クラウディアの事情
「よぉ、シュナイダー。順当に勝ち進んできているようで何よりだ」
試合終了後、控室に戻るレイナード達一行にそんな声をかけたのは軽薄そうな男だった。
短く刈りあげた髪型、獣のような瞳、ゼアドールのような華はないが人を惹きつける魅力のある少年だった。それを現すように彼の後ろには付き従うように複数の少年少女がいる。
「しっかし、よくそんな面子でミアノットとライザーのコンビに勝てたな」
そういいながらレイナード達をどこか馬鹿にしたようなニヤニヤとした視線で見てくる。その視線が不快だったのか、ジョルナンが眉を寄せながらどこか冷めた視線で佇むクラウディアに声をかけた。
「誰だ、アイツ?」
その言葉を受けて冷めた視線をその男に向けたままクラウディアが答える。
「学科三位のソイル・ギリー。何かとゼアドールに絡んでくるのよ。ライバル視してるってヤツかしら」
「あぁ、だからか」
その態度に納得した。状況を見守ることにする。
あのゼアドールになら、助けはおそらく必要ないだろう。そんなレイナードの予想通り、ゼアドールに困惑や助けを求める様子はない。まぁ、多少辟易しているようには伺えるが。
「成績ではお前の方が上だが忘れるな。それは筆記の差であり、実力の差ではないってことをなぁ」
その言葉はゼアドールだけでなく、自分や周囲の者に対しても言っているようだった。
「次の試合で、俺がお前よりも上だってことを証明してやるよ。……まぁもっとも、俺らの決着が着く前に試合は決まっちまうかもしれねぇけどな」
蔑んだような視線をこちらに送ってきた。他の連中も似たり寄ったりだ。
それにはゼアドールも口を挟む。
「俺らを笑うよりも自分の心配をしたらどうだ?」
「ハッ! 相手はあの“容姿優秀生”だぞ? 負けるわけがないだろうが」
そう鼻で笑う。ソイルのチームメイトも同じように笑った。
その言葉にまたクラウディアを問いただすジョルナン。
「“容姿優秀生”ってのは?」
「学科九位のミーティア・ロレッサのことね。モデルなんかもやってる美人よ。そのせいで『容姿で優秀生入りした女』なんて陰口を叩く輩もいるわね」
なるほど、それで容姿優秀生か。
「本当なのか?」
「……まぁ正直、操縦技術は学科十四位のナターシャさんと比べてもそこまで差があるとは思えないわね。でも、使い方は上手いわよ」
「ふ~ん」
ならば注意しておくべきか。ミーティア・ロレッサ。心の中でその名前を復唱した。
「しっかし、アンタも人を知らないわよね。彼女、一年男子の間では一番人気がある騎乗者よ?」
「どうも昔から色恋には疎くてな」
「疎い、というかあまり興味がなさそうなのだけど」
「興味がないというよりも、よくわからない」
興味がないわけではないが、いまいちピンとこないのだ。
「……変わってるわね、アンタも」
「よくいわれる」
自嘲気味に笑うレイナードに気合いの入ったナターシャの言が飛ぶ。
「で、でもそれがレーくんのいいところでもあり、悪いところだよ!」
「結局悪いのか……」
「あ、あぅあぅ」
なんとかフォローしようとして見事に失敗するナターシャにクラウディア他が同情の視線を向けていた。
レイナード達の話と時を同じくして、ゼアドールとソイルの会話も(まぁ、一方的にソイルが話しているだけだったが)終了の兆しを見せる。
「まぁ、いい。決勝で駆逐してやるからな。精々、トロイのチームに負けないよう頑張るんだな」
あくまでも上から目線でそう言って、ソイル達は去っていった。
その背中を見ながら、茫然とまではいかないがしばし呆けるような表情でいたジョルナンが、ソイル達と充分距離が開き、言葉が届かなくなったのを確認し愚痴をこぼす。
「しっかし。あれだな。成績で負けているのによくあんなに威張り散らせるよな」
「個人の戦闘技術でもチームの総合力で勝ってるつもりなのよ、あの男は」
「チームの総合力? 確かにソイルって男を中心にまとまってる感はあったが、言うほどのものなのか?」
今後の試合展開に関わりあいのありそうなことを耳にしたレイナードが聞き返すと、クラウディアは呆れたような声を出す。
「チーム力で言えば、次に当たるトロイ・メイガーのチームの方が上よ。あそこのチームリーダーは人としての魅力もあるから。
