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ヴァーバルの剱  作者: 真川塁
第一話 始まる物語(フェアリーテイル)
3/27

クレームと決闘

「キュルソンってのはどこにいる!」


 どなり声にも近い野太い声がクラスに響き渡ったのは昼休みのことである。


 いつも通りアイナ、ジェルナン、マルフリーと共に食事にしようと準備しているところに自分の名を呼ばれたレイナードは声の方向へと険しい視線を送る。ともすれば睨みつけているようにも見えるが単純に視力の問題だ。

 レイナードは決して眼が悪いわけではないのだが、左右の目で視力に差があるため、それを埋めようとするとどうしても視力の劣る右目は凝らすようになってしまう。


 教室前方の扉に立っていたのはでっぷりとした体格の男子生徒だった。その制服の色が緑ではなく赤を基調としていることから騎乗科の生徒であることがわかる。彼の背後にも数人、騎乗科の生徒が控えている。

 それを見て、レイナードの身体が一瞬硬直し、視力とは別の意味で表情が険しくなる。

 男子生徒の顔に見覚えはない。向こうも言葉尻をとらえるに名前は知っていても顔までは知らないと見える。


 騎乗科の生徒が顔も知らない整備科の個人、それも同性を呼びだす理由というのはそう多くない。

 そして、それらの大抵は悪い理由だ。


 ――単に先生に言付けを頼まれただけだったりすればいいんだけど……。


 限りなくゼロに近いその可能性であってくれと願い、しかしまぁ現実はそうもいかないだろうと年不相応に達観した様子でレイナードは「はぁ」と小さくため息を漏らし、立ち上がる。ジョルナンが「オレも行こうか?」と眼で語りかけてきたが、片手をあげてそれを制する。気持ちは有り難いがその方が面倒なことにもなりかねない。

 なんとも億劫そうに仁王立ちで扉の前で待つその男達の元へとノロノロと歩いていく。


「お前がキュルソンか?」

「そうですけど。何か用ですか?」


 男はレイナードのことをジロリと上から下まで見定めて、喋り出した。あくまで高圧的に、あくまで攻撃的な態度で。


「お前のせいで模擬戦に負けたじゃないか!」

「……はぁ?」


 どうしてくれると唾をまき散らしながら喚くこの男――クーディーというらしいが――の云うことを整理すると、レイナードの整備した機体を使って参加した模擬戦であっけなくダウンしてしまったらしい。

 整備科の主な授業が整備に偏っているように、騎乗科のメインの授業はオズへの搭乗・操縦にある。勿論、座学や整備の実習もあるが模擬戦などの騎乗訓練に裂く時間が圧倒的に多い。

 そして、その授業で使いに使われた機体を修繕するのが整備科である。


 授業ではハンドラーへの安全性を配慮した装甲の厚い学園仕様の実習機“ブルーダー”が配備されているため、損傷とはいっても軽微なモノが多い。

 そうなると学生が修理する教材としてはもってこいだ。

 そして本当に軽微な損傷・メンテナンス程度であれば、整備を個人で担当するということも間々ある。

 目の前の彼はつまり、「レイナードの担当した機体に搭乗したが、その整備が悪くて活躍できなかった」といいたいようだった。


「まったく、もうすぐ始める学年戦に向けてアピールするはずだったのにどうしてくれるんだ!」


 甚だ以て遺憾だと強い口調で訴えかけてくるクーディーを前にレイナードも困ったように頭を掻く。


 新人戦というのは一年生のみで行われるバジーレのトーナメント戦である。学内リーグでの前哨戦にもなるここで活躍すれば二、三年生の目にとまり、学内リーグ戦のメンバーに選抜されることもありえるのだ。

 そのためにはまず新人戦に出るための出場選手を最低でも5名を集めなくてならない。そして、ただ出場するだけでなく上級生の目にとまりたいのなら勝ち進んでいかなければならない。そうなれば自然とメンバー選びにも慎重にならざるを得ないだろう。

