演技初日(プレミア)
闇天女 七人衆の一人、魅那が消えた後、地下の通路はまた暗闇に戻る。
脇に置いていた松明を拾い上げ、照らしてみると、また重そうな鉄製の扉を発見した。
これが最後であってくれよ……そう願いながら、彼はその扉を開けた。
――そこは金色に輝く祭壇が飾られた、明るい部屋だった。
壁全体が、光を発している。
先程まで居た部屋は魅那が消えた後、暗くなっていたので、この明るさは目が眩むほどだった。
祭壇は、達也の肩ぐらいまでの土台に、その半分ほどの高さの本体が置かれている。
金色で、精緻な細工が施され、荘厳な印象を受ける。
『……待っていたよ、達也君!』
元気な少女の声が聞こえてきた。
「……あなたは……」
『私は、倭兎神。巫女の茜から、名前だけは聞いていたんじゃないかな』
「……では、貴方が俺を、生き返らせてこの世界に連れてきてくれた……」
『そうだよ。そんなに私に気を使わなくていいから。それに今日、すっごく嬉しいんだ。なにせ、君がこんなに早く試練を突破して、この祭壇に来てくれたんだからね』
姿は見えないが、ずいぶんと気さくな神様だな、と達也は思った。
『そう、そのとおり。気なんかつかわなくていいから。でも、ここだけなんだけどね、君と直接会話できるのは。本当は巫女を介さないといけない。私達の場合、茜っていう優秀な巫女がいるからね』
(――心を読まれている!)
『大丈夫、そんなに警戒する必要無いから。じゃあ、手っ取り早く、君の疑問について答えていくよ。まず、ここに辿り着いたということは、試練を達成した、ということになる。その報酬として、君には「演技初日」という強力な能力が与えられる。具体的に言うと、君たちの世界の時間にして約一秒、正確に未来を把握することができるようになる。例えば、敵の攻撃が自分にあたるかどうか、とかね。で、分かったらどうすればいいかといえば、今の例で言えば、避ければいい。当たるはずだった攻撃を躱す……つまり、未来を書き換えたということになる。いままでも、ある程度攻撃の予測が出来ていたと思うけど、それはつまり、すでにこの能力が身につきつつあったっていうことだよ』
「新しい能力……でも、俺はそんなのを求めていた訳じゃ……」
『ああ、分かってる。巫女を助けに来たんだろう? 大丈夫、今頃みんな地上の君の仲間達が保護してくれているよ。麻利は君を呼び出すために、巫女達を攫った。まあ、それは理由の半分で、もう半分は自分の手で育てるつもりみたいだったけど、それは私や他の闇天女が許さなかった。あの娘は問題児だからね』
「……闇天女って、いったい何なんですか?」
『ああ、彼女たちは、影からこの世界の秩序を守ろうとしている娘達だ。基本的には中立なんだけど、妖魔を操る能力があったりするから、誤解されることも多いね。君たちのような『召喚されし者』とはまた別の、重要な使命を帯びている。それは、「裏切り者」を倒すことだ」
「裏切り者?」
『ああ、そういう輩がこの世界には存在する。おぞましいことに、君たち同様、異世界からこの世界に召喚された者だ。彼等は、いわゆる「氏神」を裏切って、自分達の高い能力を利用してこの世界を制覇しよう、と目論んでいるやつらだ。恐らく、数十人存在すると思われる。そして彼等は、驚くべき事に、君と私のような「神と氏子」の関係がなくても、優秀な巫女さえいれば新しく異世界の人間を連れて来られる、という能力を身につけてしまった。そこで闇天女たちは、「裏切り者」に奪われる前に、優秀な巫女を保護しようとしているのさ。麻利は誘拐に近かったけど。あと、君たちと「裏切り者」は、どちらも見た目だけでは判別が付きにくい。それで「召喚されし者」を警戒しているってわけさ。本当は君たちは協力しあうべきなんだけどね』
「……なるほど、それで彼女たちは俺達を敵視していたんですね……」
『その通り、ただ、麻利はつかみ所がないけどね……まあ、君も特殊な能力を身につけたんだ、今後の活躍に期待するよ……あ、もう時間だ。あとは茜を通じて話すから。頑張ってね!』
と、神の最後の言葉が終わると、祭壇の明かりも消え去った。
「……今のが、神? まるで女子高生みたいな雰囲気だった……」
なんとなく、釈然としない思いだった。
そして彼が無事地上に戻ると、そこには、倭兎神が言った通り誘拐された巫女達が全員保護されており、後は俺が帰って来るのを待つだけの状態になっていた。
巫女長の茜は、嬉しそうに達也に話しかけた。
「達也さん……無事に試練を達成して、新しい能力を身につけたんですってね」
「あ、ああ……倭兎神様から聞いたのかい?」
「ええ、その通り。お告げがありました」
「……新しい能力、か……これで真の敵……『裏切り者』達と戦えっていうことなんだろうな……」
彼は、ようやく自分がこの世界に来た意味、そして最終目標を知ったのだった。
「ところで達也さん、新しい能力、さっそく見せていただけませんか?」
「えっと、そうだな……でも、どうやって見ればいいのかな……」
そのセリフを聞いて、茜はちょっとイタズラっぽく笑った。
「達也さん、貴方はご自分の能力を、正確に把握できるはずですよ!」
第一部 完
新しい能力を身につけたところで一旦終了とさせていただきます。
しかしながら個人的にはもっと続けたかった作品ですので、時間ができましたら、またいつか再開させたいなと思っていますm(_ _)m。




