思えて仕方がなかった。
次回 第126話 闇のフェロモン