 そうなってくると誘いを受けるのは勿論戦闘能力が高い者――オズの扱いに長けた者だ。ならば、授業中の模擬戦は自分の実力を見せるには絶好の機会。

 そのチャンスを不意にしたと怒り狂う彼の憤りはわからなくもない。もし、本当に自分のミスによって彼がそのチャンスを逃してしまったのならばしっかりと謝罪するべきだ。


 しかし、だからといって自覚のない失態に対して確認の一つもせずに「すみません」と頭を下げられるほどレイナードはお人よしではない。

 レイナードは真剣な面持ちと口調を取り繕い、距離を置くような敬語でクーディーへと話しかけた。


「もし、本当にこちらに不手際があったのなら申し訳ない限りですが……。とりあえず整備不良だった箇所を教えてもらえますか? どういった動作をしたときにどう違和感があっただとか。出来るだけ明確にお願いします」


 どこがどういう風に不調だったのか。それはどの時点で違和感を覚えたのか。もしくは誰かに指摘されたのであれば、外観からどのようにわかったのか。そういったことを具体的に挙げてもらい、問題箇所を探ろうというのである。

 問題箇所がわかれば、原因もわかる。原因がレイナード自身のミスであるならば平身低頭して詫びるし、それ以外の理由――例えば整備後に起きた不具合や対戦相手も妨害工作――だった場合はそう告げて留飲を下げてもらうしかないだろう。

 そう思っての問いだったがそんな風に質問で返されると思っていなかったのか、クーディーの顔にわずかな狼狽が見てとれた。


「そ、そんなことは問題じゃない! お前のせいで負けたんだぞ!」


 と、あまりにも意味の通らないことをいわれて、レイナードは自分に過失はないと確信した。


(……こりゃあ、ただの八つ当たりだな)


 騎乗科の生徒の中には腕に見合わなくプライドばかり高い生徒というのも多く在籍する。その最たるモノが出資者枠の生徒だ。


 オズは開発や研究だけでなく、維持するだけでも多額の金銭が必要になってくる。出資者枠というのはそれを補うための制度である一定以上の寄付を行えば、入学の際にある程度の優遇を受けられるというものだ。「ある程度の優遇」とはいうものの実質的にはそのまま入学することが出来る。その枠が騎乗科全体の三分の一を占めるので入試は二十倍以上という超難関になるわけだ。

 出資者枠はその性質から富裕層や企業団体が利用することが多い。プロチームの育成選手や箔をつけたい貴族の坊ちゃんなどである。


 前者に関しては既にそれなりの操縦技術を持っていることも多く、出資者枠でなくとも入学基準を満たしている場合も多い。 

 しかし後者の場合、肩書きが欲しい、もしくは純粋なる憧れから出資者枠で入学した貴族の御子息というのが大多数を占める。おそらくクーディーもその一人だろう。後ろに取り巻きらしき生徒を数人引きつれていることや時計やアクセサリなどの小物類が放つ高級感、そしてなによりもマルフリーに出会うまでレイナードが思い描いていた貴族のボンボンそのものである。

 そして彼らは他の生徒達よりも操縦技術に関して劣っていることが多い。

 個人でオズを所有することはいかに富豪と呼ばれるような家であっても難しいし、市井の子が入試に向けて専門の塾等で行うドライビングシミュレーターにも興味を示さない。


「入学してから実機に乗って覚えれば良い」というのが彼らの主張だった。

 そのため、入試前から既に訓練を積んでいる一般入試組や企業組に比べるとどうにもレベルが二枚は落ちる。


 しかし、これまで常に勝ち組として生きてきた故の矜持からかそういった一般入試組を前にしても自分の方が上だという態度を崩さない。同科の生徒にでさえそうなのだから、偏差値も倍率も劣る整備科の生徒相手だとどういう態度になるのかも想像は難しいことじゃないだろう。