そういう雰囲気的な問題じゃなくて、単純にチームとしての総合的な能力よ。アイツのチームは今回出場しているチームの中で唯一、メンバーが全員“優秀生”なのよ」
「ほぅ」
「ちょ、マジかよ?」
視線は自然と携帯端末を手にしたアイナへと注がれる。彼女もチームメイトの意図を組み、端末を弄くりだした。
「ちょっと待ってねー。……ええと、本当だ。上から3位、18位、26位、33位、37位、41位……ホントだ。全員五十位以内、サポートの整備科生も学科上位の二人だねー」
その言葉には動じ難いレイナードですら、軽く唾を飲んだ。
「なぁ、ゼアドール。アイツの実力は?」
「……一対一でやったとして負けるとは思わない。が、必ず勝てるとも言い難い。あの大口に違わぬくらいの実力は持っているな」
「うへぇ」
ジョルナンがうめく。
クラウディアからも同意の声があがる。
「そうね……実際、ゼアドールと一対一で勝てそうな生徒ってなると同学年ではソイルが一番有力ね」
「それは……厄介そうだな」
ゼアドールが腕を認めるほどの実力。そして、チームメンバー全員が優秀生という事実。更にはサポートの方も万全の態勢を整えてきている。
「…………」
見た感じ、どうにも小物感の拭いきれない性格の男ではあったが、これは案外、ひょっとしなくても一番の難敵かもしれなかった。
☆
次の試合のため、今回もクラウディアとレイナードは二人で作戦会議をしていた。今回も他のメンバーは試合に向けて演習場で訓練をしている。
「……と、まぁ今回の作戦はそんな感じだな」
「……それって、上手くいくものなのかしら?」
「お前の懸念もよくわかるが、充分な勝算を見積もって出したんだ」
「…………」
「まぁ、お前が嫌ならば別の作戦を考えるぞ? レイナードを司令機にしておけばそれだけで五分五分以上で闘いを進められそうだしな。どのみち、この作戦はお前の同意がないと成立しそうにないからな」
「……まぁ、ゼアドールは不服がるでしょうね」
「説得できるとすれば付き合いの長いお前くらいだな」
「そんなに長い付き合いってわけでもないけどね……まぁいいわ。五分五分じゃ不安だもの。それで勝率があがるなら貴方の作戦に従うわ」
そういう彼女の目は今日も燃えている。
それがレイナードには不思議だった。不思議、というかレイナードにないものだったので自然と
「……なぁ、お前のそのやる気ってどこから出てきてるんだ?」
「……そんなにやる気に満ち溢れているかしら?」
どことなく嫌そうな顔をする。まぁ、異性から血気盛んな女子だと思われれば良い気分ではないだろう。
「いやぁ、結構な声がオズ越しに聞こえたからな『私はアンタなんかに負けてられないのよ』って」
「あぁ……そうよね。チームの機体同士は通信とれるようになってるんだし、聞こえちゃったわよね」
一瞬、自嘲するかのように口元を歪ませる。
そして、そのワケを語り始めた。
「別に、そんな重たい話でもないわよ。ただ、私は友達に会いたいだけ。そのためにはこの新人戦で優勝することが近道になるの」
その発現にレイナードが首を傾げる。
「どうしてだ? こんな学園の新人戦なんかで得られるモノなんてそうないだろう」
校内ではかなりの盛り上がりを見せているし、学生にとっては自分の腕を試す良い機会ではあるが、対外的にはそんなに注目度のあるものでもない。校内リーグ戦ならばまだしも駆け出しの一年生の試合に優勝したくらいでは特筆すべきことはないはずなのだが……。
「学内公式リーグへのチーム参加権」
「ん?」
そんな疑問にぽつり、と言葉を産み落とす彼女。
「確かに『一年間の授業の集大成』としての側面が強いこのトーナメントでは直接的な恩恵は少ないわ。賞金が出るわけじゃないし、成績に多少加味されるってだけの話。学内戦の参加チームからのオファーがあったりもするけどそれは間接的なものだしね」
わかっているわよ、とでもいうように説明を続けている彼女を見て、レイナードは口を閉ざすことで話を促す。
「そんな中、優勝チームのリーダーにだけ与えられるのがリーグ戦へのチーム登録の権利よ」
そよ風がクラウディアの髪の隙間を縫うように通っていく。髪を押さえながら彼女は続ける。
「学内戦のチーム数は12チーム固定。だから簡単にチームをつくることは出来ないけれど、新人戦で優勝すれば無条件でそのチームを作る権利を得ることが出来るの。私はそれが欲しい」
