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アバター

「バカッ、やめろっ! 本当にお前、死ぬぞっ!」

 声を上げ、俺の無謀な出発を引き留めたのは、以外にも氷助だった。


「今の戦いも見たが……お前はまだ弱い。妖術も、その赤い剣を使ってその程度だ。妖力もあまり残っていないだろう? 剣術にしても、『犬神』との戦いで、お前だけ負傷したって話じゃないか」


……痛いところを突かれた。確かに、勝四郎さんも(かえで)も無傷だった。


「お前がここにいる退魔師達に勝っている点があるとするならば、『身軽さ』だけだ。それもこの『初心者~中級者向け』と言われている、阿東藩においての話だ!」


 この発言には、他の退魔師達も一瞬、顔を強ばらせたが、反論はない。


「……さっき砦に向かうお前はまだ冷静だった。引き際をわきまえている風に見えたが、今のお前はヤケになっているだけだ。お前一人でどれだけの戦力になるというんだ……それに、お前が言う娘が本当にこの世界に必要な存在ならば、死ぬことはないんだっ!」


「……この世界に必要な存在?」

 動きかけていた俺の足は、止まった。


 「ああ……もう気づいていると思うが、俺も『向こう』の世界の人間だ。神の『名代(みょうだい)』として……お前とは異なる神だが。お前、『日本』の出身だろう? 俺と同じだ。それはともかく……その若い神々にとって、俺達は『アバター』みたいなもんだんだ」


「アバター?」


「ああ……自分達で直接操作することこそできないが、『告知者』を通してこれからの行動について『指針』を与えている。それに、一定以上の能力……わかりやすく言えば、チートを行っている。さらには、偶然を装って、通常では絶対入手できないような強力な武器や防具を渡し、そして戦いの場に送り込む……俺達は自分で考え、行動しているようで、実のところ操られているんだ」


「……よく意味がわからない」

「つまり、『神』達は、俺達がどういう行動を取るのか、『楽しんで』いるんだ」


「そんなことありませんっ!」

 (あかね)が反論する。


「少なくとも、倭兎神(わとのかみ)様は本気で達也さんの事を心配しておられます。無茶なことをする男の子だって……命を落とされた原因も、そうだとお聞きしました。倭兎神(わとのかみ)様にとって、達也さんは唯一無二の存在……達也さんが今度亡くなれば、この世界に別の方をお送りすることはできない……貴方は、たった一人の貴重な存在なんです」


 涙を浮かべ、必死に反論する。


「……なるほど、じゃあ、『楽しんでいる』は言い過ぎだったかもしれない。だが、『試している』ということはないのか? 異世界の人間なら、こんな状況でどんな行動を取るのか。そうでなければ、『観察』の意味がないのではないか?」


「……それは……分かりません。でも、だからってわざと悲劇的な状況を作り出すような方ではありません」


「なら、『国創命(くにつくりのみこと)』の発案か……その神様は、俺達の世界で言う『ゲームマスター』だ。だから、やっぱり今回のイベントで人間がどういう行動を取るのか、試しているんだ。あるいは、今の俺達の会話だって、聞かれているに違いない」


「……それで、『この世界に必要な存在』っていうのは、どういう意味だ?」

 なかなか核心に触れてこないことに、俺は苛立ちを覚えた。


「神がこの世界を『ゲーム』のようなものと位置づけているのなら、俺達のように異世界から送られてきた者以外は、いわば『NPC』だ。本当にシナリオに重要なそれなら、何らかの方法で生き延びられるように設定されているのさ」


「……じゃあ、生き延びられるよう『設定』されてなければどうなる?」

「そりゃ、死ぬだろうな」

「だから死なないように助けに行く。神が『必要』としていようがなかろうが!」

 無駄な時間だった、と俺は思った。有益な情報でもあるのかと思っていたのに。


「達也さん、ちょっと待ってくださいっ!」

 今度は(あかね)だった。

 彼女は自分の首に掛けていた護符を外して、俺に手渡した。


「……この護符には、相当量の『妖力』が封じ込まれています。これも家宝の一つ……恐らく、今の貴方であれば、使い切れないほどの『妖力』が手に入るでしょう」


「……ほう、またあっさりと『強力なアイテム』が手に入ったな」

 氷助が不敵な笑みを浮かべながらセリフを放った。


 茜は一瞬、彼をキッと睨んだが、すぐに俺の方に向き直り、


「それとたった今、倭兎神(わとのかみ)様からお告げがありました。『国創命(くにつくりのみこと)様は、もう何百年も前から直接歴史に干渉することはせず、人間や妖魔、動植物、自然の変化など全てをただ見守っているだけ』だそうです」

 と伝えてくれた。


「……ありがとう。だけど、俺には難しい話はどうでもいい。ただ、ヤエを救いたいだけだ……じゃあ、急ぐから……」

「はい、お気を付けて……」


 そして、今度こそ駆け出したとき、背後から声が聞こえた。


「達也、絶対無理しないでねっ、(あかね)と……私も本気で心配してるからっ!」


 俺は一瞬振り返って、(かえで)に片手をあげて返事をし、そして全力で走り始めた。

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