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ヴァーバルの剱  作者: 真川塁
第四話 ブレーメンの音楽隊
24/27

三回戦

視点や場面がころころ変わります。ちょっと見づらいかもしれません。


 第三試合。


 会場は熱気に満ちていた。

 それもそのはず、今大会初の優勝候補同士の争いだからだ。

 片やゼアドール・シュタイナーを要するクラウディアチーム、そしてもう一方は学年七位のミアノット・ソーサーと学年八位のエドモンド・アルファーノをようするレジャーチーム。


「ねぇ、シュ、シュナイダー。この試合、私達が勝ったら私と付き合って!」

「クラウディア……オレがこの試合で勝ったら結婚しよう」


 試合前のインタビューでそんなことを言い出したのだから、いつも以上に注目されるのは当たり前である。


 さて、お相手の各選手の反応はというと、


「却下だ」

「嫌よ」


 と呆気なく、素気なかった。


 しかし、そんな二人の反応などお構いなしに会場の方はヒートアップしていった。

 学生が大好きな『長期休暇』『お祭りごと』『色恋沙汰』の三つが絡んでいるのだ。盛り上がらない方がおかしいだろう。


「決勝でもないのに熱持ちすぎ……」


 会場のその異様な興奮に引き気味なクラウディアを筆頭に、他のチームメイトもみんな似たような表情になっている。公開告白の件で盛り上がっているのはアイナとナターシャの当事者以外の女子二人だけだった。


「いや、しかし二人とも災難だなー」

「オレも相手チームの調査はしたが……成程な」


 合点がいったと頷くレイナード。


「私がいうのもなんだけど、割と有名な話よ。もうかれこれ何十回断ってるかわかったもんじゃないわ」

「まぁ彼らのおかげで、私に言い寄ってくる生徒が少なくなってるから嬉しいんだけど」

「それは勘違いじゃねぇの?」

「あぁん!」


 その件がなくたってお前に惚れるような奴そういねーよ、とでも今にも口にしようとしていたジョルナンはクラウディアの鋭い睨みで言葉を飲み込んだ。


「……というか、あれだけお前らに惚れこんでるんだから一緒にチームを組めばよかったんじゃないか? 学科六位に学科八位――そこにお前達三人を組み込めばチームとしては最高だろ?」

「私はどんなことをしてでも優勝したいって言ったけどね。その“どんなこと”の中に好きでもない男子と付き合うってのは入ってないの」


(この口振りだと、そういう条件を出されたんだな……)


 そう直感し、それ以上は何も聞かないことにした。しかし「重い・暗い」というほどではないがこの微妙に嫌な雰囲気は試合前のモノとしてはあまり良くはない。


(普段はクラウディアが行うが、今日のところは自分がやるか)


 そう考えたレイナードが一同に向かって檄を飛ばす。


「まぁ色々な意味でキツイ相手だが、やってやれないことはない。作戦通りにことが運べば何よりだし、そうじゃなくとも勝てるだろ、お前らなら?」


 そんなレイナードの言葉に彼の予想通り空気は一変した。


「当然よ!」

「が、がんばるっ!」

「オメーに言われるまでもねーよ」

「……フン」


「頑張ってね、みんな」

「期待してるよー」


 そんなベンチからの声も受け取って、一行は試合へと向かった。





「うふふふふふふ」


 ミアノットは浮かれていた。


「ついにゼアドールと……うふふ」


 浮ついていた。


 目鼻立ちの整った顔立ちと共に学年トップクラスの女子騎乗者ということで少なくないファンがいるのだが、この緩みきった――今にも涎を垂らしそうな顔を見たら、その人気にも陰りが見えるだろうか。


 しかし、ミアノットにとってそんな有象無象の生徒達などどうでも良い。彼女にとって重要なのはゼアドールだけだ。


 サニー・ウィンドに乗って闘っている姿を見て、目を奪われた。機体から降りてきた汗の伝う精悍な顔つきを見て、心を奪われた。

 それ以来、何度となく彼にアタックしているが、一向に色よい返事は貰えない。それもこれもあの女――クラウディア・アルデンヌの存在のせいだ。恋人というわけでもないのに常にゼアドールの傍にいるあの女がいけないのだ。