「どうしてだ? 自分のチームをつくらずともお前の腕ならオファーがかかる可能性は十分にあると思うが」
成績だって学年に二十一位。優勝できずとも「整備科の生徒をハンドラーとして使いながらも、勝ち進んだ班のリーダー」となれば、統率力や組織力などのポイントも高評価を与えられるだろう。
確実ではない。けれど、確実にどこかのチームでその名前は候補にあがるだろう。
しかし、彼女は首を振る。
「私はチームに入りたいんじゃないの。自分のチームが造りたいの!」
「…………」
「ほら、私って誰かの下につくのって嫌いじゃない?」
何故? というレイナードの言葉ならぬ疑問の視線を受けて、茶化すように彼女がいう。しかしレイナードがそのおふざけに乗ることはない。
「で?」
「…………」
本当の理由は、などと問わずともその一言で理解できるくらいにはお互いについて知ることが出来ているのだろう。クラウディアがその返答ともいえぬ返答に口を閉ざした理由は別のものだ。
「ま、話したくなきゃ別にいいぜ。誰かを責められるほどオレもオープンな人間じゃないしな」
「アンタの場合は何もかもリバース状態じゃない」
一体、どんな秘密があるのかしらね、とクラウディア。
わずか一月足らず。しかし、その間お互いに顔を突き合わせては作戦を練り、模擬戦でぶつかり、試合の準備をしていればレイナードが何かを隠していることは見てとれる。
ナターシャの一件もあったことだし、恐らくクラウディアだけでなく他のメンバーも薄々勘づいていることと思う。それでも何も聞いてこないのは信頼されているからか、個人を尊重されているからか……。決して「どうでもいいから」などという理由でないことはレイナードにもわかっている。
そんな彼らの心遣いが有り難い。
だから、レイナードとしても無理に聞こうとは思わない。ついこういう流れになってしまったが、それすらもちょっと後悔しているところなのだ。
なので、クラウディアがこのまま口を噤むようならば話題を変えるつもりだった。
しかし、クラウディアはそうしなかった。
「……昔仲のよかった友達に会うためには必要なの」
「そのためにリーグ戦のチームをつくる必要があるのか?」
「ちょっと昔色々あってね……。私と出会ったのだってそういう理由だったし……」
尻つぼみになっていく言葉に、それ以上の追求は鬼門そうだと悟ったレイナードは方向を変えることにした。
「チームリーダーじゃないといけない理由ってのもその辺りにあるわけか」
「目立たないと彼女に見つけてもらえないじゃない!」
別に尋ねたわけでもないのに彼女は声を大にしてそう言った。そして、その声が周囲から注目を受けてることを悟り、静かに着席しなおした。
その様子に苦笑しつつレイナードは今度はしっかりと質問する。
「見つけてもらうって……居場所とかわからないのか? 友達なんだろ?」
「居場所はわかるけど会いにはいけないわ。……多分彼女、物凄い数のボディガードとかに守られているだろうから」
「ちょっと待て、それどこの国の王族だよ!?」
「王族じゃないけども、人によってはそれくらいの価値がある人物ね」
髪を整えながら、彼女の友達の名前を口にした。
「名前はマリア・クスティーユよ」
マリア・クスティーユ。その名前がレイナードの頭の中で引っかかる。名前や顔を叩きこむのが苦手なこの頭が覚えているということは何か事情がある筈だ。
特にひっかかるのが苗字の部分。
クスティーユ、クスティーユ……と反芻すること数回、レイナードがその苗字に気が付きはっとなる。
そんなレイナードの表情を察して、クラウディアは頷いた。
「えぇ、彼女は『A.I.mode』の機体開発技術部の責任者よ」
「……おいおい」
とんでもない肩書きの人が出てきた。
クスティーユ。それは三大オズメーカーの一角『A.I.mode』の創業者一族の氏名だ。
成程、それならばこの脳が違和感を覚えることも頷ける、とレイナードは他人事のように納得した。
A.I.modeと云えばゼアドールの『サニー・ウィンド』なども作っている有名メーカーだ。
ヨーロッパ圏内ならいざ知らず、A.I.modeの現在の拠点はルーシア連邦だ。そこの機体開発部の責任者ともなると、確かにおいそれとは会えない相手である。
それ以上の理由もある。
「確かにA.I.modeの人間――増してやクスティーユ家の人間ともなると難しいよなぁ」
