一回戦と二回戦
一回戦。
最近レイナードの予想は的中しない。ある意味スランプ中だった。
そして、今日もまた彼の予想は外れていた。
(……いやぁ、幸先悪いなぁ。今後の試合は大丈夫かなぁ)
『今後の試合』と云っているのだ、初戦突破は勿論した。しかしその内容は敵も味方もレイナードの予想通りとはいかなかった。
シュナイダーの実力というのを見誤っていた。それを一回戦で痛感した。
「これが二位の実力かぁ……」
そうレイナードの隣で呟いたアイナの言葉はまさしくレイナードが抱いていた感情そのままだった。
レイナードが騎乗科組に出した課題は三人で五機を相手に勝利すること。
それをゼアドールがほとんど一人でやってのけた。
レイナードの言葉をどう説明したのかはわからないが、今回の作戦を聞いた後の騎乗科組の表情には鬼気迫るものがあった。あの無表情なゼアドールですら全身から只事ではないオーラを発していた。
正直ここまで意気込むとは思っていなかったが結果オーライだろう。
こちらが今回無策に無策を重ねたのに対して、対戦相手はそれなりの作戦を組んできたらしい。
まぁ、学科次席を相手にするのだから当然の判断だ。
一対一では勝負にならないことはわかっていたのだろう。フィールド内を走り回る――ともすればはしゃぎまわっているようにも見えるジョルナンとマルフリーなど歯牙にもかけずに、クラウディアとナターシャに相対するように一機ずつ。
そしてリーダー機であるゼアドールの駆るサニー・ウィンドには、残る三機にて波状攻撃を仕掛けにいった。本来ならばそれは決して間違った手段ではない。しかし、ゼアドールを相手にするにはそれは間違った手段だった。
五機全てで仕掛けるべきだった。
まず三機のうち二機が少し離れた位置から銃撃を開始する。それを後退と左右への反復移動でほぼ無傷に受け流す。
(被弾数、ダメージどちらも問題ないな……)
機体状態を確認するも問題はない。
そこにスピードの乗った残りの機体が真正面から斬りかかってきた。本来なら銃撃で動きを抑えて接近戦に持ち込もうという読みだったのだろうが、銃弾の雨をなんなく避けきったサニー・ウィンドは左上腕部に仕込まれた盾から悠々と剣を取り出し、斬撃を受け切る。そして鍔迫り合いに持ち込ませることもなく、その盾で相手の剣を弾きあげ、フリーになった右腕で輝く剣が機体の腹部に突き刺さる。切っ先がコックピット手前のセーフティーブロックまで到達したことにより、ブルーダーは機能を停止した。
しかし、その眼前には先ほどまで銃撃を繰り広げていた二機が迫っていた。追撃である。
恐らくは先ほど破壊した機体と切り結んでいるところのダメ押しとしての攻撃だろう。
まさか、切り結ぶ暇もなく一太刀で操縦不能になるとは敵側も予想はしていなかったようだ。
しかし、それでも動きを停止させなかった敵もさるものだ。作戦通りにはいかなかったが、ここで体勢を立て直すことが自分達にとって不利であることを理解しそのまま特攻を仕掛けていく。
判断は間違っていないが、やはりゼアドールは格が違った。
確かに彼らは動きを止めなかった。
しかし、動きは止まらずとも、味方機の戦闘不能は確かな動揺と僅かな隙を生んだ。
止まることはなくとも歩調に乱れを生じさせるには十分すぎる効果があった。
そして、歩調を乱した機体が二機程度ならばゼアドールにとって数的不利など問題ではないらしい。
相手の歩調に合わせて間合いを詰める。
言うのは簡単だが実際にやるとなると難しいこの所業をゼアドールはいとも簡単にやってのけた。
そして、僅かに先行していた機体に一太刀。致命傷にはならないが確かな斬撃がブルーダーを襲う。崩れたところにもう一機。本来なら先行機の影に隠れるようにして接近していたこの機体――青い旗を背に挿した敵チームのリーダー機だ。
タイミングなどもよく訓練したのだろう。
だからこそ、先行機が崩れたことにより後追いのブルーダーがその意味を無くす。
しっかりと姿を現したそのブルーダーに躊躇なく切っ先を向ける。相手はなんとか急所を外したが、これ以上の迎撃態勢はとれそうになかった。
「訓練すべきは優勢時よりもむしろ劣勢時にどうするか、だ」
そう呟いて、ゼアドールは機体の向きを変え、先に起き上がりつつあった先行機にトドメを刺した。
「まぁ尤も、オレもそんな訓練はしてないがな」
負ける想定で動くヤツなど、捻くれ者以外の何物でもないだろう。
別段、面白くもなさそうにサニーウィンドの中でゼアドールはそんなことを呟き、残るリーダー機へと深々と剣を突き刺した。
『一回戦第四試合はアルデンヌチームの勝利です』
彼が剣を納めるのと試合終了の合図が流れたのは同時だった。
