阿東鉱山
今回、巫女達の救出に向かうことになったのは、麻利から名指しされた忍者の俺と、気心のしれた勝四郎さん、その妹の楓、それと巫女長の茜、俺と同じ『神の名代』である明(氷助)。
少数精鋭で、なるべく気づかれぬようにと、このメンバーとなった。
――『阿東鉱山』に向かうのは、容易ではなかった。
峠を越え、渓谷を遡り、洞窟へ潜り、地下水脈へと進入する。
複雑な水路となっている部分を、膝まで水に浸かりながら進んでいく。
所々、目印のような物が記されている。
昔、鉱山で採れた金を運ぶ際に、迷うことがないよう記していたのだろうが……それにしても、こんな道をずっと歩きで運んでいたのかと思うと、なるほど、金の価値が高いのも納得できる気がする。
二日かけてようやくたどり着いたその場所は開けており、いくつか山小屋が存在した。
昔、金の採掘を行っていた名残で、今は当然誰も住んでいない。
何年も使用されていないので相当痛んでいたが、雨風をしのぎ、妖魔達の不意の来襲にも対応できる拠点となり得た。
この日は、もう夕方。
俺もみんなも相当の披露があったし、巫女長の茜によれば、『かなりの瘴気』を坑道入り口から感じる、という事だったので、とりあえずこの日は、見張りを交替でしながら山小屋で休む事にした。
途中で野宿したときにも感じたのだが、勝四郎さんや明は当然として、女性の楓や茜も平気で眠れていた点に、最初は驚いてしまった。
しかし、考えてみれば彼女たちは俺なんかよりずっとこの時代で『旅慣れ』している。
退魔師っていうのは本当に大変な職業なんだなあと、改めて認識した。
翌日、夜明けと共に全員起きて、携帯食で簡単に朝食を済ませる。
そして坑道の入り口付近に、辺りの様子をうかがいながら近づいた。
「……さて、麻利のご指名は達也、お前一人でって言うことだが」
勝四郎さんが皆の意見を問う。
「……どうなのかしら。茜、相変わらず瘴気は強いの?」
「……近づいて分かりました……とんでもない強さです」
「とんでもない?」
楓がちょっと怯えたように訪ねた。
「はい、でも数自体はそれほど多い訳じゃない……つまり、とても強い妖魔がいるっていうことです。これだけの瘴気を発すると言うことは……おそらく、大妖級……」
「大妖、だと?」
勝四郎さんが思わず大声を出した。
「達也、てめぇ、そんなバケモノに勝てるのか?」
「いえ……少なくとも『獄炎龍』には手も足も出ませんでした……明……いえ、氷助がいてくれなければやられていました……」
「……まあ、能力には相性があるからな。しかし、『氷雪ノ剣』を持つ俺でも結局、『獄炎龍』は倒せなかった。達也、やはり一人で行くには荷が重すぎるぜ」
自分がいなければやられていた、という俺のセリフに気を良くしたのか、明は得意げにそう言った。
とはいえ、麻利からの指定は『俺一人で鉱脈に入ること』だ。
そこで作戦として、まず俺が一人で入り、少し間を置いて氷助と勝四郎さんが中に入る。そして茜と楓は見張りとして外に残る、という段取りを立てた。
また、緊急時の連絡として各々『爆竹』を持って行き、それを鳴らすことで仲間を呼ぶ、というルールも取り決めた。
そして俺は、阿東城主から預かっていた鍵を使って坑道への扉を開け、中に入って行った。
後で聞いた話だが、この後すぐに扉は勝手に閉まり、いくら鍵を開けても、力尽くで押しても、ピクリとも動かなくなっていたという。
つまり、俺は坑道内に閉じ込められたのだ。
そしてこの奥に完全武装した複数の少女が待ち構えており……全員、俺の命を狙って攻撃してくることになるとは、この時点では想像すらしていなかった。