 まぁ、アレのおかげでヘンな虫がつかないという側面もあるが、どちらにしても面白くない。


 だからこそ、いけつかないあの男――エドモンド・アルファーノと手を組んだのだ。あの男は好かないがその腕だけは買っている。


「待ってなさいゼアドール。何と言おうと貴方のことを必ず私のものにしてみるんだから!」





「クラウディア……あぁ、クラウディア。クラウディア」


 愛しそうにクラウディアの写真を見つめるエドモンド。


 彼の場合は決して一目ぼれというわけではなかった。

 むしろ、最初のうちは敵視していた。ゼアドールを引き連れ、(本人的にはそんなつもりはなかっただろうが)大きな顔をする彼女を疎ましく思っていた。

 彼女に惚れたのはそんな折りだ。いつものように鼻についたので、ちょっと文句を垂れてみたのだ。今にして思えば本当に、なんて小さな男なのだろうとエドモントが後悔するくらいな文句を、しかし彼女は真っ向からバッサリと切り捨てた。そして、エドモンドの心を抉るような台詞を二、三残して颯爽と去っていったのだ。その後ろ姿を今でも忘れることは出来ない。

 その時、エドモンドは目覚めてしまったのだ。


「クラウディア、またその声で、その顔で、僕を罵っておくれ……っ!」


 愛と、女性に罵られることへの快感に。



 つまるところ、エドモンドは変態だった。





 闘いは序盤から盛り上がりを見せる。

 ゼアドールとミア・ノット、クラウディアとエドモンドが両者正面から衝突したのだ。クラウディアの背後には今回もレイナードが控えている。


「よし、クラウディア。昨日いった通りの作戦でいくぞ」

「わかってるわよ!」


 そんなやりとりをインカムではなく、大衆に聞こえるような外部音声で行う。

 無論、これも作戦のうちだ。具体的には大衆向けではなくエドモンドに対する挑発である。好きな女が他の男と親しげに話しているのを聞いて面白く思う者はいないだろう。


 昨日考えたとか言っているが、エドモンドがクラウディアに好意を抱いていると知って先程決めたことだ。嘘もいいところである。


 そんな策謀に対し、エドモンドも言葉を返してきた。


「これが寝とられ……それはそれで興奮するが、クラウディアの罵詈雑言は私のモノだ!」

「アンタ、何言ってんのよ!?」


 予想外の発言に驚きを隠せないクラウディアだった。


 レイナードにしてもこれは予想していなかったが当初の目的は果たせているみたいなので問題ないだろう。


 学科八位を相手にクラウディアがワンツーマンではちょっと心もとない。 そこでレイナードがちょくちょく手を出しているのだ。しかし、レイナードはクラウディアの動きの邪魔にならないように基本は遠巻きに戦況を見ているだけ。そんなレイナードではエドモンドが露ほどに見向きもしない可能性だってある。


 そのための挑発。

 行動では多くを示せなくても言葉で刺激してどんなカタチであれ相手がこちらを敵と認識してくれれば、只の野次馬も警戒対象に入るというわけだ。


「二対一か……。それもまぁ良い。これが恋の試練というヤツかぁあああ!」

「いや、だからアンタはさっきから何言ってんのよ!」


 観客にもその声が漏れていることなどお構いなしのエドモンドに、戦闘に物理的な後退だけでなく精神的にも一歩ひいたクラウディアは驚愕の声をあげた。





 対して、ゼアドール対ミアノット。


 こちらも外部に届く音声によってやりとりをしていた。いや、正確にはミアノットが一方的に喋っているだけであるが。


 二人の機体はフローソードを幾度となく撃ち合せ、しばらくするとお互いに距離をとる、というのを数回繰り返していた。

 そのインターバルの度にミアノットが優しく囁きかけているのである。


「ゼアドール……やっと二人っきりになれたね……」

「…………」


 ゼアドールは喋らない。

 しかし、やや撃ちあいが激しくなった気がする。


「もう、そんな恥ずかしがらないでよ……こっちまで恥ずかしくなってきちゃうじゃない」

「…………」


 ゼアドールは語らない。

 でも、やっぱり撃ちあいに気合いが入っているように見える。


「あぁ、でもでも! 私はそんな寡黙なところも好き、だよ? ……キャー! 言っちゃった!」

「…………」


 ゼアドールは沈黙する。

 でも目に見えて攻撃が苛烈になっていく!