そうして自然と自分の未熟さによる敗北を認めることが出来ずに整備不良・機体破損として整備者に押し付けることがある。


 勿論、本当に整備がなっていない場合もあるので一概に騎乗科の生徒を悪者扱いには出来ないが、今回のケースではレイナードは被害者といっていいだろう。

 その割にレイナードが落ち着いているのにはいくつか理由がある。その最も大きな理由が今言ったように前例が多々あるということだ。


 こういうケースは初めてではない。なので、こういう場合の対処法もある。

 最も簡単で素早く収拾がつくのが「こちらに非はなくとも謝ってしまう」となんとも身も蓋もない手だ。

 向こうも別に本気でどうしろこうしろというわけではなくて、ただ自分の不始末を誰かのせいにしたいだけなので、こちらが「自分の不手際だ。申し訳ない」と謝ってしまえば満足して帰っていく。

 腹立たしく思うが一番波風の立たない方法である。

 レイナードとしてもあまり事を荒立てたい性格ではない。しかし同時に他人にそうへつらえる性格でもなかった。

 特にこう云った自分のやることは全て正しいとでもいいたげに、こちらを非難してくるような人間をレイナードは好かない。

 よって今回は平和的解決を求めなかった。


「破損個所や整備不良の証拠もなく、どこが壊れているのかも定かじゃない。それで文句だけ言われても僕にはどうしようもないですよ」


 喧嘩腰でそう告げるとクーディーはムッとした様子で負けじと言いかえしてくる。


「現にボクが負けてるんだ! 機体は思うように動かないし、なにより相手は女子だった。しかも、孤児院出身のヤツだぞ! そんな教養のなさそうなヤツにこのボクが負けるなんてどう考えてもおかしいだろ!」


「…………」


 クーディーの言葉にスッ、とレイナードの表情が険しくなる。どうやら今の一言はレイナードにとっては聞き流せないタイプのものだったらしく、表情だけはなんとか笑顔を取り繕うが自然と言葉にかかる棘は鋭くなっていった。


「機体が思い通りに動かないというのは単に理想とする動きに貴方の操縦技術が負けているだけだと思いますけど」

「なっ!?」


 思わぬ反撃に目を剥くクーディー。その台詞にはクーディーについてきた生徒、そして教室内で聞き耳をたてていたクラスメイトたちも驚きの表情をあげている。「またか……」と呆れた様子をみせているのはレイナードの性格をよく知っているジョルナン達くらいである。

 そんな彼らを尻目にレイナードはなおも眼だけは笑っていない笑顔で毒を吐く。


「理想ばかりが高くても仕方がないですよ。少しは現実を見ましょうよ。何事も身の丈にあったモノが一番です」

「~~っ! い、いわせておけば!」


 衆人環視の下でナチュラルに貶されたクーディーは顔をこれでもかと紅潮させて、レイナードに噛みついた。


「だったらボクと勝負しろ!」

「勝負ですか?」

「そうだ。そこまで言うのならば、よほど自分の機体に自信があるんだろ? オズによる決闘を申し込む!」

「しかもオズで、ですか……」

「あぁ、お前が勝てたならここは素直に引き下がろうじゃないか。その代わりお前が負けたらその場でボクに謝罪しろ」


 面倒臭いことになるとは思っていたが、まさか決闘するハメになるとは流石のレイナードも思っていなかった。

せいぜい、殴りかかられるか悪評が流されるくらいだと思っていたのだが……。


「…………」


 レイナードは顎に手をやり考える。

はてさて、どうしたものだろうか。色々な考えが頭の中を巡っていくが結局辿りついた結論はひとつだった。


「それは……勝負にならないんじゃないですか?」


 仮にも騎乗科生と整備科生だ。

 整備科でもガレージへの移動や修理後のならしなどの為に一通りの騎乗訓練は行うので、決して動かせないということはない。しかし、戦闘用の訓練をうけている騎乗科とでは“動かせる”の意味が違う。

