準決勝
トロイ・メイガーは学科四位という優秀生だ。
それゆえに理解している。
今の自分の実力ではゼアドール・シュタイナーには勝てない。
それは授業中の数度行われた彼との模擬戦で身に染みている。
勿論「今は」だ。今後も負け続けるつもりはない。
しかし現段階で、一対一の真剣勝負で彼に勝てるとするならば、未だに正体不明の“無貌の一位”か、三位のソイル・リギーくらいだろう。
それゆえにどう攻めるか決めあぐねていたが、そこへ朗報が飛んできた。
司令機はどうやらゼアドールのサニーウィンドではないらしい。それを聞いて、勝機を見出した。
勿論、伊達や酔狂で司令機を変更するわけもないだろう。今までの試合を見るにそれも作戦の内なのだろう。
しかし、それでも僥倖と感じてしまう。
どのような作戦を考えてきたとしてもゼアドールとの一騎打ちよりは期待が持てる。
しかも、敵のリーダー機は今まで大した活躍を見せていないブルーダー4――出場者リストから察するにおそらくはレイナード・キュルソンという男が搭乗しているはずだ。
これまでの作戦を考えたのは彼だという情報は入ってきている。なるほど、大した戦略家なのだろうが、優れた軍師は得てして本人の資質は低いモノだ。特に彼は整備科の生徒だ、どう足掻いてもレイナードと並ぶべくもない。
つまり、ゼアドールとの闘いを避けて、彼を倒せば良いのだ。
トロイ個人としてはそれでもゼアドールと闘いたい、という想いもある。しかしこれはチーム戦であり、個人的な思い入れを持ちこむべきではない。
強い者を逃れ、弱点を叩く。
卑怯だとは思わない。これは作戦であり、戦術だ。
いままであれこれと画策してきたレイナード某も文句はいわないだろう。
「サニー・ウインドはどうだい?」
チームの人間に連絡をとる。
常に敵の位置を確認するのは当たり前だが、今回は特にゼアドールの位置には気を回しておかないといけない。
『フィールド内をあっちこっちに走り回ってますよ』
「走り回る?」
『はい。特に攻撃してくる素ぶりは見せずに物凄いスピードで移動してます……陽動ですかね?』
その報告にふむ、とトロイは考え込むが真意を見出すだけの情報は揃っていない。
「まだわからない。そう油断させておいて攻めに転じる可能性もあるし、気をつけて」
『はい』
そうして通信を切る。
走り回る……確かに常識で考えれば陽動だろう。しかし、ゼアドールに陽動をさせることにどんな意味がある? チームの最大戦力を囮に使うなんて……。いや、待てよ。チームの最大戦力だからこそ囮として優秀なのではないだろうか?
こちらの目をゼアドールに向けておき、何かをするつもりなのか?
司令機は自分だ。なので、相手が何かを仕掛けてくるとすれば自分にだろう。
トロイは再び考え込む。慎重で思弁的になるのはよくなりとわかりつつもついあれこれと考えてしまう。悪い癖だ、と思いつつもこの思考に助けられたこともあるので中々にやめられない。まぁそれが癖というものだろう。
一人で考えてばかりいるのもよくない。チーム戦なのだから他の意見を聞いてみよう。
トロイは再び通信回線を開き、自分の前方を駆るチームメイトを呼びだす。
「クーティアス、ゼアドールが陽動だとするとどう仕掛けてくると思う?」
『あれが陽動だとするならば、そちらの注意を向けている間に監視している機体を排除していく……といったところですかね』
チームの頭脳であるクーティアスの言葉にトロイは聞き返す。
「司令機を狙ってくるんじゃないのかい?」
『可能性は十分ありますが、それは陽動がなくても変わらないですよ。それよりもひとりずつ潰していく方が効率的ですよ。あれが本当にただの陽動ならね』
「どういう意味だい?」
『陽動でない可能性もあるということです。……いえ、陽動は陽動ですがそれは副産物という可能性です』
「副産物?」
訳がわからないといった風のトロイに内緒話をするような声色でクーティアス。
『これは噂ですけどね……ゼアドールが訓練中に負傷したって噂があるんですよ』
「っ!?……そんな噂、聞いてないけど」
『僕もさっき聞いたところでして。 不確定な情報だったので信用していなかったんですが、彼の役目を見ていると嘘じゃないかも、と思えてくるんですよね』
「怪我で上手く操縦が出来ないからああして陽動として走り回ってる、ということかい?」
『可能性の問題です。今までも妙策を仕掛けてきたチームが、こんなありきたりで見え見えな陽動を仕掛けてくるでしょうか? 裏に何かあるのは明白です。 勿論、裏に潜んでいるのは僕の予想とは違うかもしれません。怪我の情報自体が彼らによってつくられた嘘という可能性もありますが』
「そんな情報を流したところで大したメリットはない、か……」
『油断を誘えるくらいでしょうね』
そんなモノに頼る必要があるだろうか? 怪我が嘘ならばゼアドールが司令機として堅固な立ち回りをしたほうがずっと上手く闘えるだろう。
となると、ゼアドールの怪我というのはあながちウソではないのかもしれない。
「……よし、ゼアドールの方はリュックが距離をとりつつ見張っておいて。不意打ちされる可能性もあるから周囲にも警戒して」
『中々難しいっすけど、承りました!』
頷き、別の仲間へと言葉を向ける。
「エミリーとデュランの方はどうだい?」
『こっちは二機いる。相手はデリンガーと――もう一人はアルデンヌじゃなさそうだから整備科の生徒っぽいな』
『やっぱりデリンガーさん上手いわね。悔しいけど』