「あぁ! ダメ! そんな強くしたら! 嫌いじゃないけど! その……人が見てるし」

「…………」


 言う必要もないことだと思うが、強くなったのはゼアドールの剣撃だ。決してやましいことじゃない。

 わなわなと、ゼアドールの肩がふるえている。


 これがミアノットの作戦ならばそれは褒めるべきだろう。

 事実、ゼアドールは無言ながらも確実に苛立ちと怒りを剣に乗せている。


 怒りは人を強くもするが、弱くもする。

 ゼアドールの場合は主に後者である。冷静に技を奮うことこそが一番の強みである彼にとって、怒りや苛立ちはその繊細さを鈍らせ、悪い方にしか作用しない。

 そのおかげでミアノットは一撃の重みこそあれ、直線的で軌道がよく視える今のゼアドールの攻撃を完全に捌ききっている。


 作戦ならば、レイナードが称賛するレベルだ。

 しかし、彼女はこれを素でやってのけているのだから更に始末に負えない。


「もっと来て、ゼアドール! 貴方の存在を私の身体に刻みつけて!」


 結局のところ、ミアノットも変態だったのだ。





 思ったよりも難航しているな……。


 クラウディアとエドモンドの撃ちあいの最中にチームメイトの行動を確認するレイナードはそう評価を下した。

 敵の位置を確認するが、やはり上手い具合に配置されている。


 パッと見、ミアノットとエドモンドを全面に押し出しパワーゲームを行っているかのようだが、残りの三機の位置取りはどちらの援護にも回れるように計算されている。


 向こうの指揮官――クリストファー・レジャーは今大会では珍しい参謀タイプのハンドラーのようだ。





 前日、作戦会議のことである。


「彼が向こうの要だ」


 クリストファーのデータを画面に出した際にジョルナンからそう声があがった。


「この男が? ソーサーでもアルファーノでもなくて?」

「あぁ、色々調べてみたが、その二人は特に仲が良いというわけでもないらしい。それを仲介したのがこのレジャーって男だ」

「……そう考える理由は?」


 静かに。クラウディアが聞いてきた。


「チーム名だな。ソーサーでもアルファーノでもなくこの男の名で登録されているということはそれなりの発言力があると思われる」


 実際はミアノットとエドモンドが両者譲らずそのまま登録期間が過ぎそうになったので、彼が内緒で出しただけなのだが、そんな理由だとはまるで予想していないレイナード。


「本人の順位は掲示板には載ってない。俺の予想ではまぁ七十位そこそこってところだろう。けど、どうやったかは知らんがこの二人に手を組ませたことを考えると警戒する必要がある」


 実際は二人の変態がお互いの利益のために手を組んだだけなのだが。


「んで、毎回彼がリーダーを務めてるのもその辺りが理由だろう」


 実際はチーム名と同じく「自分こそリーダーにふさわしい」と全く譲らない二人を諌めるためにリーダーになってるだけなのだが。


「戦闘スタイルはブレがない。ソーサーとアルファーノが前衛、レジャーが後衛。残る二人はどちらにも動けるようその中間辺りの位置に置いている。

 なので、前衛の二人にはゼアドールとナターシャを当てる。ナターシャは実力的に不安が残るので俺がつくがゼアドールの方は……」

「問題ない」

「だな。で、残る二人が遊撃隊だ。レジャーをなんとかしてくれ」

「なんとかって……」

「大丈夫さ、操縦の腕はそこまでじゃない。普通にやれば勝てるだろ」

「普通って……」

「大雑把っていうか手抜きっぽいよねー」


 段々、作戦の説明が投げやりになってきたレイナードをクラウディアとアイナがジト目で見る。


「いっただろ。そう毎回、上手いこと目から鱗の作戦なんか思い付かないんだよ。ある程度適当なのは大目に見ろ」

「いま適当って言った!?」


 しかし、それにとりあう者はいなかった。


「……で、残る二人に関しちゃどうするんだ? 流石にそれを考えてねぇってわけじゃねぇよな?」

「あぁ。『敵前衛と後衛の距離を開かせる』これだけで問題は解決だ」

「……フッ」

「なるほどね」


 ゼアドールとマルフリーがレイナードの意図に気付いた反応を見せれば、


「……んん?」

「どういうことかしら?」


 ジョルナンとクラウディアはいまいち掴めてない様子だ。


「この陣形は攻守どちらにも即座に移れる利点があるが、そのためには常に間の二機が前衛・後衛両陣営のちょうど中間に位置していないといけない。戦線を伸ばしてその『中間』を攻撃するにも守備にまわるにも時間がかかるようにしてやれば良い」


 戦線の長さで移動する距離は変わるのだ。

 常に中間を維持するということは、前衛と後衛の間がニ百メートル程度ならばどちらに移動するにも百メートルで済むが、前衛と後衛の間が四百メートル離れていれば二百メートル移動しなければならないということである。


「つまり、戦線を縦に伸ばせば伸ばすだけこちらが有利になる」


 しかし、その程度のこと相手チームが気づいてないとは思えない。その考えを後押しするように、たった今聞いたばかりのクラウディアが予防策を口にする。


「でも、ある程度の距離で落ち着くように後衛が前衛の位置に合わせて移動すれば済んじゃう話じゃない?」


 そう、クラウディアの云う通りだ。

 ここでいう後衛がベースキャンプなどであるならいざ知らず、後ろに控えているのは前線同様のスペックを持ったオズである。如何に前線が引っ張られてもレジャーが常に移動し一定の距離を保てば問題はない筈だ。

