第120話 奴らの奪った大切なモノ
捕らわれていた人数を3人からティリア一人に減らしました。
それに合わせ、少し文章の訂正をしました。
ミールの指し示す部屋へと慎重に近づいてみると、扉には南京錠タイプの鍵が掛けられていた。
「ナツキ様、この中にいる人は多分女性だと思われます」
鍵が掛けられた部屋、そして先程のミールの匂いというセリフと嫌悪的な表情。
この2つのヒントだけで十分に答えは導かれる。
きっとこの部屋の中には、盗賊達の慰み者にされた女性が捕らわれているのだろう。
俺は防音の魔法を周囲に掛け、アイテムボックスからダマスカスソードを取り出し、部屋の壁を斬り入り口を作る。
南京錠タイプの鍵を壊せば済むのだが、わざわざ某泥棒アニメに出て来る斬鉄剣をもった侍の如き剣技を繰り出したのだ。
ところで最近、このダマスカスソードはモンスター以外の物しか斬ってないような気がするのは気のせいだろうか?
そんな事をふと思いながらも、俺達は今しがた作られた入り口から中へと入る。
するとそこには、首輪がつけられ、裸のまま天井から伸びる鎖に繋がれた片翼の若い女性が驚きの表情を浮かべていた。
「ティリア!」
突然エルが声をあげ、涙を浮かべながら床に転がされていた女性の元へと走り寄っていく。
「主様、とりあえずここは私達に任せて、部屋の外で周囲を警戒していてもらえますか?」
「あ、ああ分かった!」
ノアに体を背中を押され部屋の外へと追い出されてしまったが、まぁ仕方ないだろう。
それにしても、エルにティリアと呼ばれた片翼の女性、彼女は一体エルとどういう関係なのだろうか?
後で聞いてみるとしよう。
周囲を警戒している俺の背後では、ミール達がティリアの解放と、その身だしなみを整える作業が進められている。
20分程経っただろうか、ミール達が作業を終えたと報告を受け、部屋の中へ戻ってみると、そこにはエルの着替え用の服を着たティリアが、エルに泣きながら抱きつかれ、床に座り込んでいた。
服のサイズが少しあっていないようだが、エル以外の服では翼のあるティリアに着る事が出来ないから仕方がない。
かといって裸のままという訳にもいかないので、今は我慢してもらう他は無い。
そんな事より、今はエルが泣き続けている原因を知る方が重要な気がする。
どう見ても、知り合いが盗賊共に穢されたからという程度ではない様に思えるのだが、どうしたのだろうか?
「エル?」
エルに近寄り、そっと肩に手を置きながら声を掛けると…
「ティリアの、ティリアの翼が!それに足まで…」
泣きながら答えるエルの言葉を聞き、困った表情を浮かべているティリアの背後へと移動し、その背を良く見てみると、茶色と白が混ざった右翼だけが残っており、左翼は付け根辺りで切り取られていた。
それから足の方へと視線を移すと、足はちゃんとあるのだが、両足とも腱を切られた痕があった。
翼の方については分からないが、足の腱はどうやら逃げ出せないようにと、盗賊達が切ったのだろう。
どちらも一応は治療されているが…これは酷い。
「姫様、もう私の為に涙を流すのはお止め下さい」
被害者であるはずのティリアは、自分の為に涙するエルを宥めようとしている。
そんな二人を見ていた俺の元に、ミールが近寄り、何かを話そうとしていたので、俺はミールを連れその場から少し離れ、ミールの話へと耳を傾ける。
「ナツキ様、翼人族にとっての翼とは、私達狼人族にとっての尻尾と同じだと、以前にエルから聞いた事があります。
狼人族にとって、尻尾とは誇りそのもの。つまり…」
「つまり、ティリアは盗賊共にその誇りの半分を穢され、傷つけられ、そして失ってしまった、と」
「はい。ナツキ様、私のこの腕を治して下さったあの癒しの力で、彼女の翼と足を治す事は出来ないでしょうか?」
エルとティリアの事を想いながら、ミールは俺に願う様に尋ねてるのだが、俺はその質問にハッキリと答える事が出来ないでいた。
というのも、足の方はミールの時に似たような前例があるので可能なはずだが、翼の方に至ってはその部位が欠損しているレベルであり、そんな状態に対し、癒しの加護を試した事はまだ一度も無いからだ。
「足は治せる。けど、翼の方は…」
「出来るよ?」
いつの間にか俺の頭上で小さな翼をパタつかせ飛んでいたサラが、俺のセリフを遮るかの様に割り込んできた。
「本当ですかサラ様!?」
「そりゃもちろんだよ。女神様の力を舐めちゃいけないよ?」
サラは左前足を腰に当て、右前足を前にだし、当然とばかりに言い切った。
「ナツキ様!」
可能だと知るや、ミールは耳をピンと立て、尻尾を揺らしながら、俺へと期待に満ちた視線を向けてくる。
そんな状態のミールの隣には、今の話を聞いていたノアとシアがやって来て、ミール同様、俺へとティリアの治療を頼み始めた。
「主様、ボクからもお願い。ボクだってこの耳を失う様な事があれば、きっと生きてても辛いと思えるだけだと思うの!だから…」
エルフ族の場合は、耳がミールの尻尾やエルの翼と同じ意味を持つ器官にあたるらしい。
シアの隣では、ノアまでもがも「私からもお願いします」と祈る様に俺へと頼み込んでいる。
更にその二人の後ろでは、レイとディーが願うような表情をこちらに向けていた。
人を思いやれる優しい嫁や仲間をもって、俺は今、とても嬉しい気分だ。
だからこそ、皆の願いに答え、元通りになる様全力で治療しようじゃないか!
「任せろ、必ず治して見せるさ!」
ミール達に向けそう宣言し、俺は右肩に左手を添え、右腕を肩から回しながらエルとティリアの元へと歩み寄っていく。
次回 第121話 おとしまえはキッチリと!
次回は土日辺りに投稿出来ればいいなとは思っています!
もちろん思ってるばかりじゃなく、それなりには頑張りますよ?