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ヴァーバルの剱  作者: 真川塁
第三話 死神の名付け親
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イースター


 新人戦の差し迫った四月の下旬。

 どうにか最低限のメンバーを集めたクラウディア班は新人戦へのエントリーを済ませていた。


 喜色満面のクラウディアが代表して申請書を提出した後、その報告するために全員に招集をかけた。

 各々が喜んだり素直に喜べなかったりそんな顔を見てどうすればいいのか迷ったり。様々な気持ちや思惑が混雑している中、とりあえず出場することは決まったのである。


「さて、とりあえずはエントリーも済んだことだし、これでいいんだけれど。今後どうするかってのがまずあるわよね」

「どうするか、ってのは?」


 具体性の欠けたその言葉にジョルナンが質問を返す。


「そうね。その言葉だけでも結構様々な意味があるんだけど。特に重要なのは三つね。予備人員、機体、作戦」


 自分がリーダーであるということを意識しているのかはたまたチームメイトに意識させようとしているか、芝居じみた動きで指を三本立て、全員を見渡した。


「なんとか参加にはこぎつけたけど、新人戦まであまり時間もないし。万が一にも備えて予備人員はいた方がいいのだけれど……」


 そういって、レイナードへと同調を誘うように視線を持ってくる。それに頷くレイナード。

 まだ試合に出ることに気が進まない様子だが、やるとなれば手は抜かない。ナターシャとの会話もいい方向に手助けをしてくれている。


 ナターシャの裏切り行為は整備科勢の心証を悪くするどころの騒ぎではなかったがレイナードが一言「話しあって解決した」といったら存外あっさりと受け入れられた。「お前がいいならそれでいい」という言葉の裏には、彼らが元々新人戦参加に興味があったことだけでなく、レイナードが各人にその件を伝えに行ったさらに前にナターシャが個別に頭を下げて回ったことも関係しているのだろう。


 そんな風にして、折角纏まりかけているチームのこの雰囲気を壊すようなことは出来ない。

 万全の態勢を整えなければならない。

 そのためにレイナードも一役買って出るとした。


「そうだな。万が一というかオレらの場合は万人どころかたった七人だからな。アイナを勘定にいれたとしても三人に何かあればもう出場できない」


 三人、といえば半数近い数字だ。半数近くが同時にダウンすることなどあるのだろうかと思う者もいるかもしれないが、侮るなかれ。オズの操縦というは乗ってみないとわからないことだが、過酷な環境での重労働なのである。

 常に手先は動かしてなければならず、その動きには細心の注意が必要。敵の動きを追うため目も酷使すれば、頭も使う。

 何よりオズ同士・オズの武器同士がぶつかり合うことによって起きる衝撃が操縦者にはもろにくるのだ。如何に緩衝素材で覆われており、さらには安全性の高いパイロットスーツを着ていたとしても軽い怪我など日常茶飯事だ。元々が軍事目的につくられたモノであり、これに乗って命のやりとりをしていたのだから当然といえば当然だが。

 ブルーダーは訓練生向けに開発された機体なので安全性、操縦性、そして居住性も高く、デチューンするまでもなくバジーレに適応するように出力を抑えられた機体なのだが、それでもコックピット内部には熱が籠りやすいし、これからの時期は熱中症などにもなりやすい。それに弱った身体は風邪などのウィルスも取り込みやすい。