試合後、出場者に割り当てられた控室にチームの面々は集まっていた。
クラウディア、ナターシャは既に着替えもすませており、シャワーでも浴びたのかやけに石鹸の良い香りを周囲に振りまいている。
ゼアドールも既に普段の学生服へと着替えている。
騎乗科組の面々はこのように元気そうなのに対して、整備科のマルフリーとジョルナンは未だ服を着替えることもままならず、床に座り込んでいた。
はやり公式戦は想像以上に精神的にくるものがあったらしい。まぁ、試合終了までずっと走らせていたのが原因かもしれないのだが、レイナードはそのことには触れなかった。
顔ぶれがそろった所でクラウディアがふふん、と鼻を鳴らしパソコンを操るレイナードに声をかける。
「どう? これで私達の実力がわかったかしら」
「……あぁ、流石に学科二位の実力は伊達じゃないな」
「凄かったよねー」
神妙な顔つきで先ほどの試合をパソコンで見直しているレイナードとオズ同士の血沸き肉踊る戦闘を見てほくほく笑顔のアイナがそれぞれ賛辞を口にしたが、その内容にクラウディアは不満を覚える。
「……私と、デリンガーさんの戦闘に関して何か言いたいことは?」
珍しく笑顔を取り繕い、そう問いただす。その笑顔を見たジョルナンが「ひっ!」と小さく悲鳴をあげた。
「すまん、よく見てなかった」
「凄かったよねー、多分」
ゼアドールの闘いに夢中になっていた。多分、他の観客も同じだっただろう。
「ちょっと!」
「わたし……がんばったのに……」
レイナードのみならずアイナまで見ていないというその言葉に、憤るクラウディアと落胆するナターシャ。
そんな二人を気遣って(主にナターシャだが)レイナードはパソコンを指差しつつ優しい言葉をかけた。
「しっかり録画はしてあるし、後でゆっくり観察させて貰う。それにゼアドールに時間を割いたのには色々と理由がある」
「理由? なに?」
疑問を言葉にしたのはアイナだったが、当の本人も興味があるようで壁際に持たれつつもレイナードへ視線を飛ばしてきていた。
しかし、今はまだ具体的なことは語りたくなかったレイナードは笑顔で言葉を濁した。
「今後の作戦の一環ってところかな」
「おっ! もう次の作戦あるのかよ?」
この発言に食いついてきたのが今まで突っ伏していたジョルナンだった。彼は意外とレイナードの打ち出す作戦を楽しんでいるきらいがある。直情一線なイメージのあるジョルナンだが、策を弄するのが嫌いなわけではない。
そんな反応を嬉しくも面白くも思う。
「寧ろ、今回無策だったんだから次回策くらいもう出来てないと話にならないわ」
「まぁゼアドール見てたら二回戦も作戦いらない気がしてきたんだけどな」
「…………」
「……冗談だからそう無言で睨むな。元から悪い目付きが更に凶暴になってるぞ」
「う、うるさいわねっ!」
「レーくん、ひどい」
「レディーに対して失礼だよ、レイ」
頬を紅潮させたクラウディアと彼女を擁護するナターシャとマルフリー。
ちょっとしたジョークのつもりだったんだが、まだこの手の冗談を使うのは早すぎたようだ。ちょっと気まずい気分になったレイナードは真面目に作戦について話すことで自分の失策を流すことにした。
「二回戦はまぁそうだな……オーソドックスな作戦勝ちを狙いにいくか」
その言葉にメンバーが頭にはてなを浮かべるのをレイナードは面白そうに見ていた。
「二回戦第一試合、アルデンヌチームの勝利です」
試合終了のブザーとアナウンスが鳴り、観客席から歓声が飛んでくる。二回戦からは一日の試合数が二つに固定されるため、試合会場は闘技場となる。ここは野外とは違い多くの観客が直接見ることが出来る。
今日もまた観客席は満員御礼の様を呈している。
『闘技場』などと呼ばれるため、その大きさは手ごろなモノだと思われがちだが、敷地面積は野外演習場と大差ない。そのため、至るところに試合の様子を映すカメラが設置されており、東西にある二つのサッカーコート大のモニター他、大小様々なモニターが会場のあちこちにある。
今、レイナード達はウィニングランの最中だ。
広大な敷地外周を周る、観客へ挨拶する時間である。
しかし目立ちたがらないレイナード、外聞を気にしないゼアドール、そしてひっこみ思案のナターシャは顔を見せていない。
まぁ、これはパフォーマンスの一種なのでするもしないも本人達の自由なのだ。
歓声に応えるように手を振るのはクラウディアと今回の立役者でもあるマルフリーの二人だった。
作戦はなんということはない。
