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ヴァーバルの剱  作者: 真川塁
第四話 ブレーメンの音楽隊
22/27

新人戦開幕!

お久しぶりです。第四話です。楽しんでいただけたら幸いです。

 イースターが終わると残りの授業日数も多くはなく、学期末試験が始まるためもう通常の授業はほとんどない。その試験も終わった今、この学園は既に休暇入っている。

 しかし、休みの期間に帰るものは殆どいない。


 その理由が夏季講習だ。


 この学園には夏季講習がある。夏季の長期休暇を利用して補習や特別授業を行う夏季講習。フェアリーテイル学園でもそんな夏季講習を採用している。


 しかし、そこはオズの学校。通常の夏季講習とは趣きが違う。この夏季講習の期間に行われる特別授業こそが新人戦である。


 新人戦。

 今年入学した一年生達が一学期終了後に自分達の成果を確認する行事である。一チーム五人以上、八人以下のグループを構成し、五対五ファイブオンファイブ、敵司令機リーダーを戦闘不能にすることが勝利条件のスタンダードタイプのバジーレを行う。

 今回の参加チームは18チーム。1チームの上限が八人で一年生の総数が350人程なのを考えると少なすぎるくらいだが、基本的には騎乗科成績上位50人が軸となってチームをつくることを考えれば妥当な数字だろう。例年15~20チームくらいらしい。


 参加する一年生は勿論、優秀な人材の勧誘を目的とした上級生、そしてどちらとも関係ない生徒も単純に見世物として楽しむのでこれを見ずして休みに入る生徒というのはそういないのだ。


 勿論、参加するレイナード達もこの期間は作戦準備に時間を費やす。

今日も室内訓練場を押さえて訓練してから(野外はこの時期は中々予約がとれない)、初戦に向けての会議が始まっていた。いや、会議と呼ぶには人数が少ない。この話し合いの場にいるはレイナードとクラウディアの二人だけだった。

 他の者は今、ゼアドールによる訓練を受けている。ここで作戦会議に参加させるよりもそちらの方が有益と踏んだからだ。マルフリーとジョルナンにはまだのびしろがありそうだというのがゼアドールの言葉を信頼したからと云ってもいい。

 まぁ、作戦は固まってから教えてればよい。

 レイナードの考えはそうだった。


「結局、狙うべくはオレら整備科勢だろうしな。オレらは単なる数合わせ程度にしか考えられていないだろう。身内にもそう思われているようだしな」

「うっ!? 最初はそうだったけど、今はそんなこと思ってないわよ!」


 悪かったわね、と頬を紅潮させながら謝罪なのか文句なのか実に曖昧な言葉を吐く。

 まぁ流石に向こう一カ月近く共に訓練してきたら、そう数合わせなどと云えるべくもないだろう。


「まぁ、どっちにしろ。ゼアドールの申し出は嬉しいところだな。直接的にも間接的にも益がある」


 彼らの鍛錬の申し出をしてきたのはゼアドールの方からだ。この一月ほどで大分チームとしての雰囲気も纏まってきたと思っていいだろう。

 しかし、そういった練習だけではどうにもならない部分というのがある。

 それをレイナードは初戦において、どうにかしようと思っている。


「さて。それで一回戦の作戦だが……」


 その言葉にクラウディアは息をのむ。

 一体どのような作戦をこの男は立ててきたのだろうか。

 やはり初戦で勢いをつけるためにも「我、ここにあり」と観客や他のチームに印象付けるかのようなとんでもない作戦が飛び出てくるんじゃないか。そんな期待を胸に続きの言葉を待つ。


「初戦の面子はお前、ゼアドール、ナターシャ、マルフリー、ジョルナンの五人で行きたいと思う。リーダーはゼアドールな」

「待ちなさい」

「なんだよ? 自分がリーダーじゃないと不服か?」

「そこじゃないわ」


 言葉を遮られたレイナードは制止するクラウディアをちょっと不機嫌な目で睨む。しかし、クラウディアは全く動じないどころか同様の眼力――いや、同等以上の眼力で睨み返している。

 まぁ、無理もないか、とレイナードはため息をついた。レイナードも内心予想していたことではある。


「貴方言ったわよね。『負けたら出場する』と。それなのに試合に出ないっていうのはちょっと往生際が悪いんじゃないかしら?」

「待て。今回はちゃんと考えがあってのことだ」


 出場したくないから、とか。

 そういう理由で搭乗しないわけではないことは伝えたかった。下手なことを云えばまたこのお嬢様に何を云われるか。それに折角良好になってきたチームのこの雰囲気に水を差しかねない。


 そのため、レイナードは今回の作戦を懇切丁寧に説明する。


「いいか。今まで練習では幾度となくオズに乗ってきたが、本番はやはり空気が違うだろう。まずはその空気に慣れることが必要だ。特に人前での操縦に慣れているとは言い難い二人にはな」