 聞いてレイナードは頷いた。


「まぁな。

 でもそれでいいんだ。

 この布陣では後衛は常に前衛や中衛に指示を出さなきゃいけない。それに加えて自分の機体を移動させるなんてのは、どちらかといえば頭脳労働が得意なレジャーにはキツいはずだ」


 不敵に。

 レイナードは言葉を綴る。

 

「遊撃隊が叩ければそれでよし。攻めきれなくても、その間にオレらかゼアドールのどちらかが敵機を撃破できれば応援に向かえればなんとかなるだろう」





 ――なんとかなるだろう、という漠然とした期待を持つのはやっぱりよくないな。

 試合が進む中、レイナードは唇を噛む。

 遊撃部隊が攻めきれないのは予想の範囲内だったが、敵の中衛が思った以上動きが良いのか中々深いところまで入れないのはちょっと予想外だ。


 それはまだいい。

 それよりも問題はコチラだ。


「いいよ、クラウディア! 今日この時をもっと、楽しもうじゃないか!」

「くっ……変態のくせにやるわね……はぁ!」


 クラウディアとエドモンドの闘いはどんどんと激しさを増していく。最初のうちこそレイナードが言ったように「決定打はなくても、負けない闘い方」をしていた彼女だったが、その意識も徐々に薄れていったのか、今は際どい勝負をしている。


「ハァアアアア!」

「あぁ、キミの方から近付いてきてくれるなんて、夢のようだよ!」


 上段からの苛烈な一撃を奮い、敵の攻撃には守備に徹するよりもカウンターを狙う、攻撃主体の闘い方。

 しかし、これは長く続けられる代物ではない。一旦、その攻撃の手を休めてしまえば一気に反撃の憂き目にあう。

 本人もそれはわかっているのか、至近距離での攻撃をひたすらに繰り出している。


「クラウディア、一旦離れろ! そう近づかれていちゃ狙えない」


 そんなクラウディアに休息を与えるべく狙撃武器にて牽制したいが、そのクラウディアがまったく云う事を聞いてくれない。

 しまいには「私ごと撃ち抜くつもりでやりなさい!」と言い出す始末だ。


「んな無茶な……」


 ここで万が一彼女が撃破されてしまったら、こちらの形勢が不利になるのは彼女だってわかるだろうに。

 いや、レイナードがその気になればやれないこともないが……。


(オレにはまだその勇気がない……)


 帰省により、動く理由・動ける理由を手に入れたレイナードだったが、それを使うべきかどうかにはまだ迷いがある。


(クソッ、結局まだ優柔不断なままか……)


 そんな自分自身を苦々しく思う。


 こんな気持ちではまだまだ先が思いやられる……が、今はそれを嘆いている場合ではない。


「っ!?――クラウディア!」

「くっ――きゃあっ!」


 エドモンドが一息にも満たない休息の隙をつき、クラウディアへと攻撃を仕掛ける。クラウディアも油断しきっていたわけではないのだろう。隙をつかれたにも関わらずしっかりと反応し剣を撃ち鳴らすが、さきほどまでのような力はなく、後退を余儀なくされる。体勢も崩された。

 そこに二の撃が飛んでくる。

 圧倒的な重みを持った突きの構え。


「楽しかったよ――クラウディア!」


 エドモンドが勝利の言葉をつげる。


「……っ」


 このままでは、クラウディアがっ!

 そう思うもレイナードの心も身体も動かない。


 底にあるのは不安・懸念・諦観。

 レイナードは只、見つめているだけだった。

 いや、見つめることすらできなかった。

 見たくないものを視ないように目をつぶったのだ。


 ――ガキンッ!


 しかし、そこに響いてきたのは剣の突きささる音ではなかった。

 ハッ、と目を開けるとそこには体勢を崩しながらも、脇に剣が突き刺さりながらもなんとか致命傷は免れたクラウディアの機体があった。


「私はこんなところで負けたくないの――負けられないの、よっ!」


 クラウディアが吼えた。技術も何もない、純粋な気迫でエドモンドの機体を押し押し戻す。


「なっ!」


 これにはエドモンドも動揺したようだ。

 力押しでこじ開けられた好機をレイナードは逃さなかった。


(――今だ!)


 銃を放棄し、近接用の剣で背後から襲いかかる。


「くっ!」


 動揺しながらも流石は十指に入る男。こちらの攻撃を片手でなんとか受け止める。


 しかし、そこまでだった。

 片方の手が塞がっている状態で二人を相手には出来なかった。

 クラウディアの剣が煌めき、エドモンドは戦闘不能となった。


「……ハァ、こっちはなんとか倒したぞ」

『こっちも、そろそろ終わる』

「お前の勝ちで、だよな?」

『勿論だ』


 ゼアドールのその言葉に少しだけ身体の緊張を解いた。



 大勢は、決した。



読んでいただき有難うございました!

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