まずはエースであるゼアドール、そして次いで巧みなナターシャの二人がそれぞれ薄群青に紅色が映えるサニー・ウィンドと無個性かつ地味な土色のブルーダーを狩り右回りと左回りの双方向から攻める。その間、リーダー機であるクラディアはフィールドの中ほどまで行き待機、その護衛としてレイナードが近くに詰め、マルフリーには前回同様走り回っているように演じて貰う。
当然、相手チームは驚異的な戦闘能力を持つゼアドール、ランキング上位を維持するナターシャを避け、団体でリーダー機を狙いに来る。クラウディアも決して弱くないが、前者二人と争うよりは確実に分が良いだろう。それにサニー・ウィンドが奏でる競技場を疾走するサウンドを聞けば、誰だって進んで狙おうとは思えないだろう。明らかにモノが違う。
しかし、完全に彼らをフリーにして、背後をとられても敵わないのでそれぞれに一機ずつ当てるしかない。勿論、白兵戦などには持ち込まず、着かず離れず牽制するだけでよい。
残る三機で一団を形勢し、一気に中央突破にかかる。
ナターシャとゼアドールが双方向に展開しているため、ルートはそこしか開いていないのだ。
しかし、これもレイナードの策の内。
敵のやってくる方向がわかれば対処はしやすい。このルート自体が完全にトラップだった。
まずはただ闇雲に走りまわっているように見せ掛けて、その実、クラウディア達とそこから続くルートが見通せる高台へと陣取ったマルフリーが絶好のポイントから狙撃を開始した。
操縦技術も整備技術も整備科での平均をとれるかとれないかというマルフリーだが、狙撃だけはその範疇ではない。狙った獲物ははずさない、とまではいかない(というかマルフリーは趣味でクレー射撃はするが狩猟は絶対にしないので、本当の意味での獲物は狙ったことがない)が、固まって走る相手チームの機体どれかひとつに当てるくらいは軽くこなすことが出来る。
遠くからの狙撃などまるで予想していなかった相手チームはそれだけで面食らうだろう。そうなってしまえば、後はレイナードの思惑通りにコトが運ぶ。
相手チームのリーダーはさぞかし判断を迷うことだろう。不用意に動けば銃撃に晒されてしまう状況の中ではどうしたって進みは遅くなる。しかし、時間が経てばそれだけ残してきた機体の牽制を潜り抜けてゼアドールやナターシャが背後から襲ってくる可能性も高くなる。そう挟み打ちされると状況は一気に不利に――いや、そこまでいっては既に勝敗は決まってしまったも当然だ。
防御を固めるか多少のダメージは承知して遮二無二クラウディアを目指すか――それを考えているうちに着々と形勢はこちらに傾く。
結局、相手は慎重に歩を進めることを選んだようで、向こうの攻撃射程にレイナードとクラウディアが入るよりも早く、着かず離れずの牽制をかわして敵チームの背後をとったゼアドールを高台から援護していたマルフリーによってリーダー機は戦闘不能になり、アナウンスにあったように勝敗は決した。
突破力のある二機に相手の背後をとらせ、走行が苦手で狙撃の上手いマルフリーは一か所に固定し、狙撃させる。そして頭は良いがオズの操縦は可もなく不可もなくなレイナードが何があっても対処できるようにリーダーであるクラウディアの側に控えておく。
(確かに“適材適所”かもね……)
未だにレイナードの言葉に若干の不安を感じていたクラウディアも、この試合結果にはおおいに満足だった。
クラウディアが満足するような試合結果に、それを考えた者もほっと胸を撫で下ろしていた。
しかし、それと同時に思う所もレイナードにはあった。
思う所とはつまり、この二回戦が正式なチームのお披露目になってしまったことである。
今日の試合を見た者はこのチームが通り一辺倒なパワータイプのチームではないということに気がつくだろう。
まだ奇策攻めがメインだとまでは思われてないだろうが、それでも「それなりに作戦を立ててくるチーム」というレッテルは張られてしまうだろう。
勿論、この作戦を立てた時から大なり小なりこうなるのはわかっていたのだが、出来ることならこの試合くらいまでは錯覚されておきたかった。
さらには「ゼアドールに頼るワンマンチーム」という印象も整備科の生徒であるマルフリーが敵将を打ち取ったことにより薄れてしまったかもしれない。こうなるなら事前にマルフリーにリーダー機は落とさないように打ち合わせしておくべきだったな、とレイナードは自分の迂闊さを呪った。
次にあたるチームはシードであり、中々の強敵だ。正面からぶつかると勝率は六割くらいまで落ち込みそうだ。
なので、そのチームとあたるまでは油断させておきたかったのだが……。などと考えるももう既に後の祭り。
「まぁ……しょうがないか」
後悔や今後の不安を全て放棄して、まずは作戦が上手くいったことを由とすることにしたレイナードだった。




