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突撃

 木々をすり抜け、岩を飛び越え、斜面を滑り降り、風の如く駆け抜ける。


 そのまま一気に阿東川の川原に出ると、休むことなく川下へ向かって疾走する。


 息が上がり、手足が鉛のように重くなってくるが、『疲労回復』の妖術で無理矢理体を奮い立たせ、なお走り続ける。


 妖力が一時的に減少するが、(あかね)から借りている護符のおかげで、すぐにフル状態まで回復した。


 城下街から現在地点まで、来るときは四時間近くかかった。しかしそれは敵を警戒しながら、ゆっくり歩いての話。

 今のように思いっきり全力で走れば、数十分で辿りつける……ただし、その分待ち伏せの敵や罠にかかりやすくなる。


 だが、俺は直感を信じた。

 敵も、たった一人、全力疾走でこの阿東側の中流・下流域を抜ける者がいようとは思うまい。


 ――俺のカンは当たっていた。

 一匹の妖魔とも出会わず、阿東藩城下町近くにたどり着いた。


(なんだ、あの数……)

 目視できるだけで数百もの妖魔が、びっしりと町の門の手前を埋め尽くしていたのだ。


 ……いや、全部低級妖魔じゃないか……突っ切ってやる!

「うおおおおぉ!」

 大声で叫びながら、館の前に陣取る数百匹の軍勢に、俺は単身突っ込んでいった。


 最初に二十匹ほどが、一斉に俺に向かって、対抗するように大声を上げながら向かってくる。その距離、約三百メートル。


『火炎回流火炎龍(ディープローテーション!)』

 自身で名付けた略称を唱えながら、その刀身を無限軌道を描くように降り出した。


 そこから生まれる∞型の炎は、高速で俺の体から離れるにつれて巨大になり、横十メートルほどもの大きさに成長して、妖魔数匹を炎に包み、吹き飛ばした。


 予想以上の威力に一瞬、たじろく他の妖魔達。

「どうした……それぐらいで驚くな。俺はもっと強力な爆炎を操れるぞ!」


 幾分ブラフの入った大声を上げると、もう一度中空に∞軌道を描き、同じ形の、ただし先程よりさらに大きな火炎を送り出す。


 避けきれず、炎に包まれて悲鳴を上げる数匹の妖魔。

 しかし、敵が怯んだのはほんのわずかな間でしかなかった。

 なにしろ数が多すぎる。


 正面からの突撃だけでは炎の餌食になってしまうと悟った妖魔達は、多少大回りでも、左右側面に回り込んで、取り囲む作戦を取った。


火炎障壁(リヴァー)!」


 大きな動作で剣を下から振り上げるアクションを取る。

 すると、そこには幅2メートル、長さ50メートルに渡って、まるで炎の川の様に人間の背丈ほどもの火炎がわき起こった。


 小鬼達が思わず顔をしかめる熱気。

 勇気ある(あるいは、愚かな)者がその川を飛び越えようと試みたが、全身炎に包まれ、転げ回って苦しんだ。


 いかに士気が高かろうと、その様子を間近に見た敵は、さすがにそれ以上接近できない。

 俺は炎の川を、左右に一本ずつ創り出した。そして前方は火炎回流火炎龍(ディープローテーションの∞型炎で敵を吹き飛ばす。


 門まで、あと二百メートル。俺は、数百匹の妖魔達に接近すら許さないまま、己が道をひたすら突き進む。


「むっ……」

 しかし、そこで俺は奇妙な光景を目にした。


 二十メートルほど前方の雑草が、左右に細長く、子供の背丈ほどに不自然に盛り上がっている。


「塹壕、かっ!」

 そのすぐ後方に妖魔が複数人隠れられる溝が存在しているようだった。

 俺ならば軽く飛び越えられるほどの幅だろう。しかしそうすると、穴から出た妖魔に、背後から追われることとなる。


 攻撃するとしても、火炎回流火炎龍(ディープローテーションは直線的に炎の塊を飛ばす魔法だし、火炎障壁(リヴァー)は幅が狭すぎる。塹壕の中の妖魔達に対しは、直接炎が当たらない。


跳躍破裂炎兎弾(ヴァーストラビット)!」

 俺は呪文と共に、『緋炎ノ剣』を下からはじき上げるような行動をとった。


 途端に生まれる、野ウサギほどの火炎弾。

 それは驚くほどの早さで跳躍を繰り返し、突き進んでいく。


「行けえぇっ!」

 炎のウサギは最後の跳躍で塹壕の中に飛び込み、そして内部で爆発した。


「ギヤアァァァ!」

 野太い悲鳴と共に五匹の小鬼達が、背中を炎に包まれながら、慌てて塹壕から飛び出してくる。


火炎回流火炎龍(ディープローテーション!」

 そこに追撃の炎を放つ。


「クギャアアアァ!」

 奴等はなすすべもなく敗走していく。


跳躍破裂炎兎弾(ヴァーストラビット)!」「火炎回流火炎龍(ディープローテーション!」「火炎障壁(リヴァー)!」

 強大な炎の呪文をためらいもなく打ち続ける。


 妖力は激しく減少するが、(あかね)からもらった護符からエネルギーを得ているからこそ、魔力切れの心配なく強力な爆炎を操り続ける事ができる。チートだと言われても仕方がないが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


 もちろん、妖魔達も手をこまねいて進撃をただ見ていた訳ではない。

 接近はできずとも、弓で攻撃をしかけてくる。


 しかしその鈍く、狙いの定まらぬ弓はたやすく躱せるものだった。

 ふと、奴等の攻撃の気配が消えた。


(あきらめたか……)

 そう考えた次の瞬間、目の前五十メートルの距離に、白の服、赤い袴をまとった一人の少女が立っているのを見て、寒気を覚えた。


 かなり若く、十代中頃か、後半ぐらい。小柄で華奢な体つきで、まだ子供と言っても通用しそうだ。

 そんな少女が、こんな戦場にたった一人で立っている。それはかえって、彼女の不気味さを引き立てていた。


火炎回流火炎龍(ディープローテーション!」

 先程から連発している炎をたたみかける。

 しかしそれは、彼女の手前数メートルでかき消えた。


(妖術無効化……!)

 高度な技術を習得した、あるいは同様の効果のアイテムを持つ妖術使いに違いなかった。


 さらに驚愕すべきことに、彼女が短い呪文を唱えると、その体は三つに分裂したのだ。


(なっ……!)

 驚く俺に、さらに追い打ちをかける事態が発生する。


「我が名は明炎大社が巫女、カリナ。我が君に害を与えし不届き者、排除する!」

(……なんだって? 明炎大社の巫女が、どうして妖魔の見方を……)


 しかしカリナと名乗るその少女は、考える隙を与えてくれない。

 三人に分身し、両手に漆黒の短刀を持ち構えている。


相多過多刀剣(あいたかたとうけん)!」

 カリナは大きく呪文を唱えると、三人同時に、その短刀をメチャクチャに振り回した。


(うおっ!)

 剣が一度振り下ろされる度に、四、五本の三日月型の黒い刃が生まれ、矢よりも遙かに高速で向かってくる。しかも両手で、三人同時なのだから、その数は一秒間に数十発にも及ぶ。


 いくつかは狙いを外し、地面に当たったが、そのままめり込んでいくほどの威力だ。鎧を着ていない俺に取っては、直撃すれば深手を負うことは容易に想像できた。


(強敵だ……それに明炎大社の巫女だなんて……こちらからはまともに攻撃できないっ!)


 この戦い、相当苦戦することを予想した。


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