 特にこの面子はそういった過酷な環境に慣れていない整備科勢が多い。病欠や急なメンバー交代は視野に入れることが必須なのだ。


 それについては十二分に話し合う必要があるし、それ以外にもクラウディアが挙げた残り二つについては新人戦の要なのでしっかりと話しあっていかなくてはならない。


 だが、とレイナード。


「そういう話は帰ってきてからでもいいんじゃないか?」

「うーん、出来れば休暇明けに問題を先送りにしたくないんだけど」

「まぁまぁ、そういう固いことはいいっこなしだよ、クラちゃん。 折角の休みなんだから!」

「……そういうものかしら」


 クラウディアがその言葉を受け入れて、さぁこれで解決だとなりかけた時、


「おい、お前ら一体何のハナシしているんだよ?」


 会話の意味がわからない、とジョルナンが首を傾げる。

 何故休日明けにするのかという意味がわからない。クラウディアが言うように問題は先送りにせず、早い段階で解決すべきではないだろうか。


「ん?」

「え?」

「ほぇ?」

「は?」


 しかし、そんなジョルナンこそ「お前何言ってるの?」という目で見られている。

 そこで気がついたのはみんなの良心こと聡いマルフリーだった。


「あっ、そうか……ジョルん家って大和だから」

「あー」

「そっかー」

「成程」


 その言葉で合点がいったとレイナード他数名が納得している。まぁ、中には「え、なによ? なんなのよ?」と未だによくわかってない者もいるようだが。

 当のジョルナンもまだわかっていない様子なので、マルフリーはなぜ休日になるのかを簡潔に、一言で表した。


「今週末からイースター休暇なんだよ」


 ゲルマンシュバルトの多くの国民はナザレ教徒のため、この学園でもそのお祝いにあった祝祭日をとっている。

 そして四月の終わりにはナザレ教における神の子の誕生祭――イースターがあるため四日間の休暇となる。

 マルフリーの言葉を聞いて、やっと理解することが出来た様子のジョルナン。どうやら大和国出身のジョルナンはイースターなど覚えていなかったらしい。


「大和って変わってるわよねー。クリスマスやバレンタインとかいうイベントはやるのに一番大事なイースターをやらないなんて」


 そんなジョルナンを茶化すようにアイナ。

 特にナザレ教徒が多いわけでもないのにバレンタインやクリスマスなどのイベントは盛んな大和国だが、何故かイースターはあまり普及していない。


「あれはもはやイベントとして楽しんでるだけだからな。多分俺ら大和国民は世の中で科学者の次に信仰心がねぇ」


 聞く者が聞けば怒りだしそうな台詞も、しかしあっけらかんというジョルナン。その気負いのない姿勢に本当にそういう国なんだな、とレイナードは少し驚いた。


 しかし、云われて見れば、という気もする。


「オズもちょっと変わっているしな」

「まぁな」


 大和国にも純国産のオズがある。

 御伽重工が社名を掲げ展開するオズブランド“OTOGI”シリーズだ。

 その名の通り、機体名は大和に伝わる御伽草子をモチーフにしながらも、機体自身はテレビアニメに登場してくるロボットをモデルとしているというなんともちぐはぐさ加減。しかも能力や操縦性よりもコックピットの居住性を重視したり、現在ではデメリットのほうが圧倒的に多いためどこのメーカーも開発どころか研究もあまり進んでいない可変型ロボットの開発にも着手しているという独創性。

 その仕様からガラパゴスロボットなどと揶揄されることもある。


 しかし、そんなスーパーロボットのような機能は様々な特許と新たな商品開発を生み、御伽工業はオズ部門では赤字続きだが他の部門が右肩上がり。 オズメーカーとしては二流処だが、電子機器・玩具メーカーとしては世界有数の企業なのだから世の中とはわからないものだ。


「しっかしそうか、イースターか……。けどなー、それで実家に戻ってもなー」


 脱線しかけていた会話がジョルナンの独り言のような呟きによって再びイースターへと戻る。その呟きを耳にしたマルフリーがジョルナンの気分を察して言葉をかける。


「まぁ、今から欧州外へ渡航する準備となるとね……」


 オズは各国でハイレベルな機密情報になる。

 そのため、産業スパイなどを警戒して学園を離れる際には厳重なチェックを受ける。特に欧州外への出国となると馬鹿みたいに長時間拘束され荷物をひとつひとつ点検されたりと面倒臭いのである。


「一応こっちにはじぃちゃんがいるけどじいちゃんも大和人だし、イースター関係ねぇだろうな……」


 いきなりいったらびっくりするかもしれないし……さて、どうするか。

腕を組み考え込む友人に手を差し伸べたのはやはり空気の読める優しい男マルフリーだった。


「じゃあ、ウチにおいでよ。ウチも実家は海外だけど欧州内だし」

「いいのか? 俺はよく知らないがそういうのって家族の行事なんじゃあないのか?」

「よそはどうだか知らないけど別にウチはそんなことないかな。付き合いのある人達を招くっていうのもよくあることだし、僕としても友達にいてもらったほうが気が休まるし」

「でもよ……」

「それに僕と兄さん達だけじゃ食べきれないほどの食事を母さんが作るから、1人でも多い方が有り難いんだ」

「……わりいな。じゃあ、言葉に甘えて」

「卑しいやつ」

「んだよっ!」

「ナニよ? 本当のことでしょう!?」


 食事につられた(風に見える)ジョルナンを笑うクラウディア。それに牙をむくジョルナン。

 いつもの調子で犬猿の仲の二人が言い争いを始めた。

 この2人はこうして顔を合わせる度にいがみあっている。喧嘩するほどという奴だろうか?

 まぁ、なんにしても打ち解けているのは良いことだ。


「で、お前らはどうすんだよ?」


 レイナードがチーム内の雰囲気を分析している最中、ジョルナンが残りのメンバーに話を振った。誰か一人に対する発信ではなかったが、自分に向けられたものだと信じて疑わない人物がまず最初に声をあげた。勿論クラウディアだ。


「アタシ? アタシはゼアドールの家でお世話になるわ」

「家には帰らないのか?」


 話を聞いた限りではクラウディアは欧州内の人間だったはずだ。ジョルナンのような理由があるとは思えない。

 そういうと彼女は肩を竦め、


「ここに入学する時に反対されて、勘当同然で出てきたから帰りづらいのよね。お母様は帰ってこいって言ってるんだけど、いまのところ私は帰るつもりはないわね」

「おかげでこっちはいい迷惑だがな」


 本当に迷惑そうに、そう溢すゼアドール。

 それでも断りきれないのは彼の性分なのか、それともそれ以外の何かがあるのか……。

 そんな邪推が頭を支配することを嫌ったレイナードが残りのメンバーへと促す。


「アイナは?」

「私はいつも通り家族と過ごすよ。そうしないとパパ泣いちゃうし。そういうレイナードは?」

「オレとナターシャは孤児院に帰るつもりだよ」

「あぁ、そういやそんなこと言ってたな」


 聞いた覚えがある、とジョルナン。


 ナターシャの言葉により色々と見つめ直そうと思ったレイナードは当初、1人で里帰りするつもりだったが、ちょうどイースターの季節ということでナターシャと一緒に帰省することにした。


「お金も時間もかかるしどうしようかと思ったんだけどな」


 レイナード一人ならば、長期休暇の時にでも深夜バスや鈍行列車を乗りついで行けばいいと思っていた。それならば時間はかかるが安くすむ。

 しかしイースター休暇は三日間だ。そんな悠長なことをしている時間はない。


 やはり今回は見送ろうかと思っていたところ、


「で、でも久しぶりだし……っ! 帰るべき、だよっ!」


 そんな風に珍しく強い口調で今回の帰省を薦めてきたのはナターシャだった。

 そんな彼女の必死さがなんだか可愛らしく、ふっと笑みを浮かべるレイナード。


「まぁ、何よりイースターだしな。顔を出すのも悪くない」



 それに四か月ぶりの帰省が、楽しみでないといったら嘘になる。




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