レイナードは彼女個人について知っていることは殆どない。が、A.I.modeやクスティーユ家についてはそれなりの知識があった。
現在の、とあるようにA.I.modeは元々ヨーロッパに拠点を置いていた。本拠地をルーシアへと移すことになった際には様々な反発があった。
時代が時代だ。
地中海を挟んでアメリアとE.A.Uが睨みあっていた頃なのだ。そんな折りにEAU側の戦力である会社を国外へ持ち出そうというのだからそれは当たり前だろう。
考えようによっては負けを見越して国外逃亡ともとられかねない。そうなればEAU側の士気低下は免れないだろう。
そういったニュアンスを込めたレイナードの呟きにクラウディアは意見する。
「仕方がなかったのよ。E.A.Uはフェアリーテイル推しだったしね」
A.I.modeとしても苦肉の策だったのだろう。オズの研究開発には多大なる費用が必要だ。しかし、E.A.Uは費用の殆どを国内最大手であるFT社に回していた。そんな折りにルーシアから資金援助の話があれば飛び付かずにはいられない。
しかし、E.A.Uとしても国内のオズ事情に詳しい企業をそう簡単に国外へと渡航させることも出来ない。
「確か創業一家で当主が社長でもあったクスティーユ家の人間は知人の貴族の元に軟禁されてたんだっけか?」
「……そうよ」
「?」
授業で習ったことに少し触れただけだったが、そのことを口にした瞬間、クラウディアの表情が変わった。
そして、周囲に視線を送り直近に人が寄ってきてないことを確認し、まるで観念するかのように喋りだした。
「……そうね。あんたの口は吹けば飛ぶような軽い戸板でもなさそうだし」
そう前置きし、クラウディアは佇まいを居直した。これから話す内容が真面目なモノであるということを示すための行為でもあったが、それ以上に身にまとう雰囲気でその事実に真実味を持たせるための行為でもあった。
「クラウディアは母の旧姓よ。私の本名はクラウディア・カタリナ・フォン・デッセン=ヴァイツブルク。ルクセンブール大公国大公の娘よ」
「……本当の話か?」
「ええ」
その表情から嘘は見てとれなかった。
現存する唯一の大公国――ルクセンブール大公国。
そこの大公といえば他の国でいえば国家元首や国王にあたる。それが彼女の父親ということは、つまり、それは彼女を王女と呼んでも遜色ないのではないだろうか?
なんとなくお嬢様っぽいとは思っていたがそこまで上級貴族な人間だとは思わなかった。
しかし、その話には思い当たる節というものもあった。
「もしかして、ジョルナンが前に噂してた『騎乗科に入学した王族』って……」
「直接聞いたわけじゃないから詳しいことはわからないけども。私のことかもしれないわね」
実際、王族ではないけどね。
折角整えなおした髪を弄りながら、そうつまらなさそうにクラウディアは肩をすくめる。
「どこから漏れたのかしら……。まぁマイア・グリムとか社交界で見掛けた人物も数人いたから覚悟はしていたけれど。好奇の視線で見られる以外、特に問題はないから別にいいけど」
社交界などという言葉が普通に出てくる辺り、自分とは違う世界に住んでいたんだな、とレイナードは思った。
まぁ、元から住む“世界”というのは大分違う気もするが。
そんな自嘲的なレイナードの思考に気づく様子は欠片もなく、クラウディアは話を先に進める。
「で、さっきいってた『知人の貴族』ってのがウチなのよ。ヴァイツブルク家とクスティーユ家は遠い親戚筋なのよ。確かマリアのお母様とウチの父がはとこ……とかだったかしら? で、当主同士の仲もよかったからその関係でね」
「成程ねぇ……」
そういえばA.I.modeの創業者一家はボーム社創業者アークノート・オズワルドのように一代で財をなした家系ではなかったはずだ。なるほど、元は貴族の出だったのか。
そういった歴史に関してはレイナードのデータにはなかった。
「……けど、ちょっと待て。おかげでお前が友達とおいそれと会えない理由はわかったが、それが学園の校内戦と関係あるのか? わざわざ見に来るわけでもないだろ?」
フェアリーテイル学園の公式戦はテレビ中継などもされるほどの人気があるが、それはあくまでもゲルマンシュバルト内においてだ。