 練習だけではどうしても克服できないモノ、感受できないモノというのがある。それが本番独特の空気であったり、匂い。観客の有無やひとつのミスがそのまま敗北に、そしてその敗北がそのまま新人戦の終了に繋がる常時背水のトーナメントという方式、そしてそんな戦いの場。

 そういった言葉では説明しづらい本番ならではの“雰囲気”とでもいうべきもの。

 それは決して通常の練習や練習試合では得ることのできないモノ。(尤も練習試合に関しても彼らは未経験なのだが)


「だから、まず二人にその雰囲気に慣れてもらう」

「アンタは?」

「慣れてる」

「…………」

「…………」

「…………」

「慣れてる」


 大事なことなのでレイナードは二回言ってみた。クラウディアはそれに嘆息で返す。


「そう言われるとそんな感じもするわね、整備科生なのに……。まぁいいわ。慣れてる慣れてないは判らないけど、どっちみちあんまり動じそうないし」


 動じそうにない、と決してほめ言葉ではないだろう評価を下されて肩をすくめるレイナードを尻目に、クラウディアは「けど」と言葉を続ける。


「一人ずつ――初戦はオガタ、二回戦でドノヴァイとかじゃダメなの?」


 慣れさせる、という行為が具体的にどのような行為を指すのかはクラウディアにはまだ予想がつかないが、それがイコール「その試合では戦力にはならない・使い物にならない」とするならば、その一試合辺りの人数は少ない方が良いはずだ。

 だったら、一回戦に一人慣れさせておき、もう一人は二回戦で行えばよい。そうして空いた各枠にレイナードを組み込めばクラウディアとしてもひとつ心配事から解放される。


 そういったクラウディアの意図は先の台詞からもしっかりと伝わってきた。しかしそれでもレイナードは首を縦には振らなかった。


「二回戦からは人員を遊ばせておく余裕はない」

「あら、じゃあ一回戦は大丈夫だっていうの?」

「オレの見立て通りなら、な」

「その予想。本当に当たるのかしら? あまり当てにならない気がするけど」


 ここのところのレイナードの読みはあまり冴えていない。それを信用しきるには少し不安がある。


 それには本人も自覚があるようで、


「確かに。ここ最近はいいとこなしだしな」


 そう自嘲する。

 それが気に入らなかったのかクラウディアが語気を強めた。腰にあてる手にも若干力が入る。


「私は言ったはずよ。どんな作戦にも対処できるように操縦者として常にフィールドにいて貰いたいって」

「『どんな作戦にも対処できるように』……だからこそ、一回戦に二人を出すんだ」

「……どういうことかしら?」


 なんとなくその台詞のニュアンスから嫌な予感を覚えたクラウディア。友人としてはもちろん女性としてもあまり良いとはいえない表情をしている。そうやって表情で感情を訴える彼女に対して、レイナードも特に表情を明るくすることもことさら険しくすることもなく、淡々と答えた。


「今回は特に作戦はない」

「ちょっと……!」


 眉根を更につりあげて、今にも怒りだす三秒前といった様相のクラウディアを手で制し、レイナードが参加しないことの意義を伝える。


「まぁ、待て。これだって別に怠けたわけじゃないぞ」

 これ以上言及されるのも厄介だとレイナードは言葉を挟む余地を与えない。クラウディアは苛立たしそうし、物を言いたげにしつつも言い訳くらい聞いてやるといった体だ。ひとつ発言を間違えれば命取りになりそうなこの場面でもレイナードは自分の弁に自信があるのか、気負うこともなく喋る。


「まぁ元も子もない話にはなるがご静聴願おう。

 たとえ千の策、万の術を施したところで負ける時は負ける。だったら、まずはお前たちが特別な作戦なしでどれだけ出来るのかっていうのを見せてもらいたい。

 それにオレ自身、このチームの本質を理解しきれていない。まぁ、本質と呼ぶほどのものでもないか……“チームカラー”や“個々の特色”とでもするか」

「個々の特色、ねぇ……」


 言わんとしていることは解る気もする。


「まだ本気で戦った相手がいないからな。どんな作戦を立てたところで不具合というのはどうしても生じてくる」


 通常、練習試合を組んだりするものなのだが期日ギリギリに参戦が決まったからか、先述したように練習試合を組む時間がなかった。

 だから、本来ならばそこで決めるべき役割分担というのを決め切れていない。

 役割分担は個人の操縦技術や特徴を見極めて行うべきというのがセオリーであり、セオリーからは割とはずれるレイナードもこれに関して異論はなかった。

 その役割がまだ定まらないうちに作戦を立てたところでその作戦通り――シナリオ通りに事が運ぶことはまずないだろう。


「だったら、最初から作戦なんか立てなければ良い」


 それがレイナードの出した答えだった。


「初戦は今後のためにもしっかりと役割を考えるために使用する。ゼアドールがエースなのは良い。マルの役割もオレの中では定まっているがそれ以外の分担はまだ決めあぐねているからな」

