表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

女妖魔・麻利

 八重(ヤエ)は座り込み、そしてすすり泣きだした。


「私、とんでもないことを……達也さんに攻撃を仕掛けるなんて……それに、あんなこと言っちゃって……」

 ヤエの瞳は、いつもの優しく、可憐な黒色になっていた。どうやら、正気に戻ったようだ。


「……ヤエ、ちょっと下がっていてくれるか。俺、決着をつけないといけないから……」

 少し離れた位置でこの戦いを見物していた麻利(まり)を睨み付けながら、そう話した。


「はい……でも、気を付けて……あの人、強いです、すごく……」

「……分かってる」

「あと……ありがとうございます、いろいろ……私、本当に達也さんの事、大好きですから……」


 そう言い残して、彼女は逃げるように立ち去った。

 最後の一言だけ、ちょっと動揺してしまったが……悪い気分ではなかった。


 っていうか……あれ、俺のファーストキスだったけど……今は、そんな感傷に浸っている隙はなかった。


「……美しい愛を見せてもらったわ」

 言葉とは裏腹に、にやけた表情を崩さない女妖魔。


「……おまえは絶対に許さない、麻利。人の気持ちを弄びやがって」

「あら、でもそれで二人の絆が一層深まったんじゃない? 私の思惑通りよ」


「適当な事を言うな! 大勢の人間を巻き込み、傷つけ、ヤエを惑わし……何が目的なんだ!」


「目的……そう、それを今のあなたに話したところで、理解してもらえるはずもない……一言で言えば、遙かに大きな災厄に備えての試練、とでもいいましょうか」


「試練、だと? いい加減な事を言うな!」

「理解してもらうのはやっぱり無理、みたいね。それにあなたの試練はまだ終わっていないわ。私を倒さない限り、あなたとヤエに自由はないわ」


「言われなくとも分かっている!」

「強くなったわね。でも、本当に私に勝てるかしら?」

「……何を企んでいるのか知らないが、全力で貴様を倒す!」

「いい覚悟だわ……潰すつもりで来なさい!」

 二人の間に、緊張が走る。


 再び戦闘態勢に戻る。

 その距離、約十五メートル。


「火炎回流火炎龍(ディープローテーション!)」

 まず俺が、今まで何度も使ってきた∞型の火炎を繰り出す。しかし麻利の前でかき消えた。それは計算の内だった。


延長槍炎(ロング・ソウ)!」

 超高速で伸びる炎の槍。だが麻利は笑みのまま(かわ)す。


跳躍破裂炎兎弾(ヴァースト・ラビット)!」

 今度は跳躍火炎弾。しかし麻利はそれすらも打ち消し、反撃に出る。


氷結之個(ウ・ジャ)!」

 単発の妖術が飛んできたが、俺は先を読んで躱す。直後、別の妖術の準備がされていた。


舞氷雪千万(フウオンフーウィン)!」

 突如巻き起こる暴風雪。その影響範囲は広く、たとえ一瞬先を読んでいても躱しきれるものではない。


「うおおおおぉ、火炎回流火炎龍(ディープローテーション)!」

 俺は全力の無限軌道を中空に描き続けた。


 するとそれは絶え間なく続く∞軌道を取り、そのまま連続して巨大な炎が噴出され続け、暴風雪と打ち消しあう。それどころか、わずかずつ押し戻しているよいうでさえあった。


「チイッ!」

 思わず麻利が飛び退く。

「逃がすか……なっ!」

 俺は驚愕で目を見開いた。麻利は地面から数十センチ上空に浮いていたのだ。


闇矢上於麻利妖降下(ウエクォマリ)!」

(上から、かっ!)


 麻利の頭上に掲げた右腕から暗黒の矢が数本同時に放たれ、そして一気に下降してきた。

 だが、俺は忍者特有の集中力、神速の動きで、それらをすべて躱した。


延長槍炎(ロング・ソウ)!」

 俺は超高速で伸びる炎の槍を放ったが、空中の麻利は地上以上に動きが速く、難なく躱されてしまう。


「ならば……飛空炎舞剣(フラウィングフレイム)!」

 俺は祈りを込めて、『緋炎ノ剣』を麻利に向かって投げつけた。

 するとその短剣は炎を剣側・柄側の双方から噴出・回転しながら、火炎の円盤となって麻利に突撃していく。


「ふっ……速度不足ね……」

 彼女は余裕をもって躱した……つもりだった。

「なっ……!」

 しかしその火炎の円盤は、空中で向きを大きく変え、そして飛翔する妖魔に向かって突き進んだのだ。


「きゃぁ!」

 麻利は短く悲鳴を上げ、一瞬だけ炎に包まれた。


 そしてその華奢な体は地面に落下したが、すぐに立ち上がって体勢を整えた。そのときにはもう、『緋炎ノ剣』は俺の元に返ってくる所だった。


「……さすがね。久しぶりに痛みを感じたわ。凄い攻撃力、しかも持ち主の元に戻るなんて……でも、単発じゃ私は倒せないわよ」


「……ならばお望み通り、全力で貴様を屠る!」

 俺は剣を持ち直し、全神経を集中させる。


火炎回流火炎龍(ディープローテーション)!」

跳躍破裂炎兎弾(ヴァースト・ラビット)!」

延長槍炎(ロング・ソウ)!」


 無限の炎が、爆裂する跳躍火炎弾が、神速の炎の槍が、次々に麻利に襲いかかる。

 習得したあらゆる灼熱の火炎攻撃を、俺は連続で放出した。


飛空炎舞剣(フラウィングフレイム)!」

 そして時には、『緋炎ノ剣』自体を投げつける技も躊躇せず繰り出した。


 その炎の唸り、爆発音、周囲に広がるすさまじい熱気。

 しかし、麻利はそんな中でも反撃を行って来た。


舞氷雪千万フウオンフーウィン!」

氷結之個(ウ・ジャ)!」

闇矢上於麻利妖降下(ウエクォ・マリ)!」


 麻利の放つ暗黒と暴風雪の強大な妖力が、俺の連続妖力との衝突により周囲に猛烈な乱気流を発生させる。


 その手前でも灼熱の龍と、青白き刀身を持つ侍が壮絶な争いを繰り広げている。

 そして麻利と俺の決戦は、それに勝るとも劣らぬものだった。


「……さすが神の名代と、選ばれし神剣。とんでもない妖力ね。でも、まだまだ無駄が多いわ。それに足下は防御力も機動力も不十分」


 麻利はそう言うと、妖術の予備動作を取った。

(くっ……相当の妖力を貯めている……何かとんでもないものが来る!)

 俺のその予感が、現実のものとなる。


十字格子即氷結(ギングエムチーク)!」

 一瞬先を読んだ俺は、その光景に恐怖した。


 自分を中心に、青と白の格子柄が、十センチ程の間隔で半径二十メートルに渡って形成されていたのだ。


「ちいっ!」

 短く舌打ちして跳ね飛んだ俺だったが、着地点もまだその魔法の有効範囲内だった。


 地面に足をついたその瞬間、二つの柄が一気に俺の足下に集中し、そしてその部分を氷で覆っていき……そして俺は完全に機動力を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