第114話 あればいいなと思って!
テーブルに並んでいた料理も無くなり、食事会は終了となった。
この後はリカルト王にも伝えたように、ヨーゼル王子のお仕置き後半の部を始めるつもりだ。
未だにグッタリとしたままのヨーゼル王子だが、俺の予想ではそろそろ気がつく頃だと思う。
急いでヨーゼル王子の身柄を訓練場へと運んでおくとしよう。
逃げようとされたら面倒だしね!
この食事会に誘ってもらえた事への礼を言い、さっさと場所を移そうと考えた俺は席を立つ。
それを見たミール達も俺に続く様に立ち上がる。
「それでは皆様、私達はそろそろ失礼させて頂きます。
今夜は美味しい食事に誘って頂きありがとうございました」
今夜の食事会は、ヨーゼル王子が俺に絡んできたことに対し、リカルト王がお詫びにと招待してきた食事会なのだが、出て来た料理はとても美味しく、二人の王妃やフローリア王女との会話も楽しませてもらったので、やはり礼はしっかりと言っておくべきだろう。
「楽しんで頂けた様で何よりだ。
後、このような席を設けておきながら頼む事ではないかもしれぬが、どうかヨーゼル王子の性根、しっかりと叩き直してやって欲しい」
リカルト王は席を立ち、そう言いながら小さく頭を下げた。、
「お任せください!もう二度と無意味な争いを起こさない様、しっかりとその体に覚えさせておきますので!」
形式的にはヨーゼル王子の性格を矯正を頼まれているように聞こえるが、ここにいる皆はその内容に隠された真実をちゃんとわかっているだろう。
[許してもらえるのならヨーゼル王子を好きにしても構わない]という事を。
その後、リカルト王はウォーリーを呼び出しヨーゼル王子の身柄を担がせ、そのまま俺達を訓練場まで案内するよう命じた。
俺達はもう一度リカルト王やフローリア王女、そして今日初めて会った二人の王妃に挨拶し、食堂を後にする。
訓練場へと再び戻って来た俺達。
ウォーリーが担いでいたヨーゼル王子を地面に降ろすと、ヨーゼル王子が小さな呻き声を上げながら意識を取り戻した。
そしてこの夜、日付が変わるまでの間、ヨーゼル王子は俺による柔道の投げ技と寝技を何度も受け、幾度となく意識を失いそして気が付くといった事を繰り返す事となった。
因みに、俺がヨーゼル王子に柔道の技を試している間、ミール達は壁際で固まって座り待っていたのだが、ミリーとエルの二人は今日一日の訓練で疲れていたせいかノアの体に左右からもたれ掛かりながら可愛い寝顔を見せていた。
待っているミール達や眠っている二人の為に、ウォーリーは毛布を用意してくれていたようだ。
ヨーゼル王子が何度目になるか分からない気絶で満足した俺は、ヨーゼル王子をウォーリーに任せ、帰る事にした。
壁際に座りずっと起きて待っていたミール達に声をかけ、ミリーを俺が、エルはミールが背負い、俺達は訓練場を後にし、静かな夜の街へと歩いてゆく。
空を見上げれば元の世界で見る月よりも、3倍程はありそうな大きな月が空に輝いている。
前にミールから聞いた話によれば、冬に近づくにつれて月が大きくなっていくらしい。
先程までいた城や訓練場の中はそれほどでは無かったのだが、外は空気も冷たく、吐く息も白くなっていた。
「やっぱり夜は寒いな、早く宿に戻って体を拭いて温かい布団で眠ようか」
「そうですね。明日はギルドに行って盗賊退治の依頼も受けなきゃいけませんし、早く戻りましょう」
エルを背負い隣を歩くミールは、尻尾を小さく揺らしながらそう答える。
「賛成!この時期は寒いから、早く布団に入って温まりたいな」
「そうね。私も早くお布団に入りたいわ」
後ろをついて来ているエルフの双子姉妹のノアとシアも、早く布団の温もりに包まれたい様だ。
宿へと辿り着き中に入ると、受付には酒場でウェイトレスをしていたエシリアが夜の受付で番をしていた。
エシリアに挨拶をし、部屋の鍵を受け取って2階の借りている部屋へと向かい、それぞれ自分の寝る部屋へと入って行く。
俺の部屋にはミールと既に眠っているミリーがおり、残りは全員別部屋である。
ぐっすりと眠るミリーの服をミールに脱がしてもらい、下着姿のまま布団の中へと横に寝かせ、俺とミールはお互いの体を拭いてから下着姿でミリーの眠る布団の中へと潜り込んだ。
今夜は流石に(ヨーゼル王子で)遊び過ぎたので、ミールの尻尾とお耳を撫でまわす程度に抑え、R-18展開は無しのまま、3人で身を寄せ合って眠りへとついた。
翌朝、眠る時間が遅かったのと、遊び疲れにより眠りすぎてしまい、時間は既に10時前となっていた。
布団の中にミリーとミールの姿は無く、体を起こしてみると部屋の中央でイスに座る上半身裸のミリーと、その背中を拭いてあげていたミールの姿があった。
「あ!おはようございます旦那様」
「おはようございますナツキ様」
「おはよう二人共。そうか、昨日ミリーは体を拭いていなかったから、ミールにやってもらっていたのか」
「はい。それはそうと旦那様、昨日は寝てしまっててごめんなさい。ここまで背負って来てくれたって聞いたよ?」
「そうだけど、まぁそれは気にすんな。皆を待たせてヨーゼル王子で夜遅くまで遊んでた俺も悪いんだしな」
「ナツキ様、やっぱりあれ遊んでたんですね…」
俺の隠すつもりも無い本音に、ミールは呆れながら小さく溜息を吐く。
「さぁ二人共、ミリーを拭き終わったら次は髪のセットするぞ!
ちょっと寝すぎたせいで時間が余りないけど、今日はギルドに行って依頼を受けた後、オークの居た森にでも行って、作りたいものがあるからな!」
「作りたいもの、ですか?」
「ああ、今後野営をする事が出て来るかもしれないから、ちょっと小さめの小屋でも作ってアイテムボックスで持ち歩けるようにしようと思ってな」
どうだ!と言わんばかりに胸を張って目的を告げた俺だったのだが、ミールとミリーの二人には呆れられてしまった。
「旦那様、普通は小屋を持ち歩いたりしませからね?」
「そうですよ、テントじゃダメなんですか?」
「小屋の方が広々としてて全員が入れるし、テントよりも雨風に強いから安心して眠れるからね!
さぁ、そういう事だからさっさと支度を済ませるよ!」
会話をしている間にも手を動かしていたミールにより、ミリーは多少さっぱり出来たようで、用意してあった服へと着替え始めた。
その間にミールをイスに座らせ、アイテムボックスから櫛を取り出す。
どんなに急ごうが、この朝のスキンシップで手を抜くつもりは一切ない!
俺は慣れた手つきでミールの髪に櫛を通し、綺麗にに仕上がった所で髪を束ねて一括りにする。
そして完成したところで、最後にお耳ごと頭をナデナデして、その感触を楽しませてもらう。
さぁ、次は着替え終えて待っていたミリーの番だ。
こちらも手を抜くことなく、完璧に仕上げるとしよう。
次回 第115話 小屋完成!…小屋?~前編~