『整備科の彼も中々だぜ。危なっかしいところはあるけど力強いし、攻撃的なところは好感が持てる』
『その危なっかしさはデリンガーさんがフォローしてるわよ。まるでデュランをフォローする私みたいに』
『あぁ? オレがお前をフォローしてやってんだろうが!』
試合中だというのにこの二人は……、とトロイは呆れてしまう。
けれど、彼らだって信頼している仲間だ。
状況が危なくなれば自然と態度も変わってくる。これだけ喋れているということはなんだかんだ云いつつも上手く闘えているということだろう。
「なら、2人はそのままその二機を抑えておいてくれ」
『わかったわ』
『はいよ!』
威勢の良い返事を聞いて、安心して彼らとの通信を終えた。再びクーティアスに問いかける。
「残るはアルデンヌさんの居場所だけど……クーティアスはどう思う?」
『流石に整備科生徒の乗る司令機を孤立はさせないだろうね。一緒にいるか、近くで姿を隠して待ってるんじゃないかな?』
トロイも同意見だった。
「となると陽動からの不意打ちの線はなさそう……か」
これはゼアドール負傷説にも信憑性が出てきた。
確かめるにはゼアドールを監視するリュックに攻撃を命じればいいだけだ。
しかし、もしもということがある。
もしも、ゼアドールが怪我してなくそう見せ掛けているだけならばリュックは呆気なく討ち取られてしまうだろう。そうなると四対五だ。一人減ればそれだけ戦況に影響が出てくる。無理な特攻はさせられない。
となるとここはやはり……
「クーティアス。ボクらはこのまま敵司令機を獲りに行く。――リュック、そういう訳だからゼアドールがボクらの方に来ないよう気を付けてくれ」
『了解』
『アイアイ、キャプテン』
ゼアドールの位置は確認済み、デュラン達の所に二機いるということは、向こうも多くて二機。クーティアスは決して操縦技術は高くはないが頭ばかり回る木偶の坊というわけでもない。
ゼアドールと闘うことに比べれば勝てる見込みも格段に高いだろう。
『――いたっ!』
先行しているクーティアスから一報が入る。
トロイも既に視界に捉えていた。
ブルーダーが一機。司令機の印である赤いプレートが装着されている。
林の奥の開けた場所にいる。見た限りもう一機の姿はない。
が、油断はできない。
「その辺りに隠れているかもしれない。気を抜くなよ」
『誰にいってるのさ』
その軽口にトロイの口元が緩む。
まだ油断して良いわけではないが、目の前に白星が迫っているようなこの感覚には抗いがたい。こうした感覚が襲ってきた場合、十中八九は勝利をモノに出来ているという事実が自分自身を鈍らせそうだったので、トロイは慌てて頭を振って操縦に集中した。
程なくして、
『――来たっ!』
クーティアスから喜色を含んだ声が飛ぶ。
茂みの中から一機のブルーダーが躍り出る。アルデンヌだ。
本来ならば、このような待ち伏せを受けたらクーティアスのような明るい声は出ないだろう。が、その可能性を予期していたなら別だ。
『こっちは撲が抑えるから、トロイは司令機を!』
「任せた!」
敵の手札は出揃った。
これで、邪魔する者はいなくなった。
純粋な一対一の勝負。
しかも、相手は整備科の生徒だ。
「――だが、油断はしない!」
速度をあげてブルーダーへと突き進む。
トロイは再び、己の思考の海へと入っていく。
――彼はまだ新人戦において殆ど接近戦をしていない。精々前の試合のアルデンヌと2人でエドモンド相手に闘っていたくらいだろう。それも牽制が主だった。
優れた軍師は得てして本人の資質は低いモノ――そう考えていたトロイだったが、しかしこの土壇場でその考えに待ったをかけていた。
もしかしたら。
もしかしたら、目の前の彼は作戦だけでなく操縦にも長けているのかもしれない。もう一人の整備科生徒もそれなりにやるとデュランが言っていたが、それ以上に闘えるのかもしれない。
そう、考えることにした。
――速度を増して、一直線に突き進む――
そうすることによって、油断を捨てた。
「ハァアアアアア!」
――フローソードを構え、雄叫びをあげ突き進む――
そうすることで『思っていた以上の攻撃』がくることがないようにした。
――トロイの構えた剣が光る――
だからだろう。
トロイが最初の一太刀に反応出来たのは。
「――クッ!」
正面に構えていた筈のフローソードを凄まじいスピードで横薙ぎにふるってきたのだ。
突きのカタチで構えていたトロイはなんとか反応し、その攻撃を受けることが出来た。
しかし、敵の攻撃はこれだけにとどまらなかった。
既に構え直して、今度は角度を変えて打ち込んでくる。
それも複数回。
「早いっ!」
トロイも応戦するが、その速度になんとか捌くので手一杯。こちらから一手投じるのは難しい状況にあった。
「整備科の生徒がこんな腕前を……?」
そう困惑するがすぐに自分の中で否定した。
違う。そうではない。
よくわからないが違和感がある。
何故だろう。初めて闘う相手のはずなのに何度も撃ちあったことがあるような……。
そして、また切り結ぶ。
その瞬間、雷にうたれたような衝撃と共にトロイの脳内にある可能性が生まれた。
「ま、まさか!」
流石第四位。
たった数度の切り結びでレイナードの企みを看破してみせた。しかし気付いた時にはもう遅い。華麗にして苛烈な剣技がトロイを襲う。
自らが敗北するその瞬間を見て、トロイは確信した。
そして、全てを理解したトロイはこういうしかなかった。
「……ク、クレイジーだ!」
作戦概要は次回。
今回も読んでいただき有難うございました。