 そういったニュアンスをレイナードの台詞から受け取ったクーディーはふふんと鼻を鳴らした。


「ボクは別の人間が整備した機体を扱ってやる。お前は自分の整備した機体を扱えばいい。自分の整備に自信があるなら受けられるだろ?」


 そういって嫌味な笑顔を向けてくる。


「そんな無茶苦茶な……」


 ここまでくると怒るとか憤りとかを超えて呆れかえってしまう。そんな自分に有利な闘いを挑んで彼は楽しいのだろうか。勝ったところで得るものがあるというのだろうか。

 そんなレイナードの表情を不安の表れだと受け取ったクーディーは、もう一度鼻を鳴らし、


「いやならいいぞ。その代わりいまここで土下座して謝れ」

「……はぁ、わかりました。その勝負、受けましょう」


 頭をかきつつ不承不承でOKを出したが、レイナードもただでは引き下がれない。


「でも、こちらにも条件があります」

「条件?」

「友人のジョルナンにお願いしてもいいですかね?」

「え、俺?」


 レイナードのことを心配したのか普段食事をしている窓際ではなく、入口近くに陣取って食事をしていたいつものメンバーの中からおにぎりを手にするもこちらが気になって口に運ぶ姿勢から微動だにしないという一番わかりやすく聞き耳を立てていたジョルナンを指差すと、とうの本人がそのおにぎりを落としかねない勢いでこちらを振り返り素っ頓狂な声をあげた。


「オレは整備に専念したいので。代わりに操縦をしてくれる生徒が必要なんですよ」

「まぁ、それくらいならいいだろう」


 整備科の生徒の操作なんてたかが知れている。そう思い、クーディーは快諾した。


「それともうひとつ」

「まだあるのか」


 眉根を寄せるクーディー。それを目にしても全く気の咎めた様子のないレイナードは更なる条件を提示した。


「普通にやっても仕方がないので現在オレの班が実習で修理している機体を使わせてください。そちらは通常通り“ブルーダー”で良いので」

「修理している機体?」

「えぇ、メアリです」

「メアリ?」

「アリスシリーズのファーストシーズンの機体です。主に接近戦に強い機体で――」

「そ、それくらい知ってる! 馬鹿にするな!」

「あぁ、すいません。で、いいですかね? メアリを使って?」


 その提案にまったをかけたのは意外にも整備科の生徒だった。


「おい、レイ。それじゃあ――」

「いいから、ジョルナン。黙ってて」


 珍しく厳しい声で友人の言葉を遮る。確かな意思を魅せるその瞳にジョルナンは口を噤む。


「アイナも。いいね?」

「――わかった」


 しばし目をぱちくりしていたアイナだが意図を察知して首肯した。それを確認しレイナードは再びクーディーへと向き直る。


「すいません、今の2人は同じ実習の班員なんですけど、どうやら折角整備した機体をオレが試合で使うのに抵抗があるみたいで。あれは後で僕が説得しておきますから。……で、どうですかね?」


 その質問にクーディーは考える。


(どういうことだ? メアリなんて古い機体を持ち出してきて……そんなんじゃまともに闘えないだろう。 それとも何かの作戦か?)


「…………」


 明らかに訝しんでいる騎乗科生徒に対して、レイナードは諦めと悔しさを込めた声音をつくって語りかける。


「普通にやったところで結果は明らかなので。だったらせめて実戦データを取るくらいのことはしないと割に合いませんし」


 肩を落とすレイナードを見て、クーディーはほくそ笑んだ。


(ははぁ、さてはこいつ。機体性能の差を負けた理由にするつもりだな)


 この学園で使われる練習機はフェアリーテイル社がシリーズの枠を越えて造り出した試作機“ブルーダー”

「アリスシリーズ」のセカンドシーズンとサードシーズンの間に製作された機体でシーズン2.5と位置付けられることもある機体である。実際にはアリスシリーズではないので、その位置づけは不適格だという指摘もあるが、スペックや構造的には正しい位置づけでもある。つまりファーストシーズンのメアリとは実に二世代ほど違うということになる。

 東洋には「古き良き」という言葉があるがそれはこと科学技術に限っていうならばまるっきり正しくない。「最先端」であることこそがステータスであり、機能・性能のより良いモノなのだ。


 元より勝てない勝負、只負けるよりも「機体のせいで負けた」とそういう理由付けをするともりなのだろう、と全く同じような理由でレイナードの下を訪れたクーディーはそう推理した。