「けど、役割っていうのはその都度変わるものじゃないのかしら?」


 それが普通でしょ、とクラウディア。


 その意見には概ね賛成だが、と返すレイナード。


「それでも、得意不得意はあるだろう? 例えば一番重要な役割だとしてもわざと戦闘不能に陥る役にゼアドールを使うか?」

「使わないわね……」


 例え重要であるとしても、ゼアドールは攻守の要だ。その彼を例え重要な役回りだとしてもわざと敵に負けさせるなど考えられない。そういった役ならば他の者が行った方が先の展開も安心できる。


「まぁ、わざと負けるなんてのは言い過ぎだけどな。大役はなんでも上手い奴に任せれば良いわけじゃない――適材適所は何事においても基本だろう?」

「……そう」


 一理あると思ったのか、それ以上クラウディアが苦情を挟むことはなかった。それを読みとったレイナードは自ら話を先へと進める。


「まぁ、その他の狙いとしては今後の敵にこのチームのことを『スタンダードな相手』だと思って欲しいというのもある。特に高度な戦術や妙策のない


 普遍的なチームだと思っておいて欲しい。

 最初から戦術メインのチームだと思われているのと、戦ってみたら実は戦術チームでした、というのでは随分と違うからな」


「今後のための布石ってわけね」

「そうだな。こう言うのはなんだが、良い作戦なんてのはそうそう思いつかないもんさ。既に考えているのはいくつかあるが、それは出来ればもう少し後にとっておきたい」


 基本的に奇策というのはそう何度も使えるモノではない。一つの奇策で多くでも二回、大抵は一度使えば次はもう通用しないものだ。

 そういう使い捨てのワンチャンスだからこそ、勝率の乏しい相手・僅差の相手に使いたい。


「まぁ、そうね。その考えは理解できるわ。でも、やっぱり作戦がないってのは不安になるわね……」

「無策と無謀は違うさ」


 その不安を消しさるようにレイナードは語る。

 いや、それは騙るといってもいいかもしれない類のものでもある。


「初戦の相手は幸い優勝候補などという感じではないからな。チーム内の最高順位は三十八位、次いで四十七位と続いている。 舐めてかかれる相手ではないが、普通にやれば負ける相手でもない」

「そうね。それ以外の三人は圏外だし……無理にリーダー一機を狙わずとも各個撃破――一人一殺でなんとかなるかしら」

「いや、一人二殺だ」


 その言葉に一瞬不可解な表情をしたが、すぐにその理由に思い至る。


「……そう。やっぱり慣れる作業というのは戦力として換算出来ないのね」

「その通りだ。ジョルとマルにはフィールドやバジーレの緊張感に慣れて貰うため、一回戦ではひたすら走りまわって貰う。後半余裕があったら敵機とぶつけたいとも思うがそれは欲張りすぎだろう。

 一応、陽動くらいにはなるだろうが……まぁお前が当初必要とした数合わせの役立たずだと考えてくれ」

「もう、そのことはやめてくれないかしら……」


 以前の自分の発言を恥じているのか下唇を薄く噛むクラウディア。やはりこの件に関してはあまり強気に出られないようだ。それをネタにおちょくれるようになった辺り、彼らの関係性も向上しているのが見てとれる。

 間を置いて落ち着いた彼女は「ふぅ」と息を吐き整える。


 しかし、なるほど。

 さきほどの「作戦のない状態での実力を見る」というのは騎乗科勢に向けていった言葉だったわけか。


「じゃあ、私、ナターシャ、ゼアドールの三人で相手チームを倒せっていうのね?」

「あぁ」


 レイナードは首肯する。


「オレは負けを認めるし、約束したからには搭乗もしよう。作戦立案だって手を抜かないで出来る限りは知恵を絞る。けどな、その為にはやっぱりお前らの実力を知っておく必要がある」


 それも目的の一つだとレイナードは云う。


「ジョルとマルの試運転よりも寧ろ重きをおいているのはそっちだな。“役割分担”とお前ら騎乗科勢の“実際の戦闘能力”――その二つ。

そいつらを頭に叩きこまないことにはちゃんとした作戦は立てられない」


 くるくると持て余したペンを回すレイナード。


「敵の実力を見誤るのは最悪仕方がないとしても味方の実力を量り間違って敗退なんて、そんな格好悪すぎる負け試合はごめんだね」


 そういってレイナードは挑発的な笑みを浮かべ、


「折角の初陣だ。ここは姑息や卑怯、智謀や計略とは無縁の実力主義な騎乗科の学科二位、十四位、二十一位のその実力を魅せてみろ」


 上から目線で挑発するかのようにそう言った。

 さて、こんな見え透いた挑発に彼女は、


「やってやろうじゃないの」


 意思を漲らせていた。



読んでいただき有難うございました!

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