既に各国にオフィシャルリーグが出来ている今、如何に世界最先端を行くフェアリーテイル学園といえども、世界的に人気を得ているということはない。
「彼女は学者よ? 他国の機体が見れるとあれば取り寄せるなりなんなりする可能性はあるでしょ?」
「そんな『可能性』に掛けられてもな……」
もっと明確なビジョンはないのか、とレイナードが呆れを露わにする前にクラウディアは、
「まぁ、勿論最終的な目標はそれじゃないけどね」
あっさりと明確なビジョンを示す。
「『WOE』」
「何?」
「知らない? 三年に一度のオズの祭典『world OZR exposition』新型のお披露目や新技術の公開、そして各国のリーグ代表チームや企業が世界一を決める大会も行うオズの見本市兼世界大会ってところね。校内戦の優勝チームにはその大会の出場者を決定できる権利が与えられるの」
云われて記憶を辿るもバジーレが隆盛してからの世情的な知識には疎いため、レイナードは詳しい情報を並べ立てることは出来なかった。後で調べておこうと心に決める。
「なんかアイナ達が話してたような気もするが……あまり覚えてないな。学生がプロ達と闘うのか?」
「それとは別枠ね。大会も大きく二つに分けられるの。学生主体なのは『アンダー20』だったかしら? 基本は学生同士の闘いよ。学生以外だと後は企業の育成機関で同年齢くらいの人達も出場してくるはず。学校単位での出場だとウチとアメリア、中華連邦と大和の学校の出てくるのかな?」
「それとルーシアもか」
「ええ」
それを聞き、レイナードは全てに合点がいった。
それならば、メーカーの技術責任者の目に止まることもありえるだろう。
けれど、
「簡単なことじゃないぞ、それは」
新人戦を優勝するのみならず、校内戦でも優勝しなければならない。それは上級生をも倒す力を身につけなければならないということだ。
校内戦のチームは12チーム。1チーム8人+予備要員2人の計10人。総勢120人。その全てが操縦者ではないし一概にそうともいえないが、彼らこそがこの学園でも屈指の優秀生なのは間違いない。クラウディアの提案そのままに闘うとなれば、そんな彼らを相手にまだ入学して1年にも満たない一年生だけで勝ち進まないといけない。校内戦はトーナメントでないとはいえ、優勝を目指すなら一度の負けが命取りだ。
格上相手に一度も膝を折る機会が与えられないのである。
「わかってるわよ」
口にするのは簡単だが……と苦言を挟もうとしてレイナードだが、彼女の真剣で覚悟を決めたような表情を見て、口を開くのをやめた。
そんなこと彼女が一番理解しているだろう。それでもなお口にするあたりに彼女の強固な意思が宿っている。
それを見て、
「フッ」
レイナードはつい笑ってしまった。
「っ!?」
笑われてると思ったクラウディアは怒ったような、失望したような顔をしていた。ここまであけすけで全てを曝け出した上でその覚悟もろともに一笑に付されたのだ。言葉を荒げてもおかしくないところだ。
「あぁ、すまん。お前の覚悟を笑ったわけじゃないんだ」
「……じゃあ、なんなのよ」
変わらず、むすっとした顔でレイナードを睨みつけるクラウディア。まるで選択した台詞次第では許さないぞ、とでもいいたげな視線を送っている。
しかし、レイナードはそんな視線を気にする風もなく、
「友達に会うためにそこまでするヤツってのは初めて見たが、中々に気持ちがいいもんだな」
そういって、レイナードはまた笑う。
ここまで、心を揺さぶられたのは久しぶりだ。
これがもっと他の理由ならばレイナードが表情を変えることもなかったかもしれない。例えば会いたいのが生き別れた両親とか命の恩人とかならば、レイナードが心を揺さぶられることもなかっただろう。
だが、友達。
それはレイナードにとって譲れない過去だ。だからこそ共感、ではないが彼女の言葉には突き動かされるものがある。
「こりゃあ、オレも覚悟を決めるべきかもしれないな」
「……?」
「協力してやるってことだよ」
そういってまた笑うレイナードの双眸にはクラウディアにも見られた光がくっきりと映えていた。
そのことばと表情にクラウディアの胸に不思議な疼きが走ったのだが、それがなんなのかクラウディアにはわからなかった。
「それじゃあ、準決勝は……もうちょっとクレイジーにいくか」
レイナードのさらなるその一言で、空気はまた戦いの準備へと戻っていった。