 レイナードの台詞から彼が勝負を諦めたのだと悟った騎乗科生徒は硬くなった表情を崩し、再びの胸を張る姿勢でレイナードの提案を受け入れた。


「ふふん、いいだろう。その条件のんでやる」

「それと、先ほど言ったように必要な実戦データを取りたいんです。班のメンバーにも協力して欲しいんですけど」

「わかったわかった」


 貴重な休み時間をゴリゴリと削る会話の応酬も面倒になってきたのでクーディーはデータ取りだけならば問題ないだろうと安請け合いをする。


「メンテナンスがあるんで今日明日はちょっとムリなんで、明後日の放課後でいいですかね? その代わり場所はそっちで決めて下さい」

「わかった」


 日取りは明後日の放課後、場所は屋内演習場Cということになった。

 日取りが決まると「せいぜい首を洗って待っていろ」とこれまたお決まりの捨て台詞を背中で語りつつ、彼らは去っていった。

 彼らを丁重に見送るようなこともなく、レイナードは班員3人の顔を交互に見てやんちゃに笑った。


「まーた面倒なことになっちゃったけど、3人ともメアリのメンテナンスよろしくね」

「あん? 俺は別として、2人はデータ取りに協力するだけじゃねぇのかよ?」

「オレは『実戦データをとるために班員の協力が必要』だなんて一言もいってないよ。『実戦データがとりたい。班員にも協力して欲しい』っていったんだ」


 つまり実戦データをとるのと、班員達の協力を求めるのはイコールではない。実戦データをとる以外の分野でも班員で協力する許可を漕ぎつけたとレイナードはいいたいのだ。


「だから、アイナ達が機体の整備に参加しても問題はないよ」


 そう嘯くレイナードに対する反応は、


「相変わらずよくまわる口よねー」

「レイは整備士よりも社交界とか目指すべきだったんじゃないかな?」


 感心する者、就職斡旋する者、様々だ。


「しかし、お前も次から次へと面倒事をしょいこむよな……まぁ、アイツの言動にはムカついたしな。やってやらぁ」

「僕も微力ながら手伝わせて貰うよ」


 呆れながらも拳を叩き意気ごみをみせるジョルナンと柔和な笑みをみせるマルフリー。

 そんな2人とは対照的にアイナは冷めたようにレイナードに問いかける。


「というか、レイ的にはもう勝負はついてるんじゃないのー? さっきの私達に口を挟むなって言ったのもその一環でしょ?」


 レイナードがこうして面倒事に巻き込まれるのは(自ら巻き起こした感も否めないが)珍しいが何も初めてといったわけじゃない。そして、今までの経験則から力任せよりも事前に策を練るのが得意なレイナードの勝負というのは戦う前から決していることが多い。

 そして、普段は使わないような強い言葉でジョルナンやアイナの言葉を遮ったのも、そうした下ごしらえ、準備の一つではないのか。

 アイナはそう言いたいのだ。そして、そういう搦め手で闘うとなった場合、まともに整備させてもらえるかも怪しい。それをアイナは警戒していた。


「まぁ、向こうがどう攻めてくるかわからないし、ちゃんと第二、三案も考えるよ」


 言外にアイナの意見を肯定しつつ、さらに作戦を練るというレイナードを見て、ジョルナンが口元に笑みを貼り付け、確認のように問う。


「負けるつもりはないんだよな?」

「勿論、さらさらないよ」


 歯を見せて笑うレイナードの姿は一見にこやかだが同じクラス・同じ班でその笑顔を何度とか見てきた3人には額面通りにそれを受け取ることができなかった。


(((……うわぁ、すごい怒ってる)))


 3人は知っている。レイナードがこの笑い方をした時は頭にきている時だということを。そして確信する。今回もまた悪い結果にはならないだろうということを。


「さて、整備士なりの闘い方ってヤツを見せてやりますか」


 秘めたる闘志を隠しきれずに爛々と光る瞳がやけに印象的